サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 人種差別と【BLM】の現実を撃つ本

――コロナ禍のアメリカで、白人警官が黒人男性を殺害した事件をきっかけに大きなうねりとなった抗議運動「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」。全米各地で暴動や略奪行為も起き、さらに運動の波は世界に拡散した。なぜ、人種差別はなくならないのか。黒人は何に怒っているのか――。こうした疑問に答える本がある。

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6月、ニューヨーク・マンハッタンで行われた抗議デモで声を上げる女性。怒りに満ちた表情だ。(写真:Ira L. Black/Corbis via Getty Images)

 去る5月25日、米ミネアポリス近郊でアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人警官の不当な拘束方法により殺害される事件が発生した。この事件を機に、ブラック・ライブズ・マター(以下、BLM)と呼ばれる大規模な抗議運動が全米に広がり、それはヨーロッパやここ日本にも波及した。この運動は、なぜここまでの盛り上がりを見せたのか? BLMとかかわりの深い本を読み解きながら、その本質に迫りたい。

「BLMの大きな課題として、アメリカにおける人種差別の克服があります。法的な差別は、1950~60年代にかけて行われた公民権運動の成果である公民権法(64年)と投票権法(65年)で撤廃されたものの、現実的な差別はまだ残っている。これを公民権法が徹底されていないと見るのか、そもそも公民権法自体に限界があったと見るのかで立場が変わってきます」

 そう語るのは、『移民大国アメリカ』(ちくま新書)などの著書がある成蹊大学の西山隆行教授。

「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が有名な演説『I have a dream(私には夢がある)』でアメリカ独立宣言の一部『all man are created equal(すべての人間は平等につくられている)』を引用したように、公民権運動の基本理念は肌の色を問わずすべての人を個人として平等に扱うことであり、それはアメリカの基本原理=個人主義でもあります。しかし、現実的に黒人は個人として認められているのか。認められないのだとすれば、黒人という集団として救済されるべきだという問題提起が、ブラック・ナショナリズムやアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)などの議論につながっていきました」(西山氏)

 このような黒人の問題の複雑性を理解するにあたり、『マルコムX自伝』【1】は現在でも有効だという。

「マルコムXは言わずと知れた公民権運動の活動家ですが、その活動の初期と後期で立場に変化が見られます。もともと彼は分離主義的な立場から出発し、黒人という集団単位で差別を克服することを目指していました。また、キング牧師が『I have a dream』と言ったのに対して、マルコムXは『I see an American nightmare』――つまりアメリカにあるのは悪夢だとまで言っています。それが、最終的にキング牧師の個人主義に接近していく。マルコムXは人種問題について一生をかけて悩み続けた人で、そんな彼の苦悩を通してアメリカにおける黒人の特殊な位置づけが見えてくるはずです」(同)

 その「黒人の特殊な位置づけ」を、父から息子への手紙というスタイルで詩的に語ったのがタナハシ・コーツの『世界と僕のあいだに』【2】であり、哲学者・政治思想家の立場から考察したのがコーネル・ウェストの『人種の問題 アメリカ民主主義の危機と再生』【3】である。

「アメリカ社会には個人の努力だけでは克服できない構造的な問題が横たわっており、黒人として生まれた以上、個人として白人と平等には扱われない。いずれの本も、アメリカで今なお残る白人優越主義が黒人に及ぼす影響をわかりやすく伝えています」(同)

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