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「ファンキー・ホモ・サピエンス」【66】

【ブラック・クランズマン】「黒いKKK会員」映画に思うファンクとディスコの70年代

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『Classic Masters』Cornelius Brothers & Sister Rose(販売元:EMI)

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カーターとエディのコーネリアス兄弟と姉(?)ローズ、のちには妹(?)ビリーも加入したグループ。71年のヒット「Treat Her Like A Lady」に続いたのが、72年のミリオンセラー「Too Late To Turn Back Now」だが、以降は目立ったヒットもなく76年に解散。つまり、彼らの曲自体が70年代前半ムード演出の小道具だ。

 試写会は好きだが、“試写会場”は嫌いだ。頭の悪い映画ライターたち、もしくは、そろいもそろって冴えない外見のオッサンたちが集う場所だから。そして時折、臭うし。だが、こんなテーマの映画だ。人種差別に対する感度が限りなく低い――そして、ごく正当に高須院長を「ナチ」と形容した村本大輔(ウーマンラッシュアワー)のほうが「だめだ、この人」と言われる――日本では、これに注目する業界人は長谷川町蔵と丸屋九兵衛くらいだろう……と踏んだ私。しかし実際に行ってみると、めちゃ混んでいた。さすが、腐ってもスパイク・リーやな。腐ってへんけど。

 というわけで、その映画とは『ブラック・クランズマン』である。

 監督はスパイク・リー、プロデューサーは『ゲット・アウト』の――おかげで無知な日本の映画ファンにも知られた最高のコメディアン――ジョーダン・ピール。ロン・ストールワースという黒人男性(元刑事)が2014年に出版した回想録を映画化したものである。

 このロンさんは、1953年生まれ。70年代、コロラド州コロラドスプリングス市で刑事だった。ある日、地元新聞で見かけた「クー・クラックス・クラン会員募集」という広告に軽い気持ちで応募。入会案内か何かが送られてくるだろうと思ったら、KKKの地元支部長から折り返し電話が! 「会って話そう」と言われたので、同僚の白人刑事を代役に立てる。こうして彼らは二人三脚でKKKに潜入していくのだ……。

 恐るべきは、これが実話だということである。

 この映画『ブラック・クランズマン』の舞台は72年だ。それを象徴するように、劇中でテーマソング的に繰り返し使われるのは、同年にコーネリアス・ブラザーズ&シスター・ローズが放ったヒット「Too Late To Turn Back Now」である。そして劇中には、『シャフト』『スーパーフライ』『クレオパトラ・ジョーンズ』といった70年代前半の風物詩的な黒人アクション映画あれこれ――いわゆるブラックスプロイテーション――の話題も出てくる。

 だが、実際には!

 ロン・ストールワースが実習生としてコロラドスプリングス署入りした時期こそ確かに72年だが、初の潜入捜査経験となったストークリー・カーマイケル演説会は75年。肝心のKKK捜査は78年から79年にかけての出来事なのだ。

 この改変はなぜ?

 アメリカ激動の時代だった60年代は、とても熱く、やたら長かった。その直後の72年は、いわば「延長された60年代」のようなものだ。だから、ウォーが「世界はゲットーだ!」と、スティーヴィー・ワンダーは「迷信」を歌い、スタックス・レコーズがロサンゼルスで開催したチャリティコンサート『Wattstax』ではアイザック・ヘイズが熱狂的に崇拝された。

 だが、舞台が78年ともなれば? 時代はもうディスコが一大ムーブメントである。カッティングギターを弾きまくるナイル・ロジャースがヒットの中心を狙っている。Pファンク軍団も、パーラメントではなく、ファンカデリックによる軽快な「One Nation Under A Groove」をヒットさせた。翌79年にアース・ウィンド&ファイアーが放つのが、ご存知「Boogie Wonderland」と「After The Love Has Gone」の2大薄味ヒットである(後者はデヴィッド・フォスター作曲だぞ)。

 ご覧の通り、この映画化はロンの回想録そのままの再現でなく、いくつかの脚色が施されている。「ドンパチの追加」「相方刑事を白人からユダヤ人に」という変更も大きい。だが「音楽から見えてくる風景」という観点で言えば、「実話=78~79年、映画=72年」という落差が意味するところは決定的なのだ。

 劇中には、いつぞやビヨンセ&ジェイ・Z夫妻を「社会的責任を果たしていない」と的確に評したブラック・アメリカの生き証人にして良心、91歳となったハリー・ベラフォンテが登場し、「ブラック・パワー」を語るシーンがある。そんな場面の背景がディスコ全盛期では、やはりそぐわないのだ。スパイク・リー一流の演出といえよう。

まるや・きゅうべえ
サイト『bmr』編集長。恋愛リアリティ番組『京都恋検定』出演中。3月2日(土)深夜と3月9日(土)午後に関連イベント『京都“裏”検定』を敢行! ツイッター〈@QB_MARUYA〉

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