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第1特集
ファッション系メディアの勝者と敗者【1】

ハニカムの独り勝ちと雑誌社の迷走……ファッション系ウェブメディアの明暗

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――各ファッション誌の名を冠したウェブサイトがある一方、ウェブを主体として展開するファッション系メディアもあり、今やネット上にはさまざまなタイプのファッションに関する媒体が存在する。しかしながら、それらすべてが高いPV数を記録し、多くの広告に支えられているわけではないという。では、その成否の分かれ目は、どこにあるのか?

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「honeyee.com」「.fatale」を運営するハニカムが創刊した女性ファッション誌「RDV」。コンセプトは「思考するモード誌」だという。

 今年3月、「RDV」という名のファッション誌が創刊された。全218ページの誌面に広告はゼロで、1冊1944円という強気な価格設定。発行部数は1万部に遠く及ばないそうだが、内容に関してファッション業界内の評価は上々だという。その発行元であるハニカムは、月間PV数1600万を誇る国内最大級のファッション系ウェブマガジン「honeyee.com」などを運営する株式会社。出版不況のさなか、社員10人程度の同社は、なぜそんな雑誌を立ち上げたのか? まずは「honeyee.com」のあらましから話を始めたい。

 2005年開設の同サイトは、“裏原”直撃世代の男性がターゲット。ファッション/カルチャー界の著名人を、設立者の1人である藤原ヒロシ氏や、元「smart」(宝島社)編集者の代表・鈴木哲也氏らの人脈を使い、ブロガーとして集約しているのが特徴だ。当初こそ収益に結びつかなかったと聞くが、次第にブログが話題となってPV数が伸び、12年には広告収入だけで黒字化。ある広告代理店社員はこう話す。

「『honeyee.com』は広告出稿主をスターバックスやナイキ、NTTドコモなど大企業に絞ることで、安っぽくないイメージをつくり上げました。また、ハニカムが11年に開設した女性向けサイト『.fatale』には今、シャネルやグッチなどが広告を出している。数年前まで外資系ラグジュアリー・ブランドはウェブを敬遠し、当初『.fatale』にも服を貸さなかったそうですが、同サイトが初めてウェブでエルメスを特集し、事態が変わった。まあ、ああいうブランドは前例がないことをやりたがらないんですけどね」

 そして13年10月、ハニカムはeコマースの総合商社・アラタナに株式譲渡し、藤原ヒロシ氏、ファッションブランド〈SOPH.〉の代表・清永浩文氏、同じくファッションブランド〈visvim〉のデザイナー・中村ヒロキ氏という「honeyee.com」の発起人たちが経営から退く形で、新たなスタートを切った。事情を知るファッション誌編集者はこう話す。

「株式譲渡の1カ月前、アラタナはドコモ・イノベーションファンド投資事業組合などから総額5億5000万円の資金調達をしたそう。このM&Aで『honeyee.com』の発起人たちには出資金以上の見返りがあったとか。その後もハニカムとの関係が良好な彼らは、『honeyee.com』の記事に登場したりしています」

 実際、今年3月にハニカムはオンラインストア〈JUST LIKE HONEYEE〉をオープンし、「売り上げは好調」(前出・編集者)のよう。とすると、雑誌「RDV」を出したのは、採算を度外視した“話題づくり”なのか。ともかく、ウェブの広告収入や今回の買収でその余裕があるのは確かだろう。

ニュースメディアの不安定なビジネスモデル

 そんな「honeyee.com」だけでなく、ウェブ主体のファッションメディアはほかにもある。04年に創刊した「HOUYHNHNM(フイナム)」は、メンズ・ファッションを中心にポップ・カルチャーを紹介する媒体。「honeyee.com」と似た点もあるが、運営会社のライノはもともとストリート系雑誌の編集プロダクションだったこともあり、開設当初からファッション業界との関係は濃かった。前出の広告代理店社員はこう話す。

「自社ビルにスタジオがあるライノは、広告コンテンツの制作に長けていて、仲のいいブランドのカタログやウェブサイトの制作もしてきた。さらにアパレル事業も展開し、06年に開始したブランド〈ホワイトマウンテニアリング〉は海外コレクションにも参戦中」

 そんなライノは、11年にオープンした女性向けの「GIRL.Houyhnhnm」が約1年で閉鎖するなど迷走期もあった。ただ、前述のようにウェブメディア以外の収益により、「HOUYHNHNM」自体はこの10年持ちこたえたのだ。

 もうひとつ、「honeyee.com」や「HOUYHNHNM」と性質が近いウェブマガジンに、06年開始の「OPENERS」が挙げられる。顧問に坂本龍一氏、役員にスタイリストの祐真朋樹氏らが名を連ね、ファッションブランドのオーナーも個人出資しているというが、目につくのはファッションのほか自動車やジュエリーなどのタイアップ広告と丸わかりの記事ばかり。これではファッション感度の高い若者には物足りないのではないか。前出の広告代理店社員はこう話す。

「『honeyee.com』『HOUYHNHNM』『OPENERS』の中で、広告主からダントツで人気なのは『honeyee.com』。PV数がほかの2媒体とは3倍以上違いますから。特に小規模な『OPENERS』の名が挙がることは減っている」

 一方、ウェブ主体の媒体では速報性に特化したニュースメディアもあり、その筆頭といえるのが「Fashionsnap.com」だ。全国のファッション・イベントやコレクションに記者を飛ばし、多くのニュースをどこよりも速く配信することで知られ、ツイッターのフォロワー数はファッション系メディアで最も多い約30万。ほかにも「modelpress」や「FASHION HEADLINE」など同類のニュースサイトがあるが、それらの収益モデルについて、あるITディレクターはこう語る。

「ニュースメディアの多くは、自社のバナー広告をアドネットワーク【注:ウェブやアプリなど広告媒体を多数束ねてネットワークを形成し、数多くのウェブサイトに広告を配信するサービス】に託し、第三者が売った分だけレベニューシェア【注:複数の企業が1つの事業を提携して実施し、そこから得られる利益をあらかじめ決めた配分率で分け合うこと】で収益が入る構造。また、ヤフーニュースなど編集能力がない大手ポータルサイトにニュースやストリートスナップの画像を販売したりしていますが、それら以外の収益はあまり耳にしません。独自の視点がないため広告タイアップをしづらいですし、ビジネスモデルとしてはまだ不安定といえるでしょう」

大手出版社が苦戦するファッションメディア

 では、ファッション誌のウェブ版はどんな状況か? その中で二大巨頭といえるのが、モード系の「VOGUE JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)と「ELLE ONLINE」(ハースト婦人画報社)。別の広告代理店社員はこう話す。

「どちらの名もラグジュアリー・ブランドが広告出稿を検討する際に挙がりますが、月間PV数1700万の『ELLE』のほうがウケがいい。なにせPV数1100万の『VOGUE』より広告料金も安いですから」

 あるファッション・ライターは次のようにも加える。

「コンデナストでは10年から12年まで、現在LINEの役員である田端信太郎氏が各誌のサイトのテコ入れをしていました。でも彼は、ファッション系広告の知識が全然なかった。たとえば、アウディのタイアップ企画では、いろんな女優を起用し、『VOGUE』本誌とウェブを連動させたりしていましたが、とにかくセンスが悪くて読者の反応が全然なく、大失敗した」

 ともあれ、現在の「VOGUE」はPV数が安定し、広告も入るようになったが、先述したように「ELLE」には水をあけられている。その「ELLE」についても、「本誌とウェブ版の編集部が別々になっているのに加え、ウェブのデザインを外注しているので、本誌との統一感がない」(前出・ライター)。また、モード系にくくれる媒体には「SPUR」(集英社)もあるが、「広告出稿の候補に挙がっても、規模が小さいので結局は『ELLE』か『VOGUE』に決まることが多い」(前出・広告代理店社員)という。

 そんな「SPUR」をはじめ「MORE」「nonno」などを抱える集英社は、同社の女性誌をまとめた情報サイト「HAPPY PLUS」を展開するが、「媒体単体のPV数が少なく、多くの広告出稿は望めない」(同)。小学館も昨年秋に「CanCam」「Oggi」など9誌のコンテンツを使った「Woman Insight」を開設したが、「『modelpress』と色合いや構成がほぼ一緒。その意味で業界内で話題になりましたけど(笑)、『Woman Insight』の名前が広告主から挙がることはあまりない」(同)とか。

 あるいは講談社の場合、「一昨年あたり、ウェブ専門の人材をよく中途採用していました。でも、それでファッション誌のウェブ版は成長していない」(同)。現に、「ViVi」「with」など女性誌を集めた「JOSEISHI.NET」は、「HAPPY PLUS」「Woman Insight」よりも規模の小ささを感じさせる。

 大手出版社がこうした動きをするなか、奮闘しているように見えるのが「NYLON.JP」(カエルム)。ただ、ウェブサイトというよりSNSに注力しており、フェイスブックでは14万のフォロワーを抱える。その数字は「VOGUE」や「ELLE」のフォロワーよりも大きい。また、読者がInstagramを用いたスナップをウェブや本誌に投稿する企画を行うなどして、流行感度の高い女子たちの取り込みを図っているが、「実は、スナップは、かわいい子やオシャレな子にかなり厳選して掲載している(笑)。ウェブの担当者はスナップをせっせと切り貼りしてまとめページをつくったり、本当に大変そう……。しかも、フェイスブックやInstagramの展開自体、まだマネタイズはできていない」(同)。

 今後こうした展開がカネを生むか見守りたいが、先述の「honeyee.com」のようにeコマースに取り組む媒体も。そのほかに「ELLE」の〈ELLE SHOP〉、「OPENERS」の〈rumors〉、集英社の〈FLAG SHOP〉、「Safari」(日之出出版)の〈Safari Lounge〉などがある。

「09年に住友商事の出資で立ち上がった〈ELLE SHOP〉は、商品の仕入れも十分で、成功しているといえます。ほかも月間で数千万円の売り上げはあると聞きますが、物流の問題をクリアにできなかったり、まだeコマースに力を入れきれていない印象です」(同)

 ここまで見てきたように、ファッション系ウェブメディアの中では「honeyee.com」がほぼ独り勝ちであり、それ以外はウェブでのマネタイズを十分にできていない状況だ。いや、マネタイズする気がないようにすら思える目的不明の運営社も多いような……。

(文/メコン伝太)

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