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第1特集
付録がなければ雑誌は売れない!【1】

付録がなければ雑誌が売れない!? 出版社が怯える付録チキンレース

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──雑誌が生まれた頃から、ときには販促物として、ついてきた付録。雑誌が 売れない昨今ではこうした付録の超クオリティ化が話題になることもしばしばだ。ただし、こうした付録雑誌には、メディアとして、そしてビジネスとしてさまざまなジレンマがあるという……。

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付録は、こんな風に封入。

「雑誌の付録」といえば、ハサミやのりを使って組み立てる紙工品や、学研の「学習」「科学」をイメージする世代も多かろう。しかし現在、雑誌付録の主流は、例えば「大人の科学マガジン USB特撮カメラ」【1】のような大人向きの完成品や「Oggi」【2】の万年筆など、ブランド雑貨やデジタルグッズといった、単体で買えばそれなりの値段がつきそうな実用品である。

 なかでも女性誌の付録競争は、年々熾烈さを極めている。雑誌の発売が集中する毎月25日前後には、書店店頭で各誌の場所取り合戦が繰り広げられ、付録一覧を掲示する書店も少なくない。魅力的な付録は、売り上げを大きく押し上げるからだ。

 有名ブランドとコラボしたポーチや「MAQUIA」【3】のようなスキンケア試供品などの付録で、人気が高い号はあっという間に売り切れるばかりか、付録だけを引っこ抜くタイプの万引き被害も段違いに多いといわれている。また、アマゾンに付録だけ抜き取ったユーズド商品が二束三文の価格で売りに出されるかと思えば、逆にヤフーオークションに付録だけが出品されることも。「売れ残った買い切り商品の付録を書店員がこっそり持ちだして、ヤフオクに出品……という説もまことしやかに囁かれています」とは、書店と取次事情に詳しい、業界歴20年のベテランA氏の言葉だ。

 逆に言えば、各誌がいかに実際のファッショントレンドをキャッチアップし、人気のブランドとコラボできるかで、売り上げの明暗が分かれるのだ。付録雑誌を徹底的に購入しレビューしている「ききらら☆雑誌付録レビュー」のききらら氏(「最強の雑誌付録レビュアーが選ぶ雑誌付録オブ・ザ・イヤー2013」参照)によると、2013年の女性誌付録は、「春夏ではネオンカラー、ストライプ柄、クラッチバッグ。秋冬ではチェック柄、キルティング素材、ツイード素材が流行した」という。また、「前年にはなかった、「リンネル」【4】「Mono Max」【5】など宝島社の雑誌が展開した、お札を入れやすいコインケースつき長財布や、斜め掛けできるショルダーバッグの初登場は2013年の特徴」と言えるそうだ。一方、男性誌のエポック付録は、例えば「smart (スマート)」【6】についていたミリタリーウォッチや、スマホ用ビニールケースなど。かつての紙工品を思い浮かべれば、雑誌の付録とは思えないものばかりである。

「ここ3~4年、付録競争は激化し、とにかく高級品だったり、単価的にも高額なものを付けようとしている。裏を返せば誌面の企画性ではなく完全にモノに雑誌を付けて売っている状態です。メディアとしてみたら末期症状ですよ」と前出A氏は呆れ気味に語るが、売り上げが下がる一方の出版社にとっては、背に腹は代えられない事情がある。付録付き雑誌は、この状況を救うカンフル剤にも等しいのだ。

 しかしこの付録ビジネス、いくつかの深刻な弊害が生じているのである。

「付録は麻薬」雑誌付録のダークサイド

 ひとつ目の弊害は、書店の負担だ。

 付録には、表紙と同じサイズの箱状収納ケースを本と一体化させる「別添(べってん)」と、本に挟み込むタイプの「綴じ込み」という2種類の形状があるが、この「綴じ込み」がクセモノ。綴じ込み付録の雑誌は、本と付録が分離した状態で書店に届くため、書店員が手作業で挟み込み作業を行わなければならないのだ。

 特に女性誌は発売日が集中しているため、その時期に書店が負担する作業量たるや半端じゃない。「日書連(日本書店商業組合連合会)は、01年の規制緩和(上記参照)からずっと『なんで俺たちがやらなきゃいけないんだ。その分、出版社は掛け率(卸値)を下げて補填しろ』って言ってるんですが、出版社側は『付録のおかげで売れるからいいじゃないか』と主張しており、双方の言い分は平行線です」(A氏)。

 2つ目が、出版社自身のキャッシュフロー問題である。

「付録商売は麻薬です」

とショッキングな一言を漏らすのは、自身も付録付きムックの制作経験がある編集者のB氏。

「ブランドムックやそれに類する商品は1冊あたりの単価が高く、発行部数も通常の雑誌よりずっと多い。本は委託商品で、書店で売れなかった分は出版社に戻ってきてしまうので、返本リスクが通常の雑誌の何倍もあるんですよ」(B氏)。

 もともとヒットを狙って多く発行するためにそのリスクは高い。例えば、1冊2000円のムックを10万部作って7万部しか売れなかった場合、3万部が出版社に戻ってくる。いくら7万部売っていても、3万部も戻ってきたらそれだけの損失を抱えることになり、販売営業的には「悪夢」と言っても過言ではない。その出版社は、3万部分の損失を穴埋めするために、同価格・同部数の付録付き商品を毎月のようにどんどん発売して、とにかく現金を回す必要が出てくる。要は自転車操業に陥ってしまうのだ。

 しかし、なぜ穴埋めをするのが、同じ付録付きムックでなければならないのだろうか?

「人気のブランドムックは売れるので、何十万部単位で発行するんです。ただ、発売して一発当たればいいが、逆に返本が10万部単位ということもあり得る。これを一般的なカルチャー系雑誌、例えば1冊1000円程度、発行部数1万数千程度のもので埋めるためには、いったい何冊作らなければならないか。付録ムックの補填は付録ムックでしか成り立ちません」(B氏)

 一度でもこの旨味を味わったが最後、このサイクルからは抜け出せない。まさに麻薬なのである。

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