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丸屋九兵衛の音楽時事備忘録「ファンキー・ホモ・サピエンス」【3】

ゲットーと少林寺の絆! 真説、米黒人(ハート)カンフー

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人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が“地・血・痴”でこの世を解きほぐす。

『アイアン・フィスト』

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オリジナル・サウンドトラック(発売元:SMJ)
カンフー馬鹿一代ことRZAの総指揮によるサウンドトラックは、ハードなヒップホップをメインに、ところどころR&Bを交えた構成。ウータン・クランによる曲“Six Directions of Boxing”は、元祖Old Dirty Bastardことユエン・シャオティエン出演のマイナー映画『六合八法』にヒントを得た……ってなんのこっちゃい! とにかくこだわりの一枚。


 クエンティン・タランティーノ・プレゼンツと銘打たれた異色のカンフー映画。それは、本国アメリカでは昨年11月公開済みなのに、ここ日本では8月3日にようやく封切られた『アイアン・フィスト』だ。異色と呼ぶ所以は、同作の主演&監督&脚本&音楽を担ったのが、ラッパー/プロデューサーであるRZAことロバート・ディグズだから。音楽はともかく、主演監督脚本を兼任とは無茶である。元ラッパーでもウィル・スミスあたりなら主演と総指揮の兼任も不思議ではないが、RZAはまだまだ音楽メインの人だし、知る人ぞ知る存在だ。

 とはいえこの件、ヒップホップ畑では「異色」ではなく「必然」と受け止められている。というのも、この界隈では「RZAといえばカンフー」だから。

 彼が頭角を現したのは1993年。イトコや同郷の仲間と組んだ「ウータン・クラン」という9人組でデビューしたときである。初アルバムは『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』。邦題が『燃えよウータン』とされたことからもわかるように、そのタイトルは『燃えよドラゴン』こと『Enter the Dragon』のモジリだ。副題の(36 Chambers)も、同じくカンフー映画『少林寺三十六房』に由来する。そもそもグループ名自体、よりマニアックなカンフー映画『少林與武當』に登場する武術の一派「武當(ウータン)派」のこと。RZA曰く「拳法ではなく言葉が武器だが、スキルを競うという点でラップとカンフーに違いはない」。つまり、ウータン・クランとRZAは、アーティストとしての存在そのものがカンフーに根ざしているわけだ。

 ……とまあ、ここまでは、90年代ヒップホップをちょっと齧ったヤツなら知っていること。だがワシは、ヒップホップ小僧どもがウータン・クランばかりを特別視することに、違和感を覚えてきたクチだ。

 ウータン登場の約20年前、70年代前半の黒人音楽界を見てみよう。ポップス的な3分間フォーマットを脱し、意識の高い歌詞と実験的な曲調をアーティスト自身が作り上げるというサブジャンル「ニュー・ソウル」が盛り上がっていた。代表格がカーティス・メイフィールド。その彼には、ずばり Kung Fu という曲がある。「誇り高く、強く生きよ」との思いから、母に「カンフー」と名付けられた黒人少年が主役の名曲だ。そう、黒人のプライドとカンフーが結びついて歌われるのである。

 そのニュー・ソウル全盛期から数年後、70年代後半に芽吹いたのがヒップホップという文化だ。そこにもカンフー要素は散見される。たとえば、ヒップホップ黎明期のDJは、往々にして「グランドマスターなんちゃら」と名乗っていた。このgrandmasterという単語、実はカンフー用語の師傅(スィーフーと発音。「お師匠様」の意味)の英訳なのだ。ステージ後方からラッパーを見守る自分を「師匠」に模していた、となろうか。また初期ヒップホップで特に目立っていたのはブレイクダンスだが、このダンスにもカンフーのアクロバティックな足技が取り入れられている。

 なぜ、彼らはこれほどまでにカンフーを愛してきたのか? 当時を語る資料によれば、70年代の米黒人にとって地元劇場でのカンフー映画鑑賞は日常のひとコマだったという。地方政府や白人(時に日本人)の横暴に耐えた末に怒りの鉄拳を爆発させるカンフー・ヒーロー。体制に苦しめられて日々を過ごす黒人大衆が、そこに自分たちをダブらせたのも無理からぬところだろう。戦後日本にとっての力道山プロレスが、彼ら黒人にとってはカンフー映画だったのだ。そのカンフー熱はブルース・リーの衝撃直後の70年代に最も熱かった。ウータン・クランはむしろ、遅れてきた世代と言えようか。

 そうそう、彼ら黒人のカンフー愛は、時に我々の予想を軽く超える。たとえば、ウータン・クランの中でも突出した人気を誇りながらも04年に死去したラッパー、Ol’Dirty Bastard。変な名前だが、これはジャッキー・チェンの『酔拳』に由来する。同作に酔っぱらい拳法の達人にして小汚い老人が登場したろ? あの老人の、英語圏での通称がOld Dirty Bastardなのだ! その名でラップするとは、なんというセンス! これを思えば、やはり『アイアン・フィスト』は必然だったのかも知れんな。

まるや・きゅうべえ
老舗ブラックミュージック雑誌あらためウェブサイト『bmr』の編集長だが、分野外の無駄な知識が膨大で「ダークサイドの池上彰」と呼ばれる。自慢はコスプレ歴と、荒俣宏のサイン。

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