サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 【殺人事件本】から読み取る 日本社会に潜む犯罪の根底
第1特集
凶悪事件を考える本【1】

尼崎連続変死事件と北九州連続監禁殺人事件の"点と線" 殺人事件本の裏側に学ぶ

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──昨年、日本を騒がせた凶悪犯罪というと、多数の被害者を出した尼崎事件と六本木クラブ襲撃事件ではないだろうか。この2つの事件の根底にあるもの──それはそれぞれ、家族問題に対する民事不介入、半グレ。それらの問題を探るべく、今読み返すべき“アノ”事件本の裏側に迫った。

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埼玉愛犬家連続殺人事件をモチーフにした映画『冷たい熱帯魚』

 編集者からのたっての依頼だから引き受けたものの、本当なら「猟奇殺人」を扱った本を読むのは、なるべく避けたいと思ってきた。今回、『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』【1】を読んだことで、しばらくは類書を手に取ることはないだろう。

 しかし苦手ではあっても、毛嫌いしているわけではない。むしろこの手の本が、丹念な取材に基づくノンフィクションとして存在することには、社会的に大きな意義があると思っている。

 死体を切断し、切り刻み、肉片を鍋で煮込んでミキサーで液状化し、公衆便所に流す。粉々にした骨や歯を味噌といっしょに団子状に固め、夜更けのフェリーから投下する──。

 主犯の松永太は最初に監禁した男性を虐待死させた際、内縁の妻である緒方純子と男性の実の娘にこのように指示し、事件の痕跡を巧みに消してしまった。緒方の家族らの死体も、同様の手口で遺棄している。

 酸鼻かつ確信的な犯罪という点でいえば、埼玉愛犬家連続殺人事件【編註:1993~95年の間に起きた、ペットショップ「アフリカケンネル」経営者たちによる計4人の失踪殺害事件。11年に園子温監督によって、この事件をモチーフとした映画『冷たい熱帯魚』が公開された】のほかに、これと比肩する例を知らない。

 埼玉の事件を題材とした『共犯者』【2】は、『愛犬家連続殺人』【3】『悪魔を憐れむ歌』【4】とタイトルを変えて繰り返し刊行されつつも、いずれもが絶版になっている。「怖いもの見たさ」を刺激する話題性と、あまりの非人間性に対する批判の間で揺れる出版社の困惑が見て取れるようだ。

 話を『消された一家』に戻すなら、この本の読みどころは前述したような猟奇的場面よりも、被害者たちの心理が松永によって弄ばれる過程にある。

 最初の犠牲者となる男性は、通電拷問などの凄惨な虐待を繰り返し受けながら抵抗らしい抵抗もせず、「家畜のごとく」衰弱死させられた。続いてマンションの一室に監禁された一家も、通電拷問や食事・排泄・睡眠制限でいたぶられた挙げ句、松永の命令をほとんど唯々諾々と受け入れて、家族同士で殺し合ったのだ。

 正常な生活を送る人々にはまったく理解の及ばない話だが、世の中では時として、こうした事件が起きる。

 直近の例としてすぐに思い浮かぶのが、尼崎連続変死事件だ。家族の絆につけ込んで逃げるに逃げられない心理へと追いやり、互いを傷つけさせ、それでいて自ら手を下すことに控えめだった主犯・角田美代子の手口は、松永のそれともろに重なる。

 尼崎事件が発覚した際、地元マスコミの中には「美代子は『消された一家』を参考にしたんじゃないか」と疑い、「家宅捜査で本は見つからなかったのか!?」と警察に問いただした記者がいたと伝えられるほどだ。

 同書著者、豊田正義氏が言う。

「今のところ、美代子周辺から私の本が見つかったという話は聞いていません。しかしそれにしても、2つの事件は本当によく似ている。

 被害者の心理を操っていた点もそうですが、金銭を恐喝する上で『親族間の問題』を装い、民事不介入の原則に縛られた警察を寄せ付けなかった部分でも共通している。松永は関係をもった女性を脅し、実家に無心させる形でむしり取った。角田は養子縁組を通じて、自らが親族の一員になる手口でした」

 この部分でいえば、松永も角田も知能犯である。特に松永の口のうまさはハンパではなく、豊田氏は「天才的な詐欺師」と評している。

「詐欺師は、獲物を見分ける嗅覚が優れているんです。自分に対して厳しい態度で臨んでくる人には絶対に近づかず、いわゆる“ゆるいヤツ”だけを狙う。ただ、そういう詐欺師が殺人を犯した例というのは、ほとんどない。松永以前には、佐木隆三さんの『復讐するは我にあり』【5】に描かれた西口彰事件ぐらいでしょう。松永もチンケな詐欺師で終わっておけばいいものを、途中からはカネに関係なく快楽殺人へと走っている」

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