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"差別的な笑い"と"差別撤廃"を結ぶタブー談議!

お笑いタレント・ビートたけし×部落解放同盟委員長・組坂繁之 〈差別〉と〈笑い〉と〈権力〉との闘い【前編】

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──7年前に雑誌誌上で対談したことがある2人が、久しぶりに膝を付き合わせた。前回から流れた月日は、日本の差別をめぐる状況にも変化を及ぼしたのではないだろうか。拡大する格差社会やネット社会。弱者がさらなる弱者に牙をむく歪んだ世界を、時に差別的な笑いを武器にしてきたビートたけしと、差別撤廃に向けた解放運動のリーダーはどう見るのか? 120分にわたった熱いトークの一部を公開する──。

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(写真/江森康之)

ビートたけし(以下、たけし) 前に(組坂)委員長と対談したのは、「新潮45」(03年3月号/新潮社)ですよね?

組坂繁之(以下、組坂) ええ、あれは、もう7年前ですね。

たけし あのときは、差別表現とか糾弾についての話を中心に聞いて、部落差別の歴史的背景みたいなものをあんまり聞いてなかった気がするんですよ。今日はそういうことから聞いていきたいんです。日本の場合、被差別部落の問題が表に出てきたのって、いつ頃のことですか?

組坂 現在の被差別部落問題は、江戸幕藩体制の身分制度によるものとの説が主流です。ただ、人間を差別する考え方や制度は、7世紀頃からの律令制によって、良民、賤民という区分けが出てきたあたりから始まっていたでしょうね。そもそもは、アジア的生産様式といわれた農業中心の社会の中で、農業活動が十分にできない障害者への差別は極端な例としてありました。障害者は、差別され、コミュニティから排除される存在だったんです。そのうち、支配する側は、そういう貶めるべき存在を意図的に作り出すわけです。江戸幕藩体制でも、人が嫌がる行刑の役割をさせたり、農地を与えなかったりして、被差別部落を貧困に追いやることで、農民に「上見て暮らすな、下見て働け」と言って、不満を抑えていたわけですから。現代社会でも、その頃の影響が残っているわけです。

たけし おいら、恥ずかしながら、日本の差別問題については鈍感で、身分制度というとインドのカーストを思い浮かべてしまうんです。話を聞くと、今でもかなり厳しいものがあるじゃないですか。階層が下の人は、上位の人と同じ水道の水を飲めないとか、トイレ清掃の仕事しかできないとか。映画の話でいえば、インドのムンバイでは「ボリウッド」といわれる映画産業が盛んで、年間700〜800もの作品を撮っている。ところが、ここにもカーストはあって、脇役はいくら人気が出ても、主役にはなれない。主役は、主役の家柄に生まれた人じゃないとできなくて、脇役はずっと脇役。身分の低い人は、危険を冒してスタントマンとかをやっているけど、けがして、歩けなくなったりする人が続出してるって。それでいて、たいした補償がない。それが、世界第2位の映画産業の裏なんですよ。

組坂 インドの話は重要なんです。日本の差別観念の源をたどると、インドのヒンドゥー教に行き着くんじゃないかと思ってます。カーストには、4つの階級がある。ヒンドゥーの神様でヴィシュヌというのがいまして、その口から生まれたのがバラモン(僧侶)、脇の下から生まれたのがクシャトリヤ(王侯騎士)、太ももから生まれたのがヴァイシャ(商人)、かかとから生まれたのがシュードラ(奴隷)、ということになっている。人間とはそういうものだと。そして、それ以外のアウトカーストといわれる人が、現在2億人近くいます。アウトカーストは、ヒンドゥーの神様から生まれていないので、人間以外とされてきた。そんな彼らはいわゆる穢れる職業とされる、食肉や皮革に関する仕事や清掃をやらされてきたんです。ある種、被差別部落民と一緒ですね。

たけし そこで、いつも不思議に思うんだけど、一番最初に「この人たちはアウトカーストだ」と、言った人がいるわけじゃない。そう決めた根拠はなんだったんでしょう?

組坂 やはり支配と被支配の関係ですね。支配階級であるクシャトリヤは、侵略者であるアーリア人の系統です。インドの場合、いろいろと政権が変わってきていて、そのたびに支配と被支配の関係が変わる可能性がある。そこで抗したりする連中への見せしめのために、徹底的に差別される層を作り出したんでしょうね。

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(写真/江森康之)
ここには収録しきれなかったが、2時間にわたる対談の中では、部落差別問題のほかにも、
日本におけるさまざま差別や、それをなくしていくための教育や社会のあり方についても語り合われた
(取材は、8月中旬、都内にある2人に共通の知人の事務所で行われた)。

差別は下位に行くほど濃縮されている気がする

──たけしさんが被差別部落の問題を意識し始めたのはいつ頃ですか?

たけし さっき、差別問題には鈍感だったと言ったけど、大学ぐらいまでは全然気がつかなかったんだよね。日本では、部落問題に敏感な地域とそうでないところのギャップが大きいんじゃないかな。もちろん、身近には貧富や職業による差別はあったよ。おいら、中学のときにいじめられたのね。それは、親父がペンキ屋だったから。当時のペンキ屋って、ボロボロの服を着て、ホームレスみたいな格好してペンキを塗るわけ。だから、その服装だけでバカにされた。初めは親父がペンキ屋だっていうのを隠してたんだよ。「外交官のせがれだ」って言ってて(笑)。

組坂 その話、前回の対談のときにもおっしゃってましたね。そこで、好きな女の子の家に、お父さんの手伝いで行くことになって。

たけし そうそう。父ちゃんの手伝いで、好きだった同級生の家の塀を塗ることになったら、「あれ、北野くん、なんでペンキなんか塗っているの?」って見つかっちゃって、「アルバイトだよ」って嘘ついたら、父ちゃんに「なんでペンキ屋であることを隠すんだ、バカヤロウ」って怒られてね。そのときに全部ばれちゃった。中学くらいで物心がついて、女の子を意識するときに、みんなに「ペンキ屋は汚ねえ」って言われたら、そのショックには、はけ口がないわけじゃない。だから、そういうときに、自分よりも貧しい人とかに当たってしまう可能性もあるよね。実際、変な話だけど、その当時、金持ちのお抱え運転手しているような人とかがおいらをいじめてたわけよ。だから、差別っていうのは、下に行けば行くほど濃縮されてるような気がするね。

組坂 そうだと思います。心理構造として、自分が抑えつけられると、他人をいじめて、こいつよりマシだとか思うことによって、自分の抑圧を少しでも解消しようとするということがある。でも、それは人間が克服しないといけない弱さです。かつて、ドイツの大統領だったワイツゼッカー(84〜94年在任)が、「過去に目を閉ざす者は、未来にも目を閉ざすことになる」と言っていました。江戸時代には、一番搾取されて苦しかった小作人が、部落民を痛めつけていた。未来のために、こうした事実を知った上で生かしていかなければいけない。それなのに、今の日本は格差社会で、差別意識はますます拡大してきている感じがしますね。

たけし 今の時代、派遣社員なんていうのも、合理性を求める財界の都合で拡大してきたところがあると思うけど、下手すると、小作人と部落民の関係をなぞらえちゃうところがありますよね。抑圧された派遣社員が凶悪な事件を起こしても、一般人は対岸の火事のように、「大変なことになっているけど、自分は関係ない」「自分たちは彼らよりマシ」と思ってるだけ。これも、格差社会が生み出した差別のひとつだと思うこともある。新しい社会構造ができたときに、その歪みから生まれる新しい差別の問題にも目を向けないと。

組坂 私事ですが、若いとき、無二の親友を自殺で亡くしているんです。彼は部落外の人間でしたが、家庭問題に悩み、命を絶った。昨日まで一緒に飲んでいた友人が、そんな素振りも見せずに、いきなりです。それがすごくショックで、自分は「人間ってなんなんだろう?」と考えるようになって、文学から何から本を読み漁った。仕事もやる気が起きずに、1年近く読書だけの引きこもり状態。そのときは真っ暗闇の中でしたね。周囲が働いている中、自分は何もしていないという焦燥感というのは、今の非正規雇用者も抱くことがあるんでしょうけど、それは人間としての尊厳が冒されているということですからね。そのことに気づかずに、もっと弱い人たちを痛めつけていく方向に矛先が向くという風潮は、変えなきゃならんことですね。

たけし おいらのインターネット嫌いは有名なんだけど(笑)、人間の尊厳という意味では、ネットみたいなものが出てきて、便利になったようだけど、それにがんじがらめになって押さえつけられているという面はあるんじゃないかなと。養鶏場のニワトリが目の前に出された餌をつつくように、与えられた情報やそこで話題になっている物を、無条件反射的に受け入れてしまう。iPadの売れ方の異常さとかを見ていても、そう感じますよね。結局、情報も商品も消費だけして、産んだ卵は全部持っていかれるみたいな感覚。搾取されるだけの階層に押し込められているっていうのは考えすぎかな?

組坂 言葉は悪いんですが、昔、評論家の大宅壮一さん、テレビが全家庭に普及したら「一億総白痴化する」って言いましたよね。要するに、メディアに容易に動かされていく、と。ネットに依存しすぎると、そういう面も出てくるでしょうね。

たけし さらに言っちゃうと、ツイッターとかで悪口を言い合っているのを見ると、不満がたまった家畜同士が噛み合っているように思えちゃう。下の層の人たちの社会的な抑圧を解消する道具として、権力側がネットを与えたと思えちゃうんですよ。差別心も解放されちゃって、言いたい放題。以前、「たけしは在日らしい」って、ネットで書かれたことがあるんだけど、おいらは在日じゃないけど、そうだろうがなかろうが、どっちだっていいっての。ただ、表面的には民族差別はなくなってきているようなことが言われるけど、裏ではまったくそうじゃないってことを認識しておくべきでしょうね。

組坂 匿名社会では、特にそれは顕著です。03年に熊本で、元ハンセン病患者の人が、ホテルに宿泊拒否をされた事件があったでしょう。あのときもすごかったですよ。元患者やハンセン病団体に、「お前らは何様なんだ」「税金で食わしてもらってるくせに大きな顔するな」「お前らは汚いから社会に出てくるな」とか、山ほど投書が来て。そのほとんどが匿名ですよ。そういう陰湿で悪質な差別というのが、依然としてある。

たけし 差別をなくすための闘いや教育は、絶やしてはならないってことですよね。そういった中で部落問題に話を戻させてもらうと、被差別の人が身分を隠して一般市民の中に入ってしまえば差別はなくなるという意見と、身分を明らかにして差別撤廃を主張すべきだという意見があるじゃないですか。それについては、今どうなってるんですか?

組坂 やはり当事者は主張すべきことは主張した上で、差別がなくなっていくほうがいいんじゃないでしょうか。例えば、被差別部落出身者が、それを隠して一般の中に紛れ込んでも、結婚のときに身元調査をやられて、破談になることがある。ある場所に、700世帯くらいの大きな被差別部落があります。ここは解放同盟に入っていません。そこでは年に2〜3人、若い女の子が自殺を図ります。それは、コミュニティとして、部落差別の実態とか社会の不条理さとかをなんにも教えてないからなんですよ。だから、いざ結婚しようかというときになって、相手に調べられて、「お前、部落民やないか。だから結婚できん」と言われ、ショックで死んでしまう──もちろん、それを乗り越えて結婚する人も増えてきましたが──そういう例が依然としてあるので、私としてはやっぱり社会教育や学校教育、そして家庭で、部落問題や人権問題を正しく教えるということが必要だと思いますね。

たけし もうひとつ、学校で同和教育に取り組むときに、おいらのような、部落問題を知らないまま育ってきたような子どもも多くいますよね。こういう子どもたちに対しては、まず被差別部落問題の実態をしっかり理解させてから、差別をやめようと教えていくべきなのか。または、人間はさまざまな対象に差別心を抱くものだから、その弱い部分を強化するための教育をして、子どもたちがある程度年を取って、部落問題に対したときに、正しい判断を下せるようにするのか。それはどっちがいいと思いますか?

組坂 それは、両方あると思います。近くに被差別部落があって、運動もしっかりしていて、先生方も地域もそれなりに正しい知識と対応能力があるところでは、部落問題に踏み込んだ教育をやってもいいでしょう。ただし、そうはいかないこともある。半世紀以上前になりますが、広島県で吉和中学校事件というのがありました。ある中学教師が、部落の歴史を徹底して悲惨で残虐なものとして教えたわけですよ。部落の人はこんな惨めな生活を強いられていたんだ、と。ところが、その事実があまりにショックで、中学3年の女の子が自殺したんです。こういう、社会への不信感を煽るような教え方はダメですね。まずは、子どもたちの生活にも直結する問題として、認識させないと。例えば、小・中学校の教科書って、今では無償で配布されているでしょう。でも、僕らの頃は、みんな自分で買っていたんです。だから、部落民などの貧しい家庭の子どもは教科書が買えず、学校を休むしかなかった。でも、日本国憲法26条には「義務教育は、これを無償とする」とある。そこで、1960年から、高知県の部落のおばちゃんたちが運動を始めて、これがきっかけで、教科書無償化法案が成立し、64年から無償になっていくんですよ。だから今、教科書がタダで配布されているのは、部落差別をなくす運動から発展したんだよ、っていうことを子どもに教えるといい。そうすると、部落の子も、部落外の子も、解放運動というのが自分たちに直接関係があるんだなということをわかってくるでしょう。これが大事なんですよね。
(構成/ラリー遠田)

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