サイゾーpremium  > 特集2  > アナーキスト、暴走族、ペインター...抵...
第2特集
タブー破りのドキュメンタリーDVD──ECD[ラッパー]

アナーキスト、暴走族、ペインター...抵抗と闘争の実録&記録作品

+お気に入りに追加

──一般的には記録映像、記録作品とも呼ばれるドキュメンタリー。 演出を加えないことが前提であるため、放送コードや倫理規制をも凌駕する多くの名作が生まれたが、そんなタブー破りのDVDを選出する。

 今回選んだのは、書物やテレビなんかのほかのメディアからでは知ることができなかったヤバイ報道、なかでも抵抗と闘争をテーマにした3本。ドキュメンタリー映画はテレビドキュメンタリーと比べると、題材により踏み込んでいるというか、対象に肉迫していて、観てると怖くなってくるんだよね。撮影してるカメラの隣に自分がいるような感覚があって「うわっ、ヤバイとこにいるなぁ」と思わせる臨場感がすごい。戦場カメラマンはレンズを覗くと戦火を恐れないというのはよく聞く話だけど、たぶんいちばん怖いのはカメラの隣にいる人だと思うんだね。例えば、普通に人が人を殴る場面ってあまり観る機会がないと思うんだけど、そういう現場に立ち会ってしまったような臨場感と似た感覚だと思う。

 では本題。『ゆきゆきて、神軍』【1】は戦争責任を追及し続けた希代のアナーキスト・奥崎謙三を追った作品だけど、僕は奥崎に影響されたところがあるんだよね。ゼロ年代に入って(自分が)イラク反戦運動に参加したときに、戦争は絶対反対だけど「じゃあ暴力自体はどうなんだ?」って疑問があって、単純に「暴力反対」とは言いたくない自分の気持ちを後押ししてくれたのがこの作品だった(笑)。個人レベルの暴力というのはアリなんじゃないかと。奥崎は戦争当時の上官を殴ったりして、たったひとりで国家に立ち向かっていてすごくいいよね(笑)。決してテレビでは紹介されないリアリティがある。

 同じように『ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR』【2】も、76年の公開当時にはまともな扱いの報道はなかった暴走族やヤンキーの実態を、掘り下げてみせた名作。暴走族の少年たちの佇まいが、明らかにいまの不良とは違って、みんな貧乏人の子どもって風情がしていいんだよね。徒党を組んでも結局、誰かの家に集まるしか選択肢がない時代感も見どころのひとつ(笑)。

 そして、自分のヒップホップ観を一変させた作品が『スタイルウォーズ』【3】。80年代初頭のニューヨークで社会問題になっていた"グラフィティ"の実態に迫ったドキュメンタリーだけど、日本では作品の存在すらあまり知られてなくて、実際に僕がこの映画を観たのは、東京でも下北沢周辺のシャッターがグラフィティだらけになってきた90年代後半のことだった。スプレー缶は盗んでこないと本物のグラフィティじゃないってことは、この映画で知ったね。それはすごい衝撃だったよ。だって、もともとお金にならない違法行為でしかないのに、描く道具すらお金を使ってないという(笑)。貨幣制度にここまでコミットしない行為って、間違いなく意識的にやってるわけだからさ。まあ、これ観た頃は自分も相当ヤバイ調子のときだったので、記憶が曖昧ではあるんだけどね(笑)。

 これらの映画は自分の考え方にすごく影響を及ぼした重要な作品だよね。

 ドキュメンタリーの肝は「カメラがある状況で人は何をするのか?」という点になると思うんだけど、そういう意味では紹介した作品の見所は全部と言いたい(笑)。そんなドキュメントになるような現場に自分も常にいたいよね。『さんピンCAMP』(自身が96年に主催した日本ヒップホップ史に残る伝説的イベント)なんてまさにそうだった。やっぱ、何か衝突とかトラブルが起きたときこそアガるもんなんだよ。あのイベントの映像の中でもタワレコでのインストア・ライヴのシーンがいちばんスリリングだったのは、盛り上がりすぎて店側に音を勝手に止められたからだしね(笑)。
(談)

0910_P104_DVD01.jpg

【1】『ゆきゆきて、神軍』
1987年製作/監督:原一男/4935円/ジェネオン エンタテインメント(日本)
天皇陛下にパチンコ玉を撃ったアナーキスト奥崎謙三が、ニューギニア戦線での「人肉食」疑惑を明らかにすべく、当時の上官を訪ねては詰問し、ときに殴り倒す。


0910_P104_DVD02.jpg

【2】『ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR』
1976年製作/監督:柳町光男/3990円/エースデュース(日本)
実在したブラックエンペラーを組織の内側から描く。ちなみに、カナダにはインスパイアされた同名のバンドが存在する。


0910_P104_DVD03.jpg

【3】『スタイルウォーズ』
1984年製作/監督:トニー・シルヴァー/4830円/ナウオンメディア(アメリカ)
70年代末にニューヨークで勃興したグラフィティを重層的にとらえた、ヒップホップの教典。一見すれば、「落書き」と断罪するのは不見識だと知ることができる。


0910_ECD.jpg

ECD
1960年生まれ。ラッパー。自主レーベル〈FINAL JUNKY〉を運営。最新アルバム『天国よりマシなパンの耳』をリリースしたばかり。著作に『失点イン・ザ・パーク』(太田出版)、『ECDIARY』(レディメイド)など。


Recommended by logly
サイゾープレミアム

2024年5月号

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ