【ミヤギフトシ】「『FF』は性的に曖昧な存在を描いた稀有なゲーム」沖縄出身の現代美術作家による青春小説

――ジェンダー、国籍、人種などのボーダーラインを繊細かつ多様な手法で問い、国内外で高く評価されている現代美術作家のミヤギフトシが初の小説を出版。そこでは、どんな物語が紡がれているのか――。

(写真/増永彩子)

 自身の記憶や体験を軸に、国籍や人種、アイデンティティといった主題を、写真を中心に映像、オブジェ、イベントなど多様なスタイルでアウトプットし続ける気鋭の現代美術作家・ミヤギフトシ。そんな彼が、初の小説集『ディスタント』(河出書房新社)を上梓した。2017~18年に文芸誌「文藝」(同)に掲載された連作「アメリカの風景」「暗闇を見る」「ストレンジャー」を収めた本書は、沖縄出身の主人公がニューヨークに渡り、自身のセクシュアル・アイデンティティに関する写真プロジェクトを手がける――という、私小説的なカラーの濃い青春小説だ。

「もちろん小説なので、フィクションではあります。でも、主人公の土地の移動や、彼がアメリカで手がけるプロジェクト『Strangers』など、僕の実体験をベースにした部分も少なくありません。そうした自分の経験を物語に組み込むようにしながら書き上げていきました」

「Strangers」は、見知らぬゲイの男性の家に招いてもらい、そこであたかも恋人同士のような写真を撮る――という試みだ。この連作写真を通して、主人公は自身のゲイというセクシュアリティに向かい合っていくことになる。

「かつて僕が取り組んだ『Strangers』というプロジェクトは、写真を通して自分のセクシュアリティを社会にカミングアウトするという試みでした。それと同じことを、今度は小説という形でやり直してみたかったんです」

 本書の大きな特徴に、音楽、小説、映画、ゲームなどポップ・カルチャーの膨大な引用が挙げられる。例えば、バックに流れるレディオヘッド、エリオット・スミスといった90~00年代のさまざまな洋楽は、主人公の心情や時代の空気を伝える装置として重要な役割を担う。また「暗闇を見る」では、ロールプレイングゲーム『ファイナルファンタジー(FF)』シリーズの物語が大胆に援用されている。

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