宮[ザキ]勤、小林薫、宅間守、くまぇり......あの犯罪者たちの塀の中の読書事情

――多くの受刑者と接し、彼らの手記を「創」誌上で発表してきた同誌編集長の篠田氏。彼が犯罪者たちに差し入れした本とは?

宮[ザキ]勤死刑囚。

 今年6月、連続幼女誘拐殺人事件の宮[ザキ]勤死刑囚の刑が執行された。刑が確定した06年に出版された著書『夢のなか、いまも』(創出版)には、東京拘置所に収監されていた彼の元に届いた差し入れ本のリストが掲載されており、長い獄中生活の中で読書に耽っていた様子がうかがい知れる。彼は生前、どんな本を好んで読んでいたのか?

「宮[ザキ]勤死刑囚が獄中で読んでいた本のほとんどは、私のところから差し入れたものだと思います。彼は一度にものすごい冊数を要求してくるんですよ。ひどいときなんて、便箋6枚にわたって本のタイトルがビッシリ書かれているくらい(笑)。それが約10年間、ほぼ毎月続いたわけですから、彼の元には膨大な数の本が領置されていたはず。ただ、要求の6割がマンガで、彼自身も『活字の本はちゃんと読んでいない』と話していて、確かに難しめの本に関しては内容をあまり理解していませんでしたね。とはいえ、目を通している冊数でいえば相当なもの。ほかの犯罪者と比べても、本に接している量は群を抜いて多かったです」

「創」で獄中手記を掲載する際も、原稿料を本の差し入れと相殺することが多かったという。参考までに、宮[ザキ]から送られてきた差し入れ本を要求している手紙のコピーを見せてもらったところ、1通分だけで116冊(そのうちマンガが58冊)という、驚異的な冊数のタイトルが書き連ねられているものもあった。さらに出版社と著者名、マンガに至っては巻数まで記載されているものまであるが、彼はこういった情報をどうやって仕入れていたのか?

「自分が読んでいる雑誌や文通の相手から情報を得ていたようです。『創』も毎号読んでいたので、そこに記載された出版物の注文も多かったですね。一見すると手当たり次第にリストアップしているように見えますが、大まかに分けると『犯罪』『精神鑑定』『アニメ』『特撮』の4つにカテゴライズすることができます。このうち『精神鑑定』の本は、裁判時に検察側が『精神疾患を思わせる一連の行動・言動は、精神鑑定の本から学んだものである』と詐病説を主張する攻撃材料になってしまったのですが……。マンガの情報については、彼のような著名な犯罪者にはファンが付くので、ファンとの文通によって得ていたのではないでしょうか。人気があると聞くと、とりあえず取り寄せたがるところがありましたから。ただ、いつもリストの半分以上が絶版で、手に入らない本も多かったです」

宮[ザキ]勤が篠田氏に寄せた、差し入れ本リストのコピー。『首都圏超激安ショップガイド』や『バックパッカーズ読本』など、思わず「?」なものもある。

 では、ほかの犯罪者たちの場合はどうだろうか? 奈良女児誘拐殺人事件の小林薫死刑囚と和歌山毒物カレー事件の林眞須美被告には『死刑執行人の苦悩』を差し入れしたとのことだが……。

「小林死刑囚は『死刑執行人の苦悩』の 死刑囚の子どもを持つ母親にまつわるエピソード を読んで、涙を流したそうです。同様に、1審の弁護人の髙野嘉雄弁護士が渡した、故・黒田清氏の短編集『会えて、よかった』(三五館)でも泣いたそうで、そちらは 障害を持つ子どもがイジメや差別に立ち向かっていくシーン に、えらく感動したとか。小林死刑囚も子どもの頃にイジメに遭っていたので、どちらも自分の境遇を投影できる個所なんですよ。あと、これは林被告や宅間守死刑囚、そしてくまぇりなどにも共通しているのですが、自分について報道された記事を読みたがっていましたね。ちなみに、くまぇりからは『動物が好きで、見てると癒されるから』との理由で、犬や猫が載っているペット本を希望されたことがあります」

 こうした加害者の要求をかなえる篠田氏に対し、遺族や被害者側から批判の声が上がることもあるだろう。それなのに、なぜ犯罪者たちと交流を保ち続けるのか? そう尋ねると、「それが私流の仕事だから」という答えが返ってきた。

「事件の解明には動機を探ることが一番重要で、そのためには被告人の内面にまで立ち入る必要があります。だから、宮ざき死刑囚のように付き合いが10年にも及ぶ場合もある。新聞やテレビなどは、話題性があるときはこぞって受刑者と接触を図るのに、1年もたったら見向きもしなくなります。私は接触して付き合った分だけ、自分にも責任が発生すると考えるので、その責任を全うしようとしているだけ。それが、ジャーナリズムの責任の取り方だと思っています」

篠田博之(しのだ・ひろゆき)
1951年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、いくつかの出版社を経て80年に総合評論社に入社し、月刊「創」編集部に所属。81年に同誌編集長。82年に創出版を設立し、同誌の刊行を引き継ぐ。近著に『ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)がある。

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