――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
[今月のゲスト]
橋本努(はしもと・つとむ)
[北海道大学大学院経済学研究科教授]
1967年、東京都生まれ。90年横浜国立大学経済学部卒業。96年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。北海道大学助教授、准教授などを経て2011年より現職。17年よりシノドス国際社会動向研究所所長を兼務。著書に『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』(筑摩選書)など。
日本では保守台頭が語られる一方、橋本努氏、金澤悠介氏による大規模調査で「新しいリベラル」という新層が最大勢力であることが判明した。従来型リベラルと違い戦後民主主義的論点にこだわらず、社会的投資を重視するのが特徴だというが、政党側に受け皿がなく支持は分散している。この層の実像と代表政党の不在とは――。
神保 今回は「新しいリベラル」をテーマにお送りします。ゲストの北海道大学大学院経済学研究科教授・橋本努さんは、立命館大学の金澤悠介教授との共著で、まさに『新しいリベラル』(ちくま新書)という本を出されました。
7000人もの大規模な調査の結果、日本には既存のリベラル勢力とも、また保守勢力とも一線を画する「新しいリベラル」層が生まれており、今やそれが最大勢力となっていることがわかったということです。
まずは今日の議論の元となる「リベラル」について入門的な解説をお願いします。
橋本 「リベラル」という言葉が日本の文脈で使われ始めたのは比較的新しく、1994年前後のことでした。それまでは外国の政治を語る際に使われており、日本の場合は「保守」対「革新」という軸で対立してきた。しかし、冷戦が崩壊して村山富市が総理大臣になったときに、「自分はリベラルだ」と言ったんです。定義が不明確なまま定着し、さまざまな議論を起こしてきました。
今回の調査で「あなたはリベラルですか、保守ですか」と聞くと、自称リベラルは15%くらい、自称保守は21%で、多くの人は「わからない」か「中立」だと答えます。自称リベラルの中で、私たちがコアリベラルと呼ぶ層は2%。その中で共産党に投票する人がおよそ20%で、立憲民主党に投票する人も同じく20%。合算しても全人口の0・8%にしかならず、その人たちの意識が「リベラル」という言葉を規定するのか、ということが問題です。自称リベラルでも維新の会に投票する人もかなりいますし、自民党に投票する人もいるので、彼らにリベラルの定義を聞いてもバラバラなのです。
いわゆるリベラルの軸は、政治的にはある程度自由が重要だと考え、経済に関しては福祉国家に賛成します。しかしそれとは違う理論を作って可視化しなければ、新しく台頭しているリベラルは見えないのではないかという疑問から入り、意識調査では我々も定義づけに苦労しました。
宮台 1994年にリベラルが生まれた理由について、東西冷戦体制が崩壊し、当時はゴルバチョフが「改革派」と呼ばれ、共産党が「保守派」と呼ばれていました。アメリカと違い統治権力が存在することの自明性が歴史的に長く続いていたヨーロッパでは、統治権力による強制を疑問視するという営みはほとんどなく、統治権力を操縦する人が誰なのか、つまり権威主義なのか参加主義なのかで分かれていて、権威主義的独裁体制や参加主義的民主政治と呼ぶようになりました。ヨーロッパでは参加を重視する立場が「リベラル」と呼ばれるようになったので、エリツィンやその前のゴルバチョフが改革派で、その一方で共産党が保守派と呼ばれるようになった。それで突然、保守や革新ということが使いにくい言葉になってしまいました。ロシアでは共産党が保守派なので、日本でどう使えばいいのかという時、村山富市はリベラルという言葉を使わざるを得なかったということです。