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第1特集
国営放送のハッキングも実は眉唾もの?

ロシアに宣戦布告で再注目も……アノニマスの危うい正義と限界

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ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシアへの宣戦布告や国営放送のハッキングなどを喧伝し、再注目を浴びている国際抗議集団「アノニマス」。正義の名の下に違法性が高い抗議活動まで行う彼らは、“謎のダークヒーロー”のように持て囃された時期もあったが、果たしてその現状とは――。

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本文にも登場する社会学者・塚越健司氏の著書ハクティビズムとは何か ハッカーと社会運動(SB新書)

アノニマスがロシアの国営放送をハッキングして、ウクライナの戦場の映像を流した――。

ロシアによるウクライナ侵略のニュースが日々飛び交う中、この話題を目にした人は多いだろう。

ご存知ない方に説明すると、アノニマスとは、英語圏の匿名掲示板「4chan」で自然発生した抗議集団。明確な中心人物のいない匿名の集団であり、大規模サイバー攻撃による抗議活動で有名だ。今回のニュースでは「久々に名前を聞いたな」と感じた人も多いはずだ。

アノニマスは2012年には日本でも、違法ダウンロードの刑事罰化への抗議活動を展開。財務省、自民党、民主党のウェブサイト等をサイバー攻撃した。そのほか中東・北アフリカ地域で行われた反政府民衆運動「アラブの春」(10~12年)の支援などでも話題を呼んだ。なお最近のニュースでも、実態とは異なる「国際ハッカー集団」という呼称が用いられるなど(参加者はハッカーとは限らない)、今も誤解が多い集団でもある。

そして近年のアノニマスの活動は、「過激派組織ISILへの宣戦布告」(15年)、「Qアノンへの宣戦布告」(18年)、「ミャンマー国軍へのサイバー攻撃」「国際連合のサイトに台湾のページを作成」(20年)など多岐にわたる。なんらかの正義感を持って活動していることは伝わってくるが、相変わらず中心人物の存在も見えないことから、「一体何者でどんな狙いで活動しているのか」と不思議に思っている人も多いはずだ。

そこで本稿では、「アノニマスとは一体何者か」をザックリ解説しながら、その活動の狙いや、彼らの考える「正義」や「悪」の実態、そして活動の現状を紐解いていく。

まずは「アノニマスはいつ・どのように誕生したのか」について簡単に解説しよう。

アノニマスは冒頭に述べたように英語圏の匿名掲示板「4chan」発の集団。生まれたのは06年頃とされている。
「4chan」は日本の「ふたば☆ちゃんねる」(2chan.net)の非公式姉妹サイト。アノニマスという名称も、電子掲示板において無記入で投稿した人の名前=名無しさん(英語でAnonymous)に由来するものだ。その抗議活動も、日本の掲示板の「祭り」(特定のスレッドが爆発的に盛り上がって起こる集団行動)の延長にあるものといえる。

アノニマスの存在が有名になったのが08年。新興宗教団体「サイエントロジー」が、YouTubeに投稿された同団体の動画を削除したことに対し、アノニマスが「検閲反対」や「表現の自由を守る」という大義を掲げ、大規模な抗議行動を展開したことがきっかけだった。組織のメンバーのトレードマーク的存在の「ガイ・フォークス・マスク」の着用が始まったのもこの頃からだ。

なおその抗議活動には、平和的な街頭デモ活動もあれば、DDoS攻撃(複数のパソコンなどを利用し、特定のサーバーなどに一斉攻撃を行うこと)と呼ばれるサイバー攻撃もあった。後者については違法性も問われるものだ。10年以上にわたってアノニマスの動向を追ってきた辻伸弘氏(SBテクノロジー プリンシパルセキュリティーリサーチャー)は次のように述べる。

「アノニマスについては『ネット上で違法行為を行う集団』というイメージを持つ人は多いですが、その中にはもともと武闘派と穏健派の勢力がいました。平和的で合法的な抗議活動を行うのが『アノンネット(AnonNet)』と呼ばれる人たち。悪意でコンピュータシステムをハッキングすることを肯定するのが『アノンオプス(AnonOps)』と呼ばれる人たちです。ニュースで取り上げられやすいのは、アノンオプスという武闘派の行動です」

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