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第1特集
「はひふへほー」と叫ぶポストモダンな悪!

アンパンマン最大の敵 〈ばいきんまん〉とは誰だ?

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長年、日本の子どもたちに親しまれてきた『アンパンマン』。その世界の大まかな構造は今さら説明するまでもないが、いつも正義の主人公やその仲間たちに悪事を働くばいきんまんは、実のところ何者なのか。結局はアンパンチでぶっ飛ばされるのに、同じことを繰り返すワケとは──。国民的な悪役キャラを徹底解剖してみた。

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*ぬいぐるみは編集者私物です。あんぱんは編集部で美味しくいただきました。(写真/Y Watanabe)

1969年、やなせたかしによる「アンパンマン」と題された読物が青年誌に載った。73年からは『あんぱんまん』を皮切りに幼児向け絵本シリーズ(フレーベル館)が出版され、88年に絵本を原作とするテレビアニメ『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)が開始。『アンパンマン』の世界は子どもたちを魅了し、正義の主人公は国民的人気を得たが、最大の敵役がばいきんまんだ。では、このキャラクターが表す悪とは? ライターの飯田一史氏と批評家の藤田直哉氏が、原作者の思想からサブカルチャー、児童向けコンテンツ、社会情勢まで参照して語り尽くす!

やなせたかしの善悪観と戦争体験の複雑な関係

飯田 ばいきんまんは、1976年に舞台で『アンパンマン』のミュージカルをやったときに、観客の反応を見てやなせたかしが「悪役が必要だ」と気づいたことで誕生しています。「正義を成立させるために悪は傷つけないといけない」と。インドの宗教家ラーマクリシュナは弟子に「神が善なら悪はなぜ存在するのか」と問われて「話を面白くするためだ」と答えたけれども、まさにそういう役回りを要請されて生まれてきた。

藤田 著書『ボクと、正義と、アンパンマン なんのために生まれて、なにをして生きるのか』(PHP研究所)などを読むと、ばいきんまんは共存すべき存在であって、根絶させるべきものではないとやなせは考えていますね。善と悪が拮抗しているのが健康的な状態だ、と。

飯田 人間の最大の敵はばい菌だが、ばい菌が絶滅すると人間も絶滅する。だから陰陽両方が必要だ、という東洋的な価値観ですね。「正義は勝つ」ではなく「戦いは永遠に続く」と語っていて、これは子ども向け作品ではかなり稀有な思想。

藤田 やなせは戦中世代で、第2次世界大戦で中国に兵隊として行ったときの飢えの経験がアンパンマンの着想源だと語っています。彼の善悪観は、戦争体験と複雑な関係を持っていますね。

飯田 アニメ版では脱色されているけれど、やなせ自身によるマンガや絵本では戦争イメージは色濃い。79年の絵本『あんぱんまんとばいきんまん』では「そらがまっくらできもちがわるい」「へんなひこうきがとんできたぞ」──これは空襲。「ばいきんどくがすをふきかけてやれ」──これは毒ガス攻撃。

藤田 やなせは中国大陸に「侵略者」として攻め込んだにもかかわらず、当人たちは当時それを「正義」と思っていた。そして、それが戦後にひっくり返った。著書『わたしが正義について語るなら』(ポプラ新書)では「悪人といえども、全部まっくろの悪人じゃない。善人にも悪い魂はある、悪い人間にも善良な部分はある」と。ばいきんまんの造形にもこれが反映されている。


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