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丸屋九兵衛の「バンギン・ホモ・サピエンス」【6】

【バンギン・ホモ・サピエンス】レイ・ミステリオ――越境し続ける鳥神戦士

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人類とは旅する動物である――あの著名人を生み出したファミリーツリーの紆余曲折、ホモ・サピエンスのクレイジージャーニーを追う!

レイ・ミステリオ(Rey Mysterio)

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(絵/濱口健)

空中技でヒザを痛めることも多いが、45歳でも戦い続ける生きる伝説。公称「身長168cm、体重79kg」だが、2インチ詐称で実際には約163cmと思われる。メキシカンR&B/ヒップホップだけでなく黒人音楽にも詳しく、娘の名はアリーヤ。

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(絵/濱口健)

 去る7月19日、フロリダ州オーランドにて――。プロレス団体「WWE」による年に一度の特別興行『The Horror Show at Extreme Rules』で、おそるべき試合が行われた。それは〈Eye for an Eye match〉、つまり「目には目を」デスマッチ。相手の目をえぐり出さねば勝利とならないのだ。こうしてセス・ロリンズは激戦の末、レイ・ミステリオの片目を摘出! 辛くも勝利を収めた……そんなアホな。もちろん、レイのマスクから出てきたのはニセもんの目玉であり、「医療班の努力により回復した」という展開が待っているであろう。そもそもプロレスとは「アスリートによる生ドラマ」であり、ムチャな展開もまま起こる。

 それよりも、レイ・ミステリオの話がしたいのだ。

 オスカー・グティエレス・ルビオは1974年12月11日、メキシコ人両親のもと、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ近郊のチューラヴィスタ市に生まれた。

 このサンディエゴ圏という場所がポイントだ。そこは、国境を挟んだメキシコのティワナ(Tijuana)と双子都市を形成している特異な地域だから。そしてオスカー・グティエレス、つまりレイ・ミステリオ(ジュニア)はまさに、この双子都市の申し子である。生まれはサンディエゴ近郊なのでアメリカの市民権を自動的に付与されているが、そのサンディエゴとティワナを行き来して育ったメキシカン/メキシカン・アメリカンであり(たぶん二重国籍)、英語とスペイン語の完全バイリンガル(ただし後者のスペルを時折間違える)。そして、メキシコのルチャ・リブレ団体「AAA」で頭角を現したルチャドールにして、アメリカの団体WWEでも指折りの人気レスラーという二重性にも注目したい。

 彼が修行を始めたのは10代突入前だったという。というのも彼の一族はちょっとしたルチャ・リブレ・ファミリアであり、叔父のミゲル・アンヘル・ロペス・ディアスが初代レイ・ミステリオだったから。叔父の練習場に出入りしては、子どもながらに飛行技の練習をしてきた彼は、14歳でリング・デビュー! いくつかのリングネームを使ってきたオスカー・グティエレスがレイ・ミステリオ・ジュニアとなったのは、たぶん92年、18歳の頃か。

 95年、過激系の米団体「ECW(Extreme Championship Wrestling)」入りしてからはアメリカのマットが主戦場に。96年からはメディア実業家テッド・ターナーの団体「WCW(World Championship Wrestling)」に入り、米マットではまだめずらしかったルチャ・リブレ流儀で人気選手となる。01年にはライバルWWEが同団体を買収。インディ団体転戦を経て02年にWWE入りし、WCW時代以上の活躍を見せた。15年に退団し、再びAAA等のメキシコ団体を主戦場とした後、18年からWWEに復帰し――「目には目を」デスマッチに至る、というわけだ。

 もちろん彼の試合は素晴らしい。メキシコ系というマイノリティでありながら、観客の多数を占める白人の心を掴むだけはある。しかし私が注目したいのは、レイ・ミステリオが徹頭徹尾「越境する存在」であり、ヒップホップというカルチャー、メキシカンというヘリテッジ、南カリフォルニアというバックグラウンドの見事な合体技であること。06年、そんな彼への関心と敬意からインタビューしたことがある。ここからは、その取材時に得た発言&情報を織り交ぜて進めたい。

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現在45歳のレイ・ミステリオ。叔父であるレイ・ミステリオ・シニアのリングネームを引き継ぎ、レイ・ミステリオ・ジュニアとして活躍してきたが、WWEのリングではジュニアを外している。

 まず、ホームタウンであるサンディエゴを市外局番「619」でレプリゼントしている点が、とてもヒップホップだ。彼の代名詞的必殺技は2つあって、ひとつが回転エビ固め系のウェストコースト・ポップ(すごい名前)、もうひとつが蹴り技の「619」である。この市外局番、前腕部に彫られているが、上から読んでも下から読んでも619なのが美しい! リング上ではハンドサイン「W」を見せ、ベイビー・バッシュともフランキー・Jとも友達。とてもヒップホップで、とてもウェッサイ(アメリカ西海岸、カリフォルニア)な男なのだ。さらに、キャリアを追うDVD『619』に登場するレイの普段着は、勝手に設定された中心線をもとにキッチリとプレスされたジーンズ……これまた西海岸独自の流儀!

 そして「西海岸」「ヒップホップ」「メキシカン」が交錯する地点に存在するのが、ローライダー文化。「サンディエゴのホームボーイたちはローライダーに乗ってる連中が多い」とはレイ自身の弁だ。また、「クルマ自体ではなくピクニックを含めて俺たちのカルチャー」という発言から、「一家団欒としてのローライダー文化」という意外な実像も見える。

 彼にとっては、マスクマンとして戦うこともメキシカン・ヘリテッジの表現。マスクのデザインに関して、「額の十字架はカトリックとしての信仰心、脇にある鳥の模様は空中戦の象徴。後頭部に付いているアステカ模様は俺のヘリテッジを意味する」と語っていた。

 取材した06年当時、「西海岸だけではなくアメリカ全土でヒスパニック人口が増えている。俺たちには壮大な未来が待っているはずだ」と話していたレイ・ミステリオ。トランプが大統領に就任して以来、その「壮大な未来」は頭打ちだが、この困難な時代だからこそレイ・ミステリオがやるべきことがある。

 10代の頃、コリブリ(スペイン語でハチドリを意味するColibri)なるリングネームで活躍した彼。それだけに、ハチドリの化身であるアステカの軍神ウィツィロポチトリの再来として、今を生きるアステカの民(=メキシカン)を勇気づける使命があるように思えるのだ。

(絵/濱口健)

丸屋九兵衛
ストレイト・アウタ・伏見稲荷な元・音楽誌編集者にして「万物評論家」、アステカ愛好家。コロナウイルス禍の中、オンライン・イベントがメイン業務に。「真夏の万物評論家スペシャル」a.k.a.「大人のための夏期講習」はstores.jpに移行済みのはず。そして町山智浩との再会……? 詳細はツイッター〈@QB_MARUYA〉にて。

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