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「マル激 TALK ON DEMAND」【161】

【神保哲生×宮台真司×北丸雄二】人種差別とコロナへの怒りでアメリカは変わる?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
北丸雄二[ジャーナリスト/翻訳家/作家]

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『Newsweek (ニューズウィーク日本版)2020年 7/7号[Black Lives Matter]』(CCCメディアハウス)

一向に収束の兆しを見せない新型コロナウイルスの蔓延と、後を絶たない警察官による黒人への暴力的な取り締まり――。人種差別に反対する全米の抗議行動は、世界的な反人種差別のうねりにまで発展している。人種や性に対する差別や偏見を肥やしに勢力を伸ばしてきた「トランプのアメリカ」は、一体今、どのような状況に置かれているのだろうか?

神保 (鼎談が収録された)本日、6月19日はアメリカでは「ジューンティーンス」(Juneteenth=June Nineteenth)と呼ばれる、テキサス州で奴隷解放が実現した記念日になっています。今世界中で人種差別に抗議する大きなうねりが起きていますが、肝心のメディアが新型コロナの影響であまり現地取材ができていないため、その重大さが十分日本に伝わっていないように感じます。そこで今回は人種問題に詳しい方をお招きして議論してみたいと思います。

宮台 産業革命から200年と少し、南北戦争が終わってから150年たっていない中で、近代社会は未熟だということです。世界の先頭にいるかのように見えるアメリカですら、近代が定着しているのかどうかは非常に怪しい。まして、アメリカにおんぶに抱っこでやってきた日本が近代社会的なシチズンシップを持っているというのはあり得ない。100年後、200年後から見ると、我々のこの時代はまだ相当に野蛮なものに映るでしょう。

神保 こうなってくると、本当に人類が100年後に今より進歩しているのかについても少々心配になってきますが、できれば少しは進歩していたいので、マル激では人種差別や性差別について、この際しっかり考えておきたいと思います。ゲストはジャーナリストで翻訳家、作家でもある北丸雄二さんです。北丸さんは在米経験が長く、人種やジェンダーの問題に長く取り組み、現場で取材してこられています。まず、現在のアメリカの状況について、依然としてアメリカ全体では新型コロナの蔓延が収束していませんが、僕も北丸さんも長く住んでいたニューヨークはここにきてようやく、抑え込みに成功し始めたというところでしょうか?

北丸 当初の見通しでは10~20万人の死者が出ると言われていましたが、トランプはそれほど多くは見ていませんでした。現在はすでに12万人(7月上旬では13万人超)に及んでいます。その中でニューヨークが下火になったのは、厳しいロックダウンを行ったから。今マディソンアベニューに行けば、商店街にすべてベニヤ板が貼られていて、人は歩いていない。デモの影響もありますが、とにかく客を相手にするビジネスは全部ダメになっています。

神保 地下鉄は動いているんですか?

北丸 地下鉄とバスは動いています。だから、運転手に感染者が多い。この状況でも、生活に必要な部分の労働者には働いてもらわなくては困る——というときに、そこで働いているのがやはり、アフリカ系だったんです。

 今回の「Black Lives Matter」(黒人の命も大切だ)にもつながりますが、それで黒人の感染率が非常に高く、死者数も多い。黒人労働者には看護師も多く、病院の清掃やナーシングに伴って、感染が広がっていきました。

神保 感染者数では人口の絶対数が多い白人がほかの人種を上回っていますが、人口比で見るとアフリカ系の感染率が突出して高いですね。今は幸いにして検査数も増えてきているようですが、アメリカも日本とよく似ていて、当初は検査数がまったく増えず、大きな問題になっていました。しかもトランプ政権はNSC(国家安全保障会議)の感染症対策担当官を廃止していたんですね。

北丸 それだけでなく、オバマ政権時代の疫病対策に関する引き継ぎ書類がゴミ箱で見つかる始末。

神保 ニューヨークでは3月からほぼ2カ月間、かなり徹底したロックダウンを行った結果、6月に入って感染者の増加はピークアウトしたようですね。

北丸 そもそもニューヨーク、ロサンゼルスやサンフランシスコに感染者が多かったのはハブシティだからです。アメリカの場合、コロナは中国というよりヨーロッパから来ており、最初に入り込むのがこれらの都市だった。3月の段階で大変な状況になったときトランプ政権が検査をしなかったものだから、各州、各都市の首長が本腰を入れて検査し始めたんです。これが第一波だとすると、まだ南部もしくは中西部には、ほとんどコロナは入っていなかった。これが伝播したものが今遅れてやってきているのと、もうひとつはトランプがビジネスを再開させたことで再び広がっている状況です。また、南部の人たちはマチズモがあり、マスクをしたがらない。トランプも支持者へのメッセージが首尾一貫しなくなってしまうから、マスクをした姿を絶対に映させません。

黒人差別への抗議が大統領選に及ぼす影響

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