サイゾーpremium  > 特集  > タブー  > 【医療観察法】の知られざる実態

――精神科に通院歴のある犯罪者が裁かれるたびに「責任能力」の有無が問題となるが、触法精神障害者を対象とした医療観察法という法律が成立して今年で17年たつことは、どれだけの人が知っているだろうか? 「刑罰のタブー」と言えるこの処遇をめぐる深い闇とは――。

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『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書)

 2019年12月5日。東京高裁で、ペルー国籍の34歳の男性に無期懲役の判決が言い渡された。15年、埼玉県熊谷市で6人を相次いで殺害したナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告。一審のさいたま地裁の裁判員裁判では、死刑判決が下されていながら、高裁では被告は事件当時統合失調症による被害妄想の影響で責任能力が著しく欠けた心神耗弱状態だったと認定し、減刑を行ったのだ。

 この判決を聞いて、事件によって妻子3人をなくした男性は、「やりきれないし、納得がいかない」「家族にどう報告したらいいのか……生きる気力がなくなったというのが今の気持ちです」と会見で悲痛な胸の内を語った。12月19日、東京高検は上告しないことを明らかにし、被告が死刑にならないことは確定となった。

 家族を殺されながら、犯人が精神障害だったという理由で減刑、あるいは無罪になる――。被害者の家族としては、納得できないのは当然だろう。犯罪を行った精神障害者、いわゆる触法精神障害者の問題は、市井の会話ではもちろん、マスコミも避けて通ることの多い、いわばタブー中のタブーと言える。

 触法精神障害者というテーマは、なぜそこまでにタブー性が強いのか。『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書)などの著書もある、精神科医の岩波明氏は、次のように語る。

「もともと精神疾患、特に統合失調症については古くからタブー視されてきた歴史がある中で、犯罪となるとより偏見が強くなる。さらに、精神障害者の犯罪となるとその時点で報道がストップしたり、犯人の名前が出なくなったりするので、議論を行う余地もなくなってしまう。偏見が強い上に議論自体ができなくなるということが、触法精神障害者をめぐるタブー性を強めているのではないでしょうか」

 そもそも、精神障害者の罪が無罪になったり減刑されるのは、刑法39条の規定に基づいている。そこには、このように書かれているのだ。

一、心神喪失者の行為は、罰しない。
二、心神耗弱者の行為は、その罪を減軽する。

 岩波氏の『精神障害者をどう裁くか』によると、「心神喪失」および「心神耗弱」という用語は日本独自の法律用語であり、内容はいささかわかりづらいが次のような状態を指すとされている。

「心神喪失とは、精神障害によって理性的な判断ができない状態、および理性的な判断によって行動することができない状態である。つまり責任能力がない状態である。心神喪失においては、刑法上その責任を追求することができないために、刑事裁判では無罪の判決が下る」

「また心神耗弱は、心神喪失ほどでないにしろ、理性的な判断をする能力、あるいは理性的な判断によって行動する能力がかなりの部分失われている状態である。これを限定責任能力と呼ぶ。心神耗弱においては、刑罰が減刑される」

 責任能力とは、「自分の行為の善悪に関して適切に判断する能力」のことである「弁識能力」と「その判断に従って自分の行動をコントロールする能力」である「制御能力」を合わせたもので、それが失われた状態を「責任能力がない」状態と呼ぶ。精神障害者の犯罪を責任能力がない状態で行われたものとして、刑罰を減免する制度は、諸外国でも古くから取り入れられていると岩波氏は説明する。

 精神障害者の犯罪行為や他害行為はどのような法学上の考えのもと減刑されるのか。後述する医療観察法病棟で触法精神障害者に携わる仕事も長く務めている、弁護士で『精神障害法』(三省堂)の著書がある池原毅和氏は次のように話す。

「この考え方の基本には、法は不可能なことを人間に要求しないという近代の法律の大前提があります。つまり責任というのは、あくまでそのときに注意したり努力すればそのような結果にならずに済んだはずのところ、そうしなかったときに生じるものであると。だから物事の是非が弁別できなかったり、自分が悪いことをしないためのコントロール能力を失っている場合は、責任能力が生じない、という考えに基づいているということができるのです」

 事件当時統合失調症の状態にあり、責任能力がないとされたケースでは、妄想や幻覚に頭の中を支配され、悪魔から人を殺すように命じられた、などと犯人が主張するケースがある。このような状態においては、本人が自分の意志をコントロールできておらず、善悪の是非も判断できないことから、責任能力なしと認定されて、無罪になったり減刑されるというわけだ。

 もっとも池原氏によると、一般の人がイメージするのに比べると、責任能力がないと認められる事例は少なく、たとえ統合失調症であっても、責任能力があるとされて実刑となったケースもかなり存在するとのことである。

 実際、精神疾患による責任能力の有無が議論された01年の池田小事件の宅間守元死刑囚や、16年に発生し、20年に裁判が開始された相模原障害者施設殺傷事件の植松聖被告などの重大事件でも、責任能力は認められるという鑑定結果が出ている。今日の裁判において、心神喪失や心神耗弱については、そう簡単には認められない高いハードルが設けられていると言ってもいいのである。

池田小事件をきっかけに医療観察法が生まれた

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