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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第124回

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』――報道か経営か? 機密文書をめぐる大手新聞の“選択”

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『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

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国家機密文書として隠されていた「ペンタゴン・ペーパーズ」。ここにはベトナム戦争についての分析が記されており、アメリカは勝利の見込みがない、とも予測されていた。だが71年、ニューヨーク・タイムズがこれをスクープ。やがて競合紙のワシントン・ポストも同文書を入手、掲載に踏み切ろうとするも、だが、経営サイドからストップがかかってしまう。アメリカ国家を敵に回すのか、それとも報道の義務を優先させるのか?
監督/スティーヴン・スピルバーグ、出演/メリル・ストリープ、トム・ハンクスほか。3月30日全国公開。


 1971年、アメリカは大量の犠牲者を出しながら、ベトナム戦争の泥沼から抜け出せないでいた。そうなることはあらかじめわかっていた。米国防総省(ペンタゴン)はベトナムへの軍事介入について研究し、勝利の見込みはない、と推論していた。にもかかわらず、ジョンソン政権のマクナマラ国防長官はトンキン湾事件をデッチ上げて、ベトナム戦争に突入した。

 その経過や分析は7000ページの文書にまとめられたが、国家機密として隠されたまま、無意味な戦争は続いた。研究に参加したシンクタンク、ランド研究所の職員、ダニエル・エルズバーグはベトナムの惨状を体験し、義憤にかられ、文書のコピーを持ち出した。それをペンタゴン・ペーパーズと呼ぶ。エルズバーグのリークを受けたニューヨーク・タイムズは、71年6月、その一部を掲載した。

 ところが、映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』の原題は『The Post』。これはニューヨーク・タイムズの競合紙、ワシントン・ポスト紙のドラマなのだ。

ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)はニューヨーク・タイムズのスクープを見て、「これこそ今、新聞が載せるべき記事だ」と奮起し、自らもペンタゴン・ペーパーズの全文を手に入れる。しかし、ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は掲載を躊躇する。彼女は2代目社主だが、まともに働いた経験すらないお嬢さんで、夫に新聞社の経営を任せていた。ところがその夫が自殺したため、ひとりで会社を背負う事態になった。

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