サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > TLコミックの可能性【1】/『ティーンズラブ』がいま熱い理由

――女性ばかりが買うマンガといえば、少女マンガやBLが思い浮かぶだろう。実はもうひとつ、「ティーンズラブ」と呼ばれるジャンルがあることは、男性にはあまり知られていない。実はこのジャンル、10万部近いヒット作が生まれることもある大きな市場なのだ。確実な読者を抱えながら、マンガを語る上でスルーされがちなこのジャンルに脚光を当てる。

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「コミックシーモア」TLページより

 オトコは知らない、甘美な女性向けマンガの世界──そう聞いたときに、どんなマンガを想像するだろうか。どんどん実写化される少女マンガや、もはや完全に市民権を獲得したBLマンガは、男性であっても多少マンガが好きならば、どんなものか知っている人は多いだろう。本稿で取り上げるのは、そのどちらでもなく「ティーンズラブ」、通称「TL」と呼ばれるマンガだ。「このマンガがすごい!」(宝島社)や「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)のようなマンガ誌・ムックに取り上げられる機会こそ少ないが、「10冊仕入れたら7冊売れるような堅実なジャンル」(都内大型書店・コミック担当者)と語られる、着実な支持層を持つジャンルなのだ。昨年2016年には、10月に単行本化されて即重版、年内に10刷まで到達するというとんでもないヒット作も誕生。『漫画家とヤクザ』(ブライト出版)というのがそのマンガのタイトルだが、部数としては7万部をすでに突破しているといわれている。

 TLは、いわゆる「レディコミ」と呼ばれる女性向けポルノマンガから、より低年齢層に向けて派生したものがその大本にある。90年代後半に「エルティーンcomic」(近代映画社/休刊)や「少女革命」(一水社/廃刊)といった雑誌が創刊され、少女マンガのハッピーエンドの先にあるものとしてセックスが描かれた。現在のTLは、当時の名残として「ティーン」の名こそ冠されているが、読者は20~40代がほとんどで、登場人物も、主人公の女性はもとより、基本的には大人が中心だ。描き手も基本的には同世代の女性が大半だという。

 なお、10年ほど前に「最近の少女マンガがエロすぎる」とよく取り沙汰されていた「少女コミック」や「cheese!」(共に小学館)などのいわゆる少コミ系とも少し異なる。少コミ系はまさにティーンを対象とした少女マンガの発展としてエロシーンも描かれるようになったのであり(現在では以前のような過激な描写は減っている)、TLはその成立過程からして、誕生当初よりエロを含むことが前提とされていた。

電子コミック市場の歩みと軌を一にしてきたジャンル特性

 最初はマンガの常として雑誌から誕生したTLというジャンルだが、その近年の動向を語るには、電子コミック市場との関係が切っても切り離せない。

 00年代後半、まだガラケーが中心だった頃、女性向けエロマンガがモバイルサイトで人気を博しているというのが話題になった時期がある。そこにはBLもTLも含まれていた。書店で堂々と買うのには抵抗があったエロを含むマンガが、ケータイならこっそり読める──そうした需要に応えて、中小規模のマンガ系版元や編集プロダクションがその市場に参入した。

 その後、2010年頃からスマホの普及に伴い、電子コミック市場が活気づく。電子用の描きおろし作品を配信する会社も増えてきたほか、大手版元も乗り出し、一般作もデジタルで読めるものが一気に増加。配信プラットフォームも複数の大手サイトがしのぎを削るようになり、現在のような状況が誕生した。

 そしてその中にあってもやはりエロは強く、ガラケー時代から電子コミック市場を支えてきたBL、TLを扱う電子コミック専門の版元もまた一段と増える。プラットフォームでいうと、TLに強いのは「Yahoo!ブックストア」「めちゃコミック」「コミックシーモア」の3媒体。ここで人気を獲得した作品が、紙の単行本になってヒットするケースも多い。先述の『漫画家とヤクザ』も、各種サイトのTL部門で月間1位を取り続けていた。

「『漫画家とヤクザ』は、当初は重版予定がないということで、版元の営業が書店から事前指定【編註:刊行物の発売時、出版社が事前に書店から注文を受け、それに従って取次に配本パターンを指示する手法】を取りに来ていました。ですが、結局予想以上に売れたため、発売から2日後に最初の重版が決定しました。ネット上のバナー広告で気になった人が多いようで、普段はTLを買わない男性もかなり買っていかれましたね」(前出・コミック担当書店員)

 今やネット上が主戦場となったTLコミックにおいて、バナー広告は売り上げを左右する一大要素となっている。こちらの記事で紹介している4作品は、TLを読んだことがない男性読者であっても、日頃ネットを閲覧している中でバナーを見たことがあるのではないだろうか。

 昨年のTLヒット作『オネエ失格~ケダモノに豹変した午前3時~』を手掛けたアイプロダクションデジタル事業部編集長・中田英穂氏も「電子コミックの市場が生まれた当時はTLやBLを読むユーザーが中心でしたが、これだけ普及した今、一般マンガを中心に読んでいるいわゆる“マンガ読み”のユーザーも増え、全体が底上げされた。そういう状況の中で、TLを読まない人、あるいは電子コミックは買わない人でもスマホを使っていてバナーを目にすれば、興味を持ってもらえる。結果、これまでTLを読んでいなかった層にもリーチした感触があります。先日開催したサイン会では、男性のお客さんもいらっしゃいました」と語る。

王道は俺様男子、だが最近はオネエも!?

 では、肝心の中身に関しては、どういった作品が多いのだろうか? 電子コミック配信サイトで「TL」ジャンルをクリックしてみると、兄×妹、上司×部下、幼馴染みとの再会ものなどなど、さまざまな設定が。

「男性キャラは、一貫して“俺様系”が人気ですね。ドS系と表現することもありますが、鬼畜というよりはちょっと意地悪、といった程度が最近は主流になっています。設定としては、オフィスものも王道ですね」と説明してくれるのは、電子コミックレーベル・モバイルメディアリサーチ編集部だ。同レーベルからは『デリヘル姫と黒騎士~秘蜜のドレイ契約~』『29歳、彼氏なし。ケダモノ社長といきなり同居!?』といった人気TLが生まれている。

「4~5年前は陵辱ものブームもありましたが、最近はまた胸キュン要素がきちんと盛り込まれている作品のほうが好まれるようになっています。TLはハッピーエンドが基本。一方で、エロは比較的過激なほうがやはり支持されます。それと、女性向けのエロの描き方の特徴ですが、男性向けほど挿入自体が重視されず、どちらかというとその前の愛撫やキスのシーンをいかに気持ちよさそうに描けるかが重要です。また、主人公の女子が簡単に流されてしまうタイプのキャラクターだと読者から支持されにくい。一度は抵抗するものの、仕方なく……という展開はやはり人気があります」(モバイルメディアリサーチ編集部)

 確かに、電子コミックサイトに並ぶタイトルやあらすじ紹介を読むと、「嫌な奴だと思っていた犬猿の仲の男子が急に……」や「クールすぎて近寄りがたい上司に欲情され……」といったパターンで、強引さを強調する作品が多数。肉体を翻弄される中で徐々に気持ちが伴ってゆき、実は男性側も以前から主人公に好意を持っていたがためにそういった行動に出たと判明、最後は気持ちが通じて2人の快楽は最高潮に……というような展開が王道なのだとわかる。当初はあまり良く思っていなかった相手のことを知るうちに、だんだん気になる存在になっていき、惹かれていくという展開は、少女マンガでもおなじみ。少女マンガ的胸キュン+エロ=TLということがよく伝わってくる。

 一方で、ここ1年ほどマンガ好きの間では「最近のTLでは、オネエものがはやってる」という話が実は少々話題になっていた。前出の『オネエ失格』のみならず、下着メーカーのイケメンオネエ上司×部下女性の『恋するランジェリー』(相葉キョウコ/ぶんか社)、街コンで声をかけてくれた優しいお姉さんが実は肉食男子だった『スカートの中はケダモノでした。』(ハナマルオ/星雲社)など、オネエの男性が豹変する展開が売りの作品が多数見られ、TL棚の一画を占めていた。配信サイト「めちゃコミック」でも「オネエの本性は野獣♂」と題したTL部門内の特集が組まれている(実際、オネエもののTL作品には、サブタイトルで「野獣」「ケダモノ」といった言葉が入るケースが多い)。前出の中田氏の会社は、実は『オネエ失格』の前にもオネエもののTLを手がけていた。

「13年に出した『裏ドS社長の専属秘書』が、最初のオネエもののTL作品になるのではないかと思います。これは、作家の田尾裸べっちー先生がどうしてもオネエものを描きたかったけれど、いろんな版元さんで断られているのを知って、他社がやらない独特の作品だからこそやってみようと思いました。当時はやはりTLの王道の男性キャラではないために編集部でも反対されましたし、まだオネエを全面に謳うことには躊躇があり、タイトルや表紙の絵ではそれとわからないようにしました。一度読んでもらえば絶対面白く感じてもらえると思ってましたが、電子コミックの場合は最初に敬遠されないことが大事なので。結果、『裏ドS社長~』はちゃんと売れた。その後に他社さんからもいろいろオネエものが出て、受け入れられる土壌がしっかり出来上がっていたので『オネエ失格』ではタイトルから打ち出すようにしました」

他ジャンル読者流入で広がるTLの世界

 こうしたヒット作の誕生には、前述のような電子コミック市場の普及が大きくかかわっていると中田氏は分析する。

「デジタルでマンガを読む読者全体のレベルが上がっており、最近はTLでもストーリーや設定に幅を持たせる必要があると感じています。以前はオフィスものや俺様系、ドS男子といった昔からある王道以外はあまり読者に受け入れられませんでしたが、2~3年くらい前からファンタジー風だったりBL的な要素が入っていたりと、いろんなタイプの作品が増えてきました」

 確かに、オネエものはBLにおいても近年ヒット作が複数出ている人気の設定だ。そして『オネエ失格』の男性キャラは単なるオネエ風ではなく生粋のゲイであり、それでいて「アナタにだけは欲情するし愛している」と主人公に愛を囁く。これはBLややおい系同人誌で多く見られる「俺はノンケだけど、お前だけは好きなんだ」という王道パターンと同じ構図である。BL要素という点でいえば、先述の『漫画家とヤクザ』では女性主人公がTLではめったに見られない貧乳だったり、少女マンガ的な可愛さとはかけ離れた造形になっているほか、男性キャラ側の心情の動きの描かれ方も、BLマンガにおける攻めキャラのそれと非常によく似ている。また、殊にやおい系同人誌ではこれまたテッパンである女体化ものも、TLの枠内に登場してきている(『女体化ヤンキー学園☆オレのハジメテ、狙われてます。』高尾鷹浬/Bevy、『オレのそんなトコ撮るなぁッ!~女体化イケメンの受難~』風雅ゆゆ/アスコミほか)。もとは男性だったキャラクターがちょっとしたトラブルから身体が女性になってしまい、そうとは知らない男性に抱かれるようになってその快感に戸惑う……というパターンだ。確かに肉体的には男女だが、精神的には男×男であり、こうなってくるともうBLとTLの線引きがいよいよわからなくなる。

「そもそもTL専業の作家さんというのは非常に少なくて、BLや男性向け成人コミックと兼業している方も多いんです」(前出・中田氏)

 実はこれは、TLというジャンルが生まれた当初からの特徴でもある。同人であれ商業であれ、BLとTLを掛け持ちにしている作家は「少女革命」の時代から多数存在した。2010年にアニメ化されたファンタジーマンガ『おとめ妖怪ざくろ』の作者・星野リリィは、以前はBLの世界で人気を誇っていたマンガ家だが、商業デビューは「少女革命」掲載作。そうした作家の例は数多い。

「ウチは結構BLの作家さんに声をかけますね。TLの王道を中心に描いている方に改めて声をかけるより、BLでやっている方のほうが普段幅の広い話を描いていることが多いので、新しいものを生み出すことができるんです。それと、同人誌を描いている方は最初からデジタル作業をしていることもあって、すごく絵がうまい人が多い。同人作家さんの技術力のアベレージは、かつてに比べて格段に上がっています」(同)

 本誌でもかねてからたびたび取り上げてきたが、BLは今や爛熟しきって百花繚乱の状態を迎えている。人外×人間あり、スリラーサスペンスあり、ギャグエロありSFあり、と、確かに幅の広さという意味ではTLに比べても異常発達を遂げている。商業コミックですらそうなのだから、同人の世界はさらになんでもありだ。そこで培われた発想力がTLに持ち込まれれば、確かにこれまでにはなかったストーリー展開やマンガ的表現が生まれる可能性は高い。

 ただし、BLとTLで最も大きく異なる点として、TLは作家買いが起きにくいジャンルだと関係者は口を揃える。

「最近は名前が先行する人気作家の方も顕在化してきましたが、BLほどではありません。基本的に、読者の方がBLと違ってオタクではないからだと思います。ひとりの作家やレーベルを買い集めるというような行動が起こりにくい」(前出・モバイルメディアリサーチ編集部)

「作家名やレーベル名でなく、キーワードと設定、表紙を見て気になったものを買う人が大半なので、続きものが少ないのもTLの特徴だと思います。いくつかの例外はありますが、複数巻を重ねる作品は出てきづらい」(前出・コミック担当書店員)

 マンガ批評や研究の文脈がより広がりを見せる中で、BLや少女マンガは多くの研究分析本が刊行されているのに対し、TLがそうした対象になるケースはほとんどない。ジャンルの歴史をまとめた資料も、ほぼないといっていい。だが現在、前述の通りバナー広告の力を借りて、従来のTL読者の外側にも届きつつある。このまま広がりを持つことができれば、ジャンルとしてさらに育っていく可能性は十分にあるはずだ。数年後には本稿のような記事が古びて見えるほどTLがいちジャンルとして活性化すれば、日本のマンガ業界はさらに面白くなっているのではないだろうか。

(取材・文/小宮 鰯)

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