――若手女流詩人が読み解くアイドルたちのコトバ
金魚ばちの中の金魚のイメージが斬新だった松井玲奈ファースト写真集『きんぎょ」(光文社)
良い子は一番つまらないんです。
――松井玲奈(SKE48・乃木坂46)
昨年から乃木坂46を兼任し、広く人気を集める松井玲奈。ライブで見た彼女は、その淑やかな外見から想像もつかない激しさで踊り、会場を盛り上げていた。線の細い〈薄命の美少女〉のイメージを鮮やかに覆された。ゲーム・マンガ好き、鉄道ファン……早い話が彼女はオタクだ。だがファンの獲得だけに必死の子より、趣味を持つ女の子のほうが、マイペースで安定して見える。「能動的ぼっち」を説く彼女は、皆の中心にいるより、末端から全体を見ていたいのか。特異な視点を活かした鋭い発言に期待したい。
連載は今回で最後。「見せ方(魅せ方)」を考え抜くアイドルたち。彼らの発言は輝かしくも、ときに矛盾する。その裏表を詩で描き出してきた。詩と誰かの交わりを願い、これからも書く。
やさしい窒息
水槽につま先を浸して、
水面の月を赤く乱す。
夜に溺れるあの子は「ひとり」の金魚。
わたしにはない赤い尾びれをひるがえし、
いたずらに笑うのです。
(愛はやさしい窒息だから
息をとめたら合図して)
彼女が吐いた小さな泡は
水面へとのぼりつめ、瞬く間に弾けた。
水槽にたっぷりの闇を注ごう。
あの子のきらめく鱗が、
「みんな」に見えすぎてしまうからね。
ガラスの壁に吸いつく白い指、
ときおり震える柔らかなまぶた……。
すべてが闇にまぎれるとき、
水槽よ、映しなさい。
やさしい窒息の末に泳ぎ出す
わたしたちの未来を。
文月悠光(ふづき・ゆみ)
1991年生まれ。詩人。高3で発表した詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で中原中也賞を最年少受賞。「ミスiD2014」で"ポエドル"として話題に。ラジオ番組での詩の朗読、雑誌「ケトル」(太田出版)でのレビューなど広く活動中。