サイゾーpremium  > 連載  > 学者・萱野稔人の"超"哲学入門  > 【萱野稔人】カントの『永遠平和のために』を読む
連載
哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第12回

「世界国家を樹立すれば戦争はなくなる」という認識の過ち

+お気に入りに追加
1502_kayano_01.jpg

『永遠平和のために』

カント(宇都宮芳明訳)/岩波文庫/540円+税
ドイツの哲学者イマヌエル・カントが恒久的な平和を実現するための政治哲学を考察し、常備軍の廃止や国家の連合など具体的提起を行った名著。永遠平和の実現は空論などではなく、平和へ向けた努力が人間の義務であると説く。

『永遠平和のために』より引用
以上に述べた諸理由から、平和連合(foedus pacificum)とでも名づけることができる特殊な連合が存在しなければならないが、これは平和条約(pactum pacis)とは別で、両者の区別は、後者がたんに一つの戦争の終結をめざすのに対して、前者はすべての戦争が永遠に終結するのをめざすことにある、と言えよう。
この連合が求めるのは、なんらかの国家権力を手に入れることではなくて、もっぱらある国家そのもののための自由と、それと連合したほかの諸国家の自由とを維持し、保障することであって、しかも諸国家はそれだからといって、(自然状態にある人間のように)公法や公法の下での強制に服従する必要はないのである。

 戦争を根絶し、永遠平和をどのようにつくりだすか。18世紀ドイツの哲学者、イマヌエル・カントは『永遠平和のために』のなかでこの問いに正面からとりくみました。

 カントの答えは明快です。諸国家が連合して「平和連合」をつくり、戦争が起こらないようにそのもとで協力しながら国際秩序を維持すべきだ、というものです。現在の国際連合のような組織体をつくれ、という提案ですね。事実、カントのこの構想は第一次世界大戦後に設立された国際連盟に大きな思想的影響をあたえました。

 ここでのポイントは、カントはすべての国家を統合する"世界国家"をつくるべきだとは提案しなかった、ということです。右の引用文のなかでカントはそのことを明確に述べています。すなわち、平和連合をつくる目的は「なんらかの国家権力を手に入れることではない」と。つまり、世界的な国家権力を樹立するのではなく、あくまでも諸国家が併存している状態で連合体をつくり、そのもとで戦争を抑止し、平和を実現しよう、ということです。

 もしかしたら読者のなかには、戦争を根絶するためには世界国家を樹立したほうがいいのではないか、と考える人もいるかもしれません。たしかに世界政府が設立されて世界がひとつの"国"になれば、個々の国家は消滅しますから、国家同士の武力衝突である戦争はなくなるでしょう。たとえ世界国家のもとでいろいろな集団同士の武力衝突が起こったとしても、それはもはや"戦争"ではなく、世界政府によって取り締まられるべき"犯罪"となるのです。世界国家ができても世界から武力紛争そのものがなくなることはないでしょうが、少なくとも"国家同士の武力衝突である戦争"は――世界全体がひとつの国家になるわけですから――理論的にはなくせるでしょうね。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2026年11月号

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界
    • 「沼化」するエンタメ業界
    • 膨らみ続けるグラビア市場
    • SNSがつくる「あなたの好み」
    • 映画界ハラスメントの実態
    • ゲーム実況者の高齢化問題
    • PS、ディスク販売廃止の衝撃
    • 私たちは「ドパガキ」なのか
    • AI時代の「生歌」の価値
    • 「ニコ生ホラー」とは何だったのか
    • テクノロジーが広げる学びの未来
    • AI時代のサイバー攻撃
    • リングを彩る美女たち
    • 〈Cosplay beauty〉もちむぎ

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 滝藤賢一、名バイプレイヤーの境地
    • 唯一無二の音楽家・水槽
    • 小八重葵美が得たもの

連載

    • [マルサの女]高橋凛
    • 神保哲生×宮台真司の「TALK ON DEMAND」
    • 萱野稔人と巡る「超・人間学」
    • ドクター苫米地に聞け!
    • 井川意高の天上夜想曲
    • 韮原祐介の匠たちの育成哲学
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • GROOVE SEQUENCE
    • 笹 公人×江森康之の「念力事報」
    • 町山智浩の「映画でわかるアメリカがわかる」
    • 花くまゆうさく『カストリ漫報』
サイゾーパブリシティ