サイゾーpremium  > 特集  > 社会問題  > 【Zeebra】参戦! ビーフの歴史から考察する日中韓問題
第1特集
ラッパーたちが提起する愛国【2】

【Zeebra】が語るビーフの歴史「ヒップホップのビーフは実に建設的な文化である」

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――こちらのページでは長き歳月を経て、いちアーティスト、いち人間としての強度を手にしたHAIIRO DE ROSSIの思想に触れたが、ここからはビーフそのものの歴史について触れていきたい。

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 音楽には、失恋や離別、人生や葛藤などのあらゆるテーマが存在するが、「ラブ&ピース」という思想は常に隣り合わせなもので、「世界中、手をつないでひとつになろう」といった、一種のメッセージが込められている。もちろん、ジャンルによってそのトピックの扱い方はさまざまだが、ことヒップホップ・ミュージックにおいては、その概念も持ち合わせながら、“ビーフ”という独自のカルチャーでエンターテインしてきた稀有なジャンルである。

 例えば、気に食わない相手を蹴落とすために仕掛けるビーフもあれば、向上心から生まれるピュアなビーフがあるのも事実。また、ストリートから誕生した音楽ゆえ、既得権益に対して戦いを挑むビーフもあったりと、そのスタイルはさまざまだ。HAIIRO DE ROSSIのインタビューを経て、ここでは国内ヒップホップ・アーティストのパイオニアであり、幾多のビーフを経験、そして仕掛けもしてきたZeebraに、その歴史的背景を聞く。

「ビーフは、わかりやすくいえば“ケンカ”。その昔、アメリカのヒップホップレジェンドであるアフリカバンバータがギャング同士の抗争をブレイクダンスでカタをつけた、という逸話があるけど、ヒップホップにおけるビーフは、ただ単に暴力で揉め事を解決するだけではない、“建設的”な目的がある。そこには一定のルールがあり、ゲーム性も伴っている。ヒップホップはストリートの音楽ゆえ、ケンカは避けられない音楽だけど、だからこそルールを守り、ビーフの文化は重んじられてきた。

 さらにヒップホップのカルチャーには“競争”がある。“俺は○○より優れている”、“俺は○○より優れたパフォーマンスができる”、そんな競争があってラッパーは成り上がってきた。そこには地域性の問題が介在することもあって、ヒップホップ発祥の地はクイーンズだ、いやブロンクスだ、といったビーフも過去にあったりしたけど、それはただのケンカに終始せず、ヒップホップという音楽ジャンルを高みに上げた大事な競争意識だったと思うんだ」

 ヒップホップの文化が形成される上で、独特の“スラング”が数多く誕生してきたことも、その競争意識の賜物といっても過言ではない。例えば、80~90年代に活躍したラッパーの多くは、マイクを握りパフォーマンスを行う際、自分のMCネームを告げた後に、「インザハウス!」と、そこに我がいることを高らかと宣言していた。しかし、00年代に入ると、「ハウス? 俺はそんな小さな空間じゃ収まりきらないぜ!」という競争意識から、「インダビルディング!」と、建設物のサイズを一気にのし上げた。

 こうした些細であっても、競争心を忘れない心が、ヒップホップ・カルチャーの建設的なマインドを支えているのだ。

 しかし、Zeebraは嫌韓・嫌中・反日における現在のビーフ=諍いは、まったく建設的ではないと指摘し、ある事件を例に挙げて、警鐘を鳴らす。

「ビーフは短期間でカタがつかないと、憎しみだけが増幅されていくものなんだ。過去に、ビーフがなかなか収束しないことによって、2パックとザ・ノトーリアス・B.I.G.(ビギー)という偉大なラッパーを失ってしまった事件があったけど、それはヒップホップにおいて最大の悲劇だった」

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命を落とすにまで発展した2パックとビギーの抗争は、いまだ象徴的なビーフの事件として語り継がれている。

「2パックとビギーの悲劇」とは、アメリカのヒップホップ・シーンを全世界的に広めた歴史的なビーフのことを指す。しかし、ヒップホップらしくマイクを用いたビーフで終結するかと思いきや、2パックは96年に、翌97年にビギーも銃撃で死亡。両者のビーフは何者かに殺害されてしまうという、悲惨な結果で幕を下ろすこととなった。

「それ以降は死者が出るまでのビーフはなくなったし、学ぶところは学び、自浄作用が働いて、無益な戦いは行われていない。

 ビーフには短所もあって、高いレベルで行われていれば有益なバトルになるけれど、低いレベルで行われれば、足の引っ張り合いにしかならない。まさに嫌韓・嫌中・反日の思想は、それに似ている部分があるね。俺はどちらに対して何かを言うわけでもないし、日本が正しいと言い切らなければ、間違っているとも言い切らない。それ以上に、自分は未来に向けてやるべきことをやったほうが得策だと思ってる」

 高いレベルで行われるビーフというのは、一方的ではなく、互いがその対象を認識した上で、バトルで白黒をつけるものを指す。一方、低いレベルで行われるビーフというのは、単に一方的に罵ったり、事実ではない私見のみで悪辣な言葉を並べ立てるものを指すのだろう。さすれば、2パックとビギーのビーフも後者にあたるのかもしれないが、2パックとビギーにはビーフを仕掛けてきた者に対する アンサー 、つまりリアクションがあった、という意味では、まったく非生産的であったとは言い切れない。

「昔はあり得なかったけど、今は俗にいう“ツイッター・ビーフ”なんていうものもあるよね。実際、インターネット社会じゃ、どこで諍いが起きているかなんかわからない。でも、なぜSNSが炎上したり、ビーフの格好の場所になるかというと、そこは一種の表現の場所でもあるからなんだよ。極めて影響力の高い著名人だろうが、引っ込み思案の一般人だろうが、そこに影響力の差が生じないときもある。ただ、一般人がよく炎上してしまうのは、公人でない以上、耐性が付きにくい、っていう問題なんだと思う。

 2パックやビギーのように、昔は発信する場所が限られていたから、ビーフの終焉がなかなか見えなかった。でも、今はSNSを介してビーフが生じると、思った以上にサクッと終わってしまう。その分、こじれないメリットもあるけど、昔のようにエンターテインメントじゃなくなってしまったというか、盛り上がらなくなってしまった。つまり問題提起になる前に収束してしまう、って短所はあるよね。昔は、そのビーフの期間に第三者が介在してくることが多々あったから、いろんな意見が飛び交ったわけだけど、今は当事者同士で終わってしまうことが多いからさ」

 確かに、SNS時代におけるビーフの収束の速さは特筆すべき部分である。それはHAIIRO DE ROSSIの「WE'RE THE SAME ASIAN」の舞台となった、YouTubeのような動画共有サイトが生活の一部となったこと、ツイッターやフェイスブックなど、即時的に表現できる場が一気に増えたことに起因する。

 日本でもツイッターが台頭しはじめた頃、新進気鋭のラッパー、RAU DEFが「KILLIN EM!」でZeebraにビーフを仕掛けたのは11年中盤のことだ。

 RAU DEFが「そろそろ白黒つけようぜZEEBRA/この際糞なScene食い荒らそう」というディスで煽ると、Zeebraはその宣戦布告を真正面から捉え、「ふっ。そうか。面白い。( ̄^ ̄)ゞ」と顔文字つきのやんちゃツイートで応戦、その翌日にはアンサー「Die By The Beef」をYouTubeにアップした。

東電もびっくりの責任転嫁
トチ狂って年上に
ライムでケンカ?
若手いじめるのは柄じゃねえ
だから忘れんなよ
これはお前のゲーム
〈中略〉
神よ 許したまえ奴の罪を
若さが故の過ちと無知を
銃に生きる者は銃に死す様に
Beefに生きる者は
Beefに死す

(「Die By The Beef」より抜粋)

 当初はRAU DEFとZeebraを知る者のみで広まったビーフだったが、SNS時代の恩恵にあやかり、その2人のやりとりは異分野の聴衆の耳を集める動きにもなった。そのほかにも09年、NIGO®率いるTERIYAKI BOYZにビーフを挑んだSEEDAの戦いは、通称「TERIYAKI BEEF」と呼ばれ、話題を集めた。TERIYAKI BOYZのメンバーであるVERBALはSEEDAに対し、「ラッパー対ラッパー、サシで話をしませんか」と、自らのブログでアンサーをし、VERBAL自身がMCを務めるポッドキャスト「VERBALEYEZ」にSEEDAをゲストとして呼び込み、放送内でフリースタイルバトルを行う、といった動きにまで発展。結果、「もう言うことはない」と、ひとまずTERIYAKI BEEFは収束に向かった。

 海外では、ビヨンセの旦那としても知られるジェイ・Zと、ブルックリン出身の正統派MC、ナズによるビーフ→和解が耳目を集めた。そもそもの発端は、ナズをラッパーとして高く評価していたジェイ・Zが、自分のアルバムにナズをフィーチャリングで起用しようとしたが、ナズはそれを拒否。それは1996年までさかのぼる話になるが、“曲”としてのビーフが勃発したのは、01年のこと。互いにアンサーを曲で発表しつつ、「その曲の出来が良いのはどちらか?」とラジオ局が投票を行うまでに至り(このときはナズが僅差で勝利している)、こうしたビーフ・カルチャーの巨大化は、「一種のセルフプロモーションなのでは?」と穿った見方をされることもしばしばであった。

 結果的に2人が和解したのは05年。「ビーフは短期間で収束しないと憎しみだけが増幅され、悲劇を生む可能性も孕む」わけだが、互いに2パックとビギーとは近しい間柄であるナズとジェイ・Zは、「学ぶところは学び、自浄作用が働いて、無益な戦いは行わなかった」ということだ。

 いずれにしても、そのどれもが決して“非生産的”ではなく、聴衆の耳を傾けさせるエンターテインメントとしての機能を果たしたことは紛れもない事実なのだ。

ビーフから浮かび上がる嫌韓・嫌中問題

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『高校生RAP選手権』は、ビーフにゲーム性を持たせ対戦化させた「MCバトル」として、人気を博している。Zeebraはコミッショナーを務めている。

 話題がそれてしまったが、話を嫌韓・嫌中・反日における諍いに戻そう。

 日中韓の非生産的な罵り合いというのは、ヒップホップにおけるビーフの非エンタメ性と類似する点があるのではないだろうか。Zeebraは昨今の日中韓問題において、「他国にディスられても、その問題を置き去りにして、違う問題で対抗し、本質をすり替えている」と話す。

「ヒップホップのビーフは言葉での応酬によるため、“言語の壁”があると成立しにくい」という指摘は、本誌連載「ファンキー・ホモ・サピエンス」を執筆する丸屋九兵衛氏の言葉だが、実際に日中韓、それぞれ一部のラッパーによる一方的なディスソングが存在するのは事実だ。しかし、あまりにアンダーグラウンドであること、特に中国ではYouTubeの視聴が規制されていることもあり、それが国境を越えたビーフに発展することは、ほとんどない(有志による翻訳によって情報が伝えられることは稀にある)。

「最終的には歴史の問題になってくる。世界中に歴史を研究している学者がたくさんいるのに、いまだに決着はつかない。強制連行だ、慰安婦問題だ、やったのか、やっていないのか。俺は歴史の授業で、日本人は悪いことをしたんだって教わって育ってきた。でも、そうじゃない可能性が大人になるにつれてわかってきた。

 そのことに対し、俺は歴史学者と同じ立場でものを言えるわけがない。嫌韓・嫌中をヒップホップのビーフ・カルチャーと照らし合わせたとき、日本がやらないといけないのは、スタイルをしっかり持って、本質からそれることなく、アンサーを出すことなんだと思う。

 あとはビーフの最大の長所であるエンターテインメントとしての盛り上がり、つまり聴衆の耳を傾けさせることが大事だと思うよ」

 Zeebraは複雑な問題だと前置きをしつつ、現実的な提案を示す。たとえ、「嫌韓! 嫌中!」と声を大にして叫んだとしても、それが核心を突き、聴衆の耳に届くものでなければ、建設的な戦いにはならない、ということだ。

 ヒップホップにおけるビーフの勝敗は、聴衆の反応によって決まる。MCバトルも同様だ。多くの歓声を手にした者が勝つ。実際にHAIIRO DE ROSSIとshow-kによるビーフも明確な勝者のコールはなかったものの、スキルと、その後のHAIIROの活躍からもわかるように、前者の勝利は誰の目から見ても明らかであった。

 当事者間では解決できない深刻な問題を、多くの人の耳目を集めて関心を引く。そして、はっきりと白黒をつける。歴史解釈問題においては100%正しい回答がない以上、第三者から支持を獲得して、有利な状況を形成することは誰もが思いつくことだろう。

 現在、一部の韓国人が世界中で「ディスカウントジャパン」(日本の国際的地位を低下させる運動)をなりふり構わず行い、中国にいたっては、ルールを無視したかのような領土拡大をアジアで敢行しているように見られている。そこに必要とされるのは、ルールを重んじた、建設的な“ビーフ”なのではないだろうか。

(取材・文/中野パンネロ)

Zeebra(ジブラ)
1971年、東京都生まれ。日本語ラップ・シーンを黎明期から支える不可能を可能にする日本人。97年のソロデビュー以降、常に第一線を走り、08年には武道館公演を成功させる。他ジャンルからの支持も強く、安室奈美恵や長渕剛、DREAMS COME TRUEなどの作品にも客演参加している。

【INFORMATION】
7月16日に新曲「Diamond In The Sand feat. May J.」、M‌U‌R‌Oプロデュースの「Summertime In The City」などを収録したサマーアルバム『Summer Collection』をリリース。また、彼が主宰する新レーベル「GRAND MASTER」が発足。「高校生ラップ選手権」の覇者となったT-PablowとYzerrの双子兄弟ユニット「2WIN」や、8月に劇場公開予定の映画『TOKYO TRIBE』(監督・園子温)にも出演するEGOなどのリリースが控えている。〈http://grandmaster.jp

さらに8月16日にはZeebraプロデュースのヒップホップ・フェス『TOYODA BIKE presents SUMMER BOMB produced by Zeebra』がZepp Diver Cityで開催される。チケット絶賛発売中。問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

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