サイゾーpremium  > 特集2  > なぜ、【フィギュア選手】の家計はジリ貧なのか?

――スター性を備えた選手が次々と現れ、ウィンタースポーツの中ではケタ違いの人気を誇るフィギュアスケート。ソチ五輪が開幕した今、マスメディアではその華やかな側面ばかりが注目されているが、一方では「競技を続けるために必要な費用もケタ違い」「金持ち以外には続けられないスポーツ」ともいわれている。テレビ中継されれば高視聴率を記録し、大会の観客動員も好調なこの競技の裏に、どんな問題が潜んでいるのだろうか?

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日本フィギュアスケート界の顔でもあり、至宝でもある浅田真央選手と高橋大輔選手。

 2006年トリノオリンピック金メダリストの荒川静香には、「一般的なサラリーマン家庭で育ったので、お金のかかる衣装は母親の手作りだった」という有名な逸話がある。そのほかにも金銭面で苦労したエピソードを持つ選手は複数おり、一方で、「あの選手は実家が金持ちだから」と噂される選手もいる。いずれにせよ、"フィギュアスケートはカネがかかるスポーツ"というのは、関係者の間でも共通の見解のようだ。

 スポーツマネジメント・スポーツ社会学を研究する近畿大学産業理工学部の黒田次郎氏は、「ほかの競技と比較しても、フィギュアスケートは特にお金のかかるスポーツといえます」と話す。

「まず日本には、選手が練習できるような環境の整ったスケートリンクが少ない。また小中学生が習い事感覚でレッスンを受けるのであれば、費用は月額1万円程度で済みますが、大きな大会を目指すとなれば、練習でもリンクを独占に近い状態で数時間使用することになります。そうなれば当然リンクの使用料・指導料はケタが変わってきますし、衣装代や海外遠征費、振り付け料など、必要な費用も選手のレベルが上がるにつれて増えていきます」(黒田氏)

 スポーツライターの山田ゆかり氏も、「同様の傾向はフィギュアスケートのみならず、ウィンタースポーツ全体に見られます」と続ける。

「たとえば、オリンピックに出るようなスキー選手の年間活動費用は1000万円を超えるとされています。ヨーロッパではスキーやスケートなど、ウィンタースポーツに気軽に取り組める環境がありますが、日本ではそれが整っていない。また練習場や競技場が少ないことから、練習の送り迎えや、大会への参加でも、選手親族に求められる負担が非常に大きくなります」(山田氏)

 昨年12月23日に行われた全日本フィギュア選手権の視聴率が30%を超えたことを見ても、フィギュアスケートは国民的人気スポーツであることがわかるだろう。だが、競技人口で見れば現在もマイナースポーツ。そのため学校などの支援も、メジャースポーツと比較するとはるかに薄くなる。

「野球やサッカーには、練習環境の整った学校やクラブチームが数多く存在します。そして才能のある選手は、特待生として経済的支援を受けられる場合も多い。フィギュアスケートの場合も、浅田真央などが在籍する中京大学や、高橋大輔、織田信成らの関西大学など、一部の大学が広報戦略も兼ねて選手の支援を行っていますが(「中京大学とトヨタ自動車に支えられる最強・名古屋のフィギュアスケート事情」参照)、そこまでたどり着ける選手は氷山の一角。オリンピックレベルの選手を育てるには、家が一軒やすやすと建つくらいのお金が必要といわれますし、選手が経済的支援を受けにくいジュニア年代では、両親に求められる負担は計り知れないものになるでしょう」(黒田氏)

 ここで元選手の証言も紹介しよう。72年から全日本選手権を8連覇し、“和製ジャネット・リン”と呼ばれ人気を博した渡部絵美氏は、「当時のお金で1000万円ほどの費用が1年の選手生活には必要だった」と振り返る。

「海外遠征や合宿の移動費に宿泊代、コーチの指導料、衣装代……世界の大会で戦う選手になると、さまざまな費用が必要になります。昔は国際大会の賞金もゼロでしたし、企業から支援を受けることも難しかった。活動に関わる費用は、渡部家がほとんどすべてを負担していました。近年は大学や企業、日本スケート連盟などの支援体制も整ってきているようですが、やはり家族に大きな負担が求められるでしょうし、本人も人生をかけて競技に挑むことが求められます」(渡部氏)

 さらに現在では、国際大会の上位入賞者には賞金が支払われるようになったが、トップ選手も賞金だけでは競技生活を続けることは難しいという。

「というのも、主要な国際大会であるISUグランプリシリーズや、その上位選手が出場するグランプリファイナル、世界選手権などを全勝しても、賞金の総額は1500万円程度。この賞金額は、ほかのスポーツと比較しても非常に少ない」(黒田氏)

 また渡部氏は「昔はコーチのレッスン料に含まれていた振付料が、近年は専門の振付師に外注する形になったのも変化の一つです。しかも有名振付師に依頼をするとなれば、1曲あたり100万円、人によっては1000万円という金額が必要になる場合もあります。衣装の制作費もピンキリですが、トップ選手であれば100万円単位の金額をかけている場合もあるはず。近年はトップ選手の金銭的な支援体制が整った分、競技に関わる費用も大きく値上がりしているんですよ」と続ける。

安藤美姫の母親は猛クレーマーだった?

 このようなトップ選手に求められる膨大な活動費の支援を行っているのが、スポンサー企業だ。安藤美姫がかつて在籍するなど、愛知県出身、あるいは在住のスケート選手を中心に支援を行っているトヨタや、昨年7月に羽生結弦と所属契約を結んだANAなどがその代表例といえる。そして「選手のマネジメントを手がける企業も大きな役割を果たしている」とスポーツ紙フィギュア担当記者は語る。

「スケートのトップ選手の多くがマネジメント契約を結んでいるのが、IMG(インターナショナル・マネジメント・グループ)というアメリカ企業。同社のHPで公開されている契約選手には、日本のスケート選手では浅田真央、小塚崇彦ほか、テニスでもマリア・シャラポワに錦織圭、ゴルフではミッシェル・ウィーと、そうそうたるトッププレイヤーが名を連ねています。IMGは選手の広報やスポンサーとの仲介を行うのみならず、日本で多くのアイスショーを開催しており、敵対するとアイスショーの出演も難しくなる。キム・ヨナが日本のアイスショーに出演しないのは、IMGとモメた過去があるからでしょう。浅田真央もすでにIMGを離れたという情報もありますが……」(スポーツ紙記者)

 IMGは金メダリストには億単位の契約金を用意するといわれ、日本以外でも世界各地でアイスショーを開催している。

「アメリカでは20年ほど前の頃から、4大プロスポーツ(野球、バスケット、アメフト、アイスホッケー)に並ぶほどフィギュアスケートの人気が高く、アイスショーも人気を博してきました。日本でも近年はアイスショーの人気は急成長していて、特に高橋大輔が出る大会は必ずといっていいほど満員になります」(山田氏)

 その高橋大輔には、熱烈な“追っかけ”も多く存在するそうだ。

「お金を持っている主婦層から、高い人気があるようですね。ショーの後のリンクには、花束と一緒にシャネルの商品がプレゼントとして投げ込まれていました(笑)」(スポーツ紙記者)

 彼のようなスター選手の登場もあり、大会のチケットも高額化が進んでいるという。たとえば3月にさいたまスーパーアリーナで開催される「ISU世界フィギュアスケート選手権大会2014」は、多くの席が1万円以上。最高額のプレミアムシートは2万5000円と、強気の価格設定だ。

「このようにフィギュアスケートの世間的な人気が拡大したのは、安藤美姫の登場以降でしょうね。彼女のルックスの良さや、衣装のセクシーさも話題を呼び、選手のCMなどへの露出が一気に増えた。やはりフィギュアスケートは『美』を見せる特殊なスポーツであり、そこに目を付けて、ビジネスをする人物や企業が群がった格好です。ただ安藤のセクシーショットについては、彼女の母親がメディアに出回る写真を逐一チェック。一部の男性誌や写真週刊誌などでは開脚写真などがクローズアップされ、日本スケート連盟に止めさせるよう要請をしていたそうです」(同)

 一方、こうした選手の人気に便乗してか、オリンピックで競技に関係ないエキシビションが行われるのも、「やはり集客、カネ目的」とスポーツ紙記者。また黒田氏もフィギュアスケートにおける「ルックス」の重要性を指摘する。

「『美しさ』が人を魅了する競技のため、採点競技ではありますが、客観的要素より主観的要素が強く反映される……という面も確実にあるでしょうね。見た目にも華のある選手が登場してきたことは、現在のフィギュアスケートの人気に大きく関係しているはずです」(黒田氏)

 そして多くの国際大会がテレビ中継されるようになり、フィギュアスケート業界には莫大な金額が流れ込むことになった。

「日本スケート連盟も放映権などで資金的に潤い、選手への支援体制が手厚くはなった面はあるでしょう。スポーツの世界では、『選手の国際大会での活躍→人気の増加・競技の普及→業界全体の収入増加……』というように、ひとつのきっかけから好循環が生まれることが多くあります。もちろんその逆もあり、スター選手が生まれないと人気は下落する」(同)

 その意味で、フィギュアスケート業界に流れたお金が、競技の底辺拡大や選手強化に使われていれるかどうかは注視すべきポイントだろう。日本スケート連盟といえば、06年に不正経理【註】が明るみになり、逮捕者も出している。

「橋本聖子が新会長になって以降は、資金の流れもクリアになりました。そもそもスケート連盟はスピードスケート派とフィギュアスケート派の派閥があり、元スピードスケート選手の彼女が会長になったことで、スピード派閥の力が強まり、フィギュア派の発言権は小さくなったとされています。ただ、多くのお金を生み出せるのはフィギュアスケート。テレビであれだけの視聴率を取れる人気を考えると、今後はより多くのお金が、競技を続ける選手たちに還元されるべきでしょうね」(スポーツ紙記者)

 無論、選手の強化というのは、一朝一夕で結果が見えてくるものではない。

「日本のフィギュアスケートの本格的な強化が始まったのは91年から。(当時、トップ選手だった伊藤みどりにあやかって)『長野オリンピックへ向けて第2の伊藤みどりを育てよう』と、有望な小学生スケーターを呼び寄せて、全国有望新人発掘合宿(通称“野辺山合宿”)を開催するようになったんです。その1期生が荒川静香であり、安藤美姫、恩田美栄、中野友加里といった選手も、この合宿出身者。今のフィギュアスケートの人気は、20年以上前に始まった強化策の成果ともいえるんです」(山田氏)

 ソチ五輪が開幕し、日本の選手団が活躍しているが、こうした歴史をふまえた同大会の結果は、選手たちにとって人生を左右するものといえる。

「前回大会のメダリストで別格の人気を誇る浅田真央や高橋大輔を除き、今大会の出場選手でさえも、現状では金銭的には厳しい状況でしょう。先ほど、『オリンピックレベルの選手を育てるには、家が一軒やすやすと建つくらいのお金が必要』と述べましたが、オリンピックでメダルを獲らない限り、そこに注ぎ込んだ金額を回収できるような収入は得られません。そして、オリンピックで金メダルを獲ったとしても、その恩恵で食べられるのは4年だけ。1年目はさまざまな番組に引っ張りだこでしょうが、2年目からは徐々に減る。3年目はゼロに近い状態になります。4年目は『前回大会の優勝者』としてメディアに出る機会は増えるでしょうが、新しいスターが出てくれば一気に忘れられる可能性もあります」(黒田氏)

 なでしこジャパンによる世界大会での活躍で、女子サッカー人気が急上昇、選手の待遇が大幅に改善したように、女子スポーツの世界では国際大会の成績はその競技全体の未来をも変える可能性を秘めている。フィギュアスケートの選手たちは、自身の生活のみならず、業界の未来まで背負い、華麗に、そしてにこやかに氷上を舞っているのだ。

【註】……日本スケート連盟の資金を私的流用していたとして久永勝一郎元会長・松本充雄元専務理事の2名が逮捕された事件。02年に長野市で開かれた世界大会などの際、宿泊費を始めとする経費を旅行業者に水増し請求させ、連盟に約580万円を余分に支出、損害を与えたとされている。久永氏は04年までの6年間、日本スケート連盟の会長職にあり、国際スケート連盟の副会長も務めるなど、日本スケート界に大きな影響力を持っていた。

(取材・文/古澤誠一郎)

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