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連載
宇野常寛の「現代用語の『応用』知識」第9回

ネオリベ自己啓発系女子「カツマー」 VS 彼女たちを妬むヒガミ系女子「カヤマー」

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 勝間和代と香山リカの論争が話題を呼んでいる。経済評論家の勝間和代が最近立て続けに出版している「向上」を説く人生指南本に、精神科医の香山リカが噛み付いて論争になったのだ。そして僕は最近、なぜかこの「カツマ・カヤマ問題」についてコメントを求められることが多い。

 最初に断っておくが、僕は勝間氏や香山氏の本の内容それ自体にそれほど興味は持てない。斎藤環氏をはじめ、さまざまな論者が指摘するように、強気な状態にある人が勝間本を読んでエネルギー源にし、弱気な人が香山本を読んで安心する。ただそれだけの話で、ふたりの対立は擬似問題でしかない。幸せのかたちは人ぞれぞれ。努力で幸せになれるとは限らないが、努力したほうがその確率は上がる……という「常識」を確認するだけで、このふたりの論争はほぼ決着がつく。

 ただ僕から付け加えることがあるとすれば、それはふたつある。まず、勝間氏は明らかに「努力」「向上」それ自体が目的化しており、当初の目的(理想のライフスタイルとか自己実現とか)は二の次になってしまっている。本人が楽しんでいるのなら別にいいのだが、読者は勝間氏がランナーズハイに陥っていることを踏まえないと、彼女の「技術」の応用方法を間違えてしまうだろう。そして香山氏のほうは、はっきり言って卑しい。香山氏は「勝間和代の本を読むと、もっとラクに生きたい人が、自己実現しなきゃと強迫観念に陥って苦しくなる、だから勝間を批判するのだ」と言っているが、これは完全に間違っている。だって勝間氏の読者なんて基本的に「努力して幸せになりたい人」であり、手を抜いて生きたい人(たとえば僕だ)は、最初から勝間氏の本なんて(仕事でもない限り)読まない(現に僕がそうだった)。

 じゃあ、どんな人が香山氏の勝間批判を喜ぶかと言うと、「がんばりたい」のにそれがうまくいかず、自分よりも努力がうまくいって成功している(ように見える)人を「ヒガんで」いる人たちだ。そして香山氏による勝間批判の盛り上がりを眺めていると、むしろそこに時代の病を発見せざるを得ない。僕がこの問題に興味があるのは、こうした「病理」が端的に表れているからだ。向上それ自体を目的化せざるを得ないアジテーター・勝間と、彼女に自己同一化する読者たち(「カツマー」という)。そんな勝間/カツマーにピントハズレの批判をぶつけることで、溜飲を下げるヒガミ系読者とそのグレートマザーたる香山。このマッチポンプが商売になっていることが一番の問題だ。

 僕は90年代からの香山氏の読者であり、彼女の説く人生観にも基本的には共感する。僕も、能力の3割くらい使って糧を得て、あとは部屋で適当に仮面ライダーのフィギュアでもいじりながらダラダラと生活できたら楽しいだろうなと、よく夢想している。だがそんな生活(よく言えばスローライフ、悪く言えば手抜き人生)を手に入れようと思ったときに、必要なのは果たして「自分よりがんばっているヤツをヒガむ」ことで溜飲を下げる行為なんだろうか。僕は絶対に違うと思う。皮肉にも、そんな「手を抜いて生きる」ために必要なことは(あくまで相対的にだが)、むしろ勝間氏の本から得られると思う。彼女の説く仕事術やライフスタイル設計術は、距離を持って批判的に読めば、それなりに「手を抜いて生きる」ための価値中立的な「技術」に還元できるはずだ。もっとも、多くの読者がそんな「批判的読書」による「還元」ができずに「カツマー」になるのが問題なのだろうが、彼女たちを揶揄して溜飲を下げる「カヤマー」になっても、まあ、より卑しくなるだけ、のように思える。

<使用例>

(会社の給湯室で)
「あの人カツマー入っているよね、ちょっとついていけないかも」
「あ、彼女最近目立っているから、うらやましいんでしょ。カヤマーになってない?」

<関連キーワード>

『しがみつかない生き方─「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール」』
とはいいつつ、「自分よりがんばっているヤツ」を妬み、叩くことにはしがみつきまくりの一冊。


『勝間さん、努力で幸せになれますか』
2人の議論の堂々巡りから、この問題のマッチポンプ性が明白に浮かび上がる、ある意味良書。


『無頼化する女たち』
詩人で社会学者の水無田気流氏の手による、今のところカツマ/カヤマ問題を止揚する上では最も整理された論考集。


宇野常寛(うの・つねひろ)
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。ミニコミ誌「PLANETS」の発行と、雑誌媒体でのサブ・カルチャー批評を主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)がある。本誌連載中から各所で自爆・誤爆を引き起こした「サブ・カルチャー最終審判」が、書籍『批評のジェノサイズ―サブカルチャー最終審判』となって絶賛発売中!

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