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第2特集
タブー破りのアート特集【5】

LSDが染み込んだ紙の芸術!? ブロッター・アートの妖しき世界

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(上より)不思議の国のアリスをモチーフにした『Alice Through the Looking Glass』(1993年)とミハイル・ゴルバチョフをモチーフにした『Gorby』(1988年)のブロッター・アート。見ているだけでトリップする!?  今回取材に快く応じてくれたマーク・マクラウド氏がコレクトするブロッター・アートのアーカイヴ・サイトBlotter Barn(www.blotterbarn.com)がある。ここでは、たくさんの色彩豊かな作品を閲覧でき、さらには購入することも可能。

──ドラッグ関連のニュースが多い昨今だが、緻密に細工されたマリファナのガラスパイプをはじめアメリカではドラッグとアートは蜜月。なかでもブロッター・アートなる禁断の芸術があるそうで、そのコレクターにメールでインタビューを試みた。

 ブロッター・アート──LSDが染み込んだブロッター・ペーパーと呼ばれる吸収性の紙に描かれたそのアートが誕生したのは、サイケデリック・カルチャー全盛期の1960年代である。そんなブロッター・アートの権威で、世界一のコレクターであるマーク・マクラウドは、1966年から現在までブロッター・アート発祥の地サンフランシスコに住み、3万3000点以上ものコレクションを所有する人物だ。本誌は彼にメール・インタビューし、ブロッター・アートについて解説してもらった。

「ブロッター・アートが生まれたのは1965年のこと。バークレー大学の偉大なる人類学教授クラウディオ・ナランジョが、中央アメリカの祈祷師にLSDが染み込んだブロッター・ペーパーをプレゼントしたんだ。それは真っ白な紙ではなく、いくつもの星や三日月などの小さな絵が描かれていた。これが歴史上、最初に記録されたブロッター・アートだと言われているよ」

 60年代初期にはまだLSDが合法で、その形状は大きな錠剤だった。だがその後、法の改正で違法薬物に指定されたために、ディーラーたちはLSDを販売する上でそれを隠すための媒介物が必要に。そこで生み出されたのがブロッター・ペーパーで、それを隠れ蓑にLSDは形を変えてストリートで取引されるようになったのだ。そしてディーラーたちは自分が売るLSDのブランド・ロゴを描くようになり、ブロッター・ペーパーは偶像的なイメージを持つものへと転化していく。それはLSDの品質を表すという意味もあったのに加えて、逮捕されたときに錠剤そのものを販売するより罪が幾分軽くなるという理由でブロッター・ペーパーを使用することもあったそうだ。

幻覚の再発をもたらすサイケデリックなアート

 60年代末頃からサイケデリック・カルチャー全体は衰退していった一方で、ブロッター・アートは次第にアートフォームとしての地位を確立していく。腕の立つアーティストたちがトリップ時の幻覚作用を緻密な絵に表すようになったのだ。また、歴代のアイコン的な存在をモチーフとした作品が多いのも特徴である。

「代表的な作品に、サムライやミッキーマウス、スーパーマン、さらにはアルバート・ホフマン(LSDを発明した科学者)が描かれたものがあるよ。でもブロッター・アートの魅力といえば、サイケな絵を眺めているだけでフラッシュバック(生々しい記憶を思い出すという意味以外に、幻覚の再発という意味も持つ)を体験できることだね」

 ただ、LSDの媒介物という意味では、現在も違法であることに変わりはないブロッター・アート。しかしながら、なぜ優れたアーティストたちがリスクも伴うブロッター・ペーパーを表現のためのメディアにしてきたのだろうか。その疑問をマークに投げかけたところ、「真実は永久に生まれ続けていくんだよ」と答えた。そう、一度そのサイケデリアに魅了されてしまった彼らは、ブロッター・アートこそ真実=本物のアートであると信じ、もはや法的な尺度は度外視して絵を描き続けるのだ。それゆえブロッター・アートは文化としての強度を40年以上保持してきたのであり、そしてまたこのドラッグ・アートの遺伝子は後世に受け継がれていく。
【注:マークが所有するブロッター・アートにLSDは含有されていないとのこと】

(取材・文/小林真里)


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