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各界一の型破りな元お相撲さん 高橋光弥(元栃桜)のどっこい人生 第80回

栃桜というハチャメチャ力士のこと

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――破天荒な各界一の型破りな元お相撲さんによる人生譚。

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 今回でこの連載を始めて早80回になる。もう7年近く続けているんだなぁ。

 まぁ、こうなると、この連載を最初から読んでいる読者は当然少なくなっているようで、編集部には、「この元栃桜っていうのは、どんな相撲取りだったんだ?」「型破りっていうけど、今でいう朝青龍みたいなもんか」などといった質問が寄せられるそうだ。

 大横綱・朝青龍を引き合いに出してくれるとは恐れ多い。相撲の世界では、俺と朝青龍では、まるで月とスッポンほど実力も実績も差があるから、光栄な話ではあるがね。

 ということで、ここでは改めて、自他共に認める「実にへんてこな力士」だった、俺の現役時代を駆け足で振り返らせてもらおう。 朝青龍は現代の大横綱ゆえに、ガッツポーズをしただけで、あんなに騒がれ、怒られ、批判を受けている。だが、自慢じゃないが俺が怒られた回数は、横綱の比じゃないぜ。力士が命をかける土俵の上や下でハチャメチャなことをしでかし、師匠や相撲協会の役員に何度怒られたことか。

 俺が、初土俵を踏んだのは昭和37年の初場所。まだ14歳の新弟子だったが、負けん気は部屋の中でも人一番強かった。

 たとえば、不始末を犯した新弟子には、先輩たちから、ぶつかり稽古やら筋力トレーニングやらの厳しい指導がある。これを「かわいがり」といったりする。俺は、生意気だったから、このかわいがりを部屋でいちばん受けたんじゃないかな。

 普通の力士はかわいがられると弱音を吐くものだが、俺は違う。

「かわいがってくれればくれるほど、俺は強くなって、先輩たちを番付で追い越していくんだ。ありがとうさん。今日のお返しは出世払いだぜ」と思っていた。

 稽古以外にも、先輩から、まつげを全部抜かれたり、目の中にキンカンを入れられたりといったいじめを受けることがあったが、これも精神を鍛える格好の修行と思えば、楽しくなるもんだ。

 こんなこともあった。

 先輩に「おい、ちょっとオワイを買ってこい」と言われたのだ。新弟子の俺には、「オワイ」がなんだかわからなかった。

「オワイって、なんですか?」

「田舎者はこれだから困る。乾物屋、八百屋、酒屋、どこでも売ってるぜ」

 そう言われて、近所の乾物屋に出かけ、でっかい声で「すみませーん。オワイをください」と訊ねてみた。すると、店のオヤジはニヤニヤしつつ、「残念だね。さっき、ちょうど売り切れちゃった」と言う。仕方がないので八百屋に行くと、「オワイ?昨日まであったけど、今日はない。また明日、入ってくるさ」と、オヤジが素っ気なく答えた。

 次に酒屋に行ったとき、オワイの正体がわかった。

「おばちゃん、オワイを欲しいんだけど」

「オワイ?あんた、バカだねぇ。いじめられてるの?」

店先にいた客も笑っている。おばちゃんは、ため息まじりに説明してくれた。

「オワイ(汚穢)っていうのは、ウンコのことだよ」

「えっ、俺はクソを買ってこいと言われていたのか?」

「そうだよ、かわいそうに……」

 おばちゃんは、心から俺を哀れんでいるようだった。だが、こんなことで、おめおめと泣いて帰る俺じゃない。

「ただいまー。オワイを買ってきました。金はいらないって、大サービスしてくれましたよ!」

と、先輩の前に皿を差し出した。皿の上にはこんもりホカホカの……もちろん俺のオワイだ。

「バ、バ、馬鹿野郎!」

 先輩から、めちゃくちゃ殴られたなぁ。今となっては、いい笑い話である。

 それに、稽古以外で頭に来ることがあったら、稽古でうっぷん晴らしをすればいい。稽古中なら、先輩を投げ飛ばしても問題なし。ときには、先輩にバチンと顔を張られて、頭にきたから、グーで殴り返したことがあった。向こうはぶっ倒れたが、俺は殴った直後に手をパーにしたので、周りからは張り手に見えていたはずだぜ。

 その後、土俵の上でも、ファンの声援に応えることなんてしょっちゅう。軍配に納得がいかず、行司に抗議した挙げ句、花道まで追っかけ回したり、弓取り式で弓を折ったりしたこともあった。そんなエピソードを挙げていけばきりがない。もちろんそれらは、お客さんを喜ばせたいというプロ意識や死ぬ気で土俵に上がっているゆえの不可抗力みたいなもんだった。というのは、カッコつけすぎか。

栃錦からもらった言葉と5000円札

 さて、話は戻るが、そんな俺がどうして角界に入ったのか?それは、師匠との運命的な出会いがあったからだ。

 俺の師匠は栃錦、後の二代目春日野親方だ。現役時代は「名人横綱」といわれ、昭和30年代前半に初代・若乃花と共に、相撲界の黄金時代「栃若時代」を築いた人物。この2人は国民的英雄だった。

 当時の人気スポーツといえば、相撲、野球、プロレス。その中でも大相撲人気は群を抜いており、場所が始まると、日本国中、誰もがラジオ放送に耳を傾け、熱狂したものである。

 俺が角界に入ったのも、師匠の一言がきっかけだった。

 昭和34年夏、中学1年生のときである。俺は、そのとき、身長173センチ、体重は73キロ。当時の同級生の中では、いちばんの大柄だった。

 そんな俺が、柔道の初段を取る試験を受けるために、実家のある山形県舟形町の隣、新庄市に出かけていったのだが、新庄駅に降り立つと、大きなポスターが目に止まった。「大相撲新庄場所開催」。さらにポスターに書かれた、横綱・栃錦、若乃花、朝汐といった名前にワクワクした。憧れの大相撲一行が来ているではないか。

「プロのお相撲さんがいるなら、生で見てみたい!」

 そう思った俺は初段取りのことなどすっかり忘れ、巡業会場・最上公園に向かった。しかし、身体はでかいが、まだ中学1年生。入場料を払えるほどの金もなし。

 考えた挙げ句、白いテントで囲まれている支度部屋、つまり裏口からそっと入り込むことにした。

 テントの中に忍び込むと……いきなり、鬼の形相をした力士に見つかり、捕まってしまった。

「何やってんだ、このガキ!」

 大きな声で怒鳴られたと思ったら、まるでサザエのつぼ焼きのようなゲンコツまでいただいてしまった。初めてみる力士は、まるで鬼のようだ。

 そんな折、たぶん、番付が上のほうの人だろう。食事をしていた貫禄十分な関取から、助けの声がかかった。

「おい、いいから入れてやれ」

 そして、俺はその関取の横に座らされて、腹に響くような太い声で呼びかけられた。

「坊主は、何年生になる?」

「はい、中学1年生です」

「ほう、いい身体をしているな。スポーツは何をやっているんだ」

「柔道をやってます。今日、初段の試験を受けに行くところです」

 その後、身長と体重を聞いてきた関取は、俺にこう言った。

「おじさんが入門した時と、歳も身長も体重も同じだよ。どうだ力士になってみるか」

 これに対して、この人の気というか、圧力というか、目に見えぬ力に圧倒され、俺は引き込まれるように「はい、なります」と返事をしてしまったのだ。

 俺が即答したものだから、食事をしていたほかの力士が声を上げて笑った。

「ところで坊主は誰のファンなんだ?」

 ファン? そんな言葉、初耳だ。

「ファンって何ですか?」

「力士の中で、誰が一番好きか?ってことだよ」

 俺は即答した。

「はい、栃錦です」

 これを聞いて、またもほかの力士が大笑いすると、その中の一人がこう言った。

「坊主、今話しているおじさんが、栃錦だよ」

 なんと。当時は、テレビなんて普及してなかったから、俺は力士の顔なんて、メンコに描かれたものしか見たことがなかったのだ。

「えっ、この人が栃錦?メンコで見るのとは、全然違うなぁ」

 栃錦は、「小兵の横綱」とよく表現されていたが、目の前にいる人は、小兵などではなく、とんでもない大きな人なのだ。

 俺は今まで憧れの大横綱とめしを食い、話をしてたんだ……。ここにきて、急に体が熱くなったのを覚えている。

 よし、俺も相撲取りになろう!

 俺の腹はここで決まった。

 さらに、栃錦は「おい坊主、おじさんと一緒に土俵下へ行って、相撲を見物していけ」とまで言ってくれた。俺は、栃錦に導かれ、土俵下の一等席で相撲見学をすることになった。

 ちなみに、この新庄場所の主催者は、地元の名士で、草相撲の大関を張っていた叶内圧蔵さんという人物だった。さらに、この人は、栃錦とも親友だったのだ。

 新庄場所終了後、別れ際に栃錦は「坊主、楽しみに待っているぞ。詳しいことは叶内さんに話してあるから必ずおいでよ」と俺に言ってくれた。

「はい、必ず行きます!」

 すると、栃錦は財布の中から、見たこともないお金、当時発行されたばかりの5000円札を取り出し、 「おい、小遣いだ。何かうまい物でも食べなさい」と言って、ポンと俺にくれたのだ。

 あのときは驚いたねぇ。

「すごいなぁ、こんな大金見たことない」

 あの頃、山形の田舎では、7000~8000円もあれば、家族4~5名が1カ月生活するのに十分な額だった。それをこうも簡単に人にあげてしまうとは。

「よし、俺も栃錦のような立派な関取になってやる」

 人生などとは、どこでどう進んでいくか、知れたものではない。この日が俺の運命の分かれ道であり、栃桜として相撲界に足を踏み入れるきっかけだったのだ。

高橋光弥(たかはし・みつや)
元関取・栃桜。現役時代は、行司の軍配に抗議したり、弓取り式で弓を折ったり、キャバレーの社長を務めるなどの破天荒な言動により角界で名を馳せる。漫画「のたり松太郎」のモデルとの説もある。


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