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連載
神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第34回

厚労省の保身と暗部が生む インフルエンザ騒動の必然

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──今年の春、メキシコで発生した新型インフルエンザは、瞬く間に世界中に広がり、最終的な感染者数はすでに13万人を超えた(日本では、7月24日時点で4986人の感染が確認されている)。日本では空港での徹底した検疫や公共機関の閉鎖など、早くから水際作戦を展開したにもかかわらず、最終的に世界でも有数の感染者を出してしまった。この作戦について、医師で厚生労働省の現役検疫官を務める木村盛世氏は、厚労省が実施した検疫強化や水際阻止は、まったくのナンセンスだったと一蹴し、自らが所属する厚労省の対応を厳しく批判する──。

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【今月のゲスト】
木村盛世(医師・厚生労働省医系技官)

神保 今回は、医師で厚生労働省医系技官の木村盛世さんをゲストに迎え、再び猛威を振るっている新型インフルエンザを例に、日本の感染症対策について議論していきます。木村さんは著書『厚生労働省崩壊』(講談社)の中で、厚労省が感染症に対していかに無策であるかということを指摘していますが、こうした行動を起こすたびに「左遷」されています。現在は羽田空港の検疫官のポストに就かれていますが、これは本来、キャリア待遇の医系技官が担当するものではないそうですね。

木村 いわば「島流しポスト」ですね(笑)。検疫所というのは、本当だったら廃止になるはずだったところが、SARS対策のために首がつながったような組織です。厚労省内で業務に問題があった人間や、私のように上に楯突いた人間を送る、「もう帰ってくるな」というポストだと思います。

神保 木村さんは春に発生した新型インフルエンザ問題について、空港での徹底した検疫など、政府が取ってきた「水際作戦」をナンセンスだと批判してきました。あらためて、その理由を聞かせてください。

木村 第一に、感染症には潜伏期間があります。例えば日本と韓国であれば一日で行き来ができますし、海外からの帰国者が発症前に検疫を通過するケースは、当然出てくる。また、発熱の度合いにも個人差があります。今回導入されたサーモグラフィーは、大した根拠もなく38度を基準に設定されましたが、37度でインフルエンザを発症しているケースもある。このように、感染者のすべてを水際でせき止めることなど、そもそも物理的に不可能なのです。

神保 優秀な役人が集まっているはずの厚労省が、なぜ無意味な対策に力を入れたのでしょうか?

木村 検疫所は厚生労働省の組織であり、検疫で感染者が見つかっても「国内発生」にはなりません。これは、国内への感染症侵入防止を目的にした「検疫法」に規定されていることで、ここまでが厚労省の直接的な責任です。感染者が検疫を通過し、一歩国内に入ってしまえば、あとは「感染症法」という別の法律で対応することになりますが、その主体は各地方自治体。ここから厚労省は、通知や指示を出すだけになるため、「厚労省は検疫で頑張っています。国内に入ってしまったら、あとはお任せね」というパフォーマンス的な側面もあったのではないでしょうか。

神保 水際作戦の現場になった空港の検疫所は、どんな状況だったのですか?

木村 パニック状態です。一人ひとり体温を調べ、詳細な事情聴取を行う。海外からの渡航者については、日本での滞在先などの個人情報を得る努力をします。特に羽田は24時間空港ですから、プライベート機や政府専用機の発着も多く、検疫官は疲弊しきっていました。効果の薄いサーモグラフィーに多額の税金を使い、他の空港、また輸入食品の検査をする検疫所の食品監視部門などからの応援、あるいは国立病院で一般の患者さんを看ているようなドクターも駆り出して、「ダメだったら、あとはお任せ」では困るのです。現場にいた人間として、異論を唱えないほうがおかしいでしょう。

宮台 必要のない所に膨大なリソースを割く。ボタンの掛け違いなどというものではない。茶番ですね。

神保 物々しい防護服を身にまとった検疫官が、空港で機内検疫に向かう映像がテレビで流れる。そうして国民の不安が高まり、感染者を責めるような風潮も生まれました。

木村 ハンセン病や薬害エイズ問題の教訓も生かせず、国が必要以上に大騒ぎをしたため、「とてつもない感染症だ」というスティグマを残してしまいました。新型インフルエンザに感染した高校生はいわれのないバッシングを受け、校長は涙ながらに謝罪をしましたが、今回の対策責任者である上田博三健康局長がその責任を感じていないというのはおかしな話です。

神保 水際作戦が茶番だったとして、本来はどんな対策をすべきだったのでしょうか?

木村 インフルエンザ対策の基本は、「海外からひとりの感染者も入れない」などという実現不可能な目標を立てるのではなく、その拡散をなるべく小さく抑えること。そして、抗がん剤治療をしていたり、基礎疾患を抱えていたりという、重症化しやすい人々を守ることです。しかし、今回の件で、そうした対策は行われませんでした。医療の現状を考えると、医師や看護師の偏在化による相対的な人材不足があり、重症患者を看る病院は常にアップアップの状態。まさにこれまでの厚生労働行政が生んだ問題ですが、新型インフルエンザの流行に際しても、特段の対策は提示されませんでした。

宮台 そんな中、病院側が「こういう患者さんがいるから、新型インフルエンザの患者は受け付けられない」と主張するのは至極当然ですが、厚労省からの通達で、受け入れ拒否ができなくなりました。これでは国民を守ることができるはずもない。こうしたこともすべて木村さんのご著書に書いてあります。厚労省はどうなっているんだ、と思ってしまう。

木村 そうして受け入れられた患者に、ばらまくようにタミフルを使ってしまったのも大きな問題です。日本は全世界のタミフルのうちの約70%を抱えているため、誰もが使うことができる。タミフルは構造的に耐性ができやすい薬なので、実際に予防投薬が進む中で、耐性を持ったウイルスも出てきています。またタミフルは特効薬ではなく、主たる効果は一定期間の解熱です。つまり、通常の患者に必要かどうか、というところは怪しい。けれど、高熱が出る期間が1日短くなるだけで命が助かる人もいる。それが重症化しやすい患者、ということになりますが、耐性ウイルスが生まれることで、今後もタミフルが効果を発揮するかはわからないのです。

宮台 日本が不用意にタミフルを使い過ぎたせいで、耐性ウイルスを拡散させる役割を果たしました。近い将来、そうしたことについて国際的な責めを負う可能性もありますね。

木村 その通りです。インフルエンザに限らず、ベースとなる感染症対策がお粗末なので、例えば結核についても同じことが言えます。診断方法や薬の処方も適切でない例が多く、さまざまな耐性を持った結核菌を生み出し続け、海外にもドンドン流出しています。麻疹についてもワクチンによる対策ができなかったから、世界からは「麻疹輸出国」と揶揄されているほど。宮台さんもおっしゃるように、日本の行政は感染症を抑止するのではなく、拡散させているのが現状だと言えます。

専門家不在の厚労省と職員たちの保身ぶり

宮台 木村さんのお話を聞いていると、厚労省という組織には、感染症対策の有効性を観察・検証するセンサーがないし、そもそも感染症に有効な対策を取るように官僚を動機付けるインセンティブのメカニズムが存在しません。

木村 日本はエビデンス、つまり科学的な根拠をもとに動かない国です。そこで何が起こるかというと、政策が右から左にあっという間に変わってしまう。行政も大衆迎合して、科学的な見地から歯止めをかけることをしないのです。そのため、世論が「水際対策だ!」となれば一気にそちらに流れ、一度忘れられれば、現在のように何も行わないという極端な状況が生まれます。

神保 厚生労働省には医師免許を持った人も多く、感染症対策に長けた専門家がいるはずだと思うのですが。

木村 情けない話ですが、専門家と呼べる集団ではなくなりました。職員の多くは、国民の健康を守りたい、という意思を持って入ってくると思うのですが、いまや保身に偏り、医師免許を持った行政マンになってしまっている。国民を守るためにはどんな政策を打つべきなのか、ということを考えられなくなっているのでしょう。

神保 4月の新型インフルエンザは弱毒性のものでしたが、この夏には日本でも死者が出てしまいました。秋・冬以降も気をつけなければならない状況ですか?

木村 それは誰にもわからないことですが、より強いインフルエンザに備えて準備するに越したことはありません。ひとつ言えるのは、致死率が少し上がったと報じられただけでも、日本はまたパニックを起こすでしょう。

神保 この春に起きたパニックが、教訓として生かされないということですね。

木村 政策は政府の行動計画によって規定されており、これが変更されない以上は、また同じことが繰り返されます。そして、官邸に通った危機管理の行動計画を変更するためには、1カ月もの時間がかかるのです。つまり、初めから、猫の目のように変わる危機的状況に対応することができない仕組みになっていると言えます。

宮台 緊急事態の際、危機管理の有効性を評価し、それに合わせて行動計画を変える仕組みを、厚労省を含めて霞が関が普段から設計しておらず、政治家がそうした設計を霞が関に要求した気配すらない。行政官僚ならびに政治家がいったい何を目的に行動しているのか、疑念を抱かざるを得ません。

神保  保身に走り、使命感を持っていない職員もいるとのことですが、今度はそのトップについても考えていきましょう。新型ウイルス感染者第一号が出た時、舛添要一厚生労働大臣(当時)は、どうしても自分が表に出て伝えたいという強い意思があった。そのため、横浜市の高校生に感染の疑いが出た5月1日の深夜に、緊急記者会見を行いました。しかし、実際はこれがフライングだったことがわかり、それを記者に突かれると、「横浜市に聞いてくれ。電話がつながらなくて迷惑している」と、あたかも横浜市が悪いかのようなことを言いだした。限られた情報の中で先走った舛添さんのパフォーマンスも目に余るものがあったけれど、感染症発生という緊急事態の下で、日本には中央の役所と各自治体をつなぐホットラインもないのか、と心配になる部分もありました。

宮台 バカバカしくてコメントするのも気が引けますが、横浜市と電話がつながらなかったとして、そんな恥ずかしいことを会見で言いますか。これは横浜市の組織の恥である以前に、ホットラインの開設を義務づけていない厚労省の恥です。自分に返ってくる問題を、よくもいけしゃあしゃあと(笑)。

木村 「パニックを起こさないでください」と呼びかけながら、自分が一番パニックになっている。この会見は、やるべきではなかったですね。危機管理のABCのAすらできていない、ということを全世界的に流してしまったという、非常にお粗末な話です。舛添さんがやっていることをすべて否定するわけではなく、優れた大臣だと思っていますが、パフォーマンスが過剰なのと、危機管理のなんたるかを理解していないところはいただけません。また、この会見を抑えられなかった厚労省の官僚たちは何をやっていたのか。この会見は、医系技官のトップである局長が止めるべきでした。有能な人材も入省するのですが、「彼らの下ではやっていけない」と海外に流れていってしまう。抜本的改革をしない限り、官僚の偏差値は下がり続けるのではと思います。

神保 さて、ズサンな感染症対策だけでなく、厚生労働省が抱える根本的な問題について話を進めましょう。『厚生労働省崩壊』には、そうした問題点が列挙されています。「上司より先には帰れない」「会議で自分の意見を言ってはいけない」「勤務時間のほとんどが内部調整と決裁に費やされる」「本省の指示は絶対。反論は不可」「人と違ったことをしないこと」「上司に嫌われないことが第一」「ノンキャリアはゴミ扱い」などなど。上司から「国民に目を向ける必要はない。内部のボロが出ないことが一番」と言われたというエピソードもありました。これらの決まりごとを木村さんが守らないために、懲戒的な人事などの嫌がらせを受けるに至ったわけですね。「海外出張は遊び」「国際機関への出向は休暇代わり」ともありましたが、海外では仕事をしないということですか?

木村 海外出張は「文句も言わず、よく働きました」というご褒美ですから、仕事なんてしません。WHOへの出向などは高位のポストにいる人間が国費を使って行くのですが、現地のスタッフから、「2年間でヨーロッパのありとあらゆる場所を旅行して、秘書にたった2ページの報告書を書かせて帰った日本人がいるぞ」と言われて、顔から火が出るような思いでした。国民の代表としての意識があまりにも低く、海外で日本人のイメージを下げ続けているのです。

宮台 読者は、こうした実態にさほど驚かないでしょう。「馬鹿げた話だ、信じられん」と対象化して驚ける人がどれだけいるか。学校の先生だって、社会保険庁だって似たり寄ったり。省庁だけでなく、日本の会社にいる人間であれば一つや二つ思い当たるはず。それだけ根深い問題です。 「上司より先に帰れない」は、霞が関はもとより多くの企業に見られます。これは日本企業の労働生産性がOECD加盟国の中で最も低い部類に属する理由に関係します。また木村さんが挙げられた問題点は、元外務省主任分析官・佐藤優さんが主張してきた外務省の内情と一致します。二度あることは三度あるじゃないが、厚労省と外務省だけの特徴だと考えるのは不合理で、霞が関全体の問題だと思わざるを得ません。何ゆえにこうなるのか。どんなパラメーターをいじれば組織の動きを変えられるか。それを考えなければなりません。

神保 ただ、あらためてこんな組織論で厚労省が動いていることを考えると、年金記録をめぐり社会保険庁で起きた問題や、薬害エイズ問題も含め、何が起きても不思議ではありませんね。いわば総無責任体制で、おかしいと思っていても誰も言えない状態で物事が進んでいく。正しい方向に進むことがあっても、それはたまたまで、間違った方向は修正できないから、今回のような水際作戦がまた行われる可能性もある。宮台さん、この問題はどうすればいいでしょうか?

宮台 2つあります。第一に、社会学者ウェーバーが述べたように、官僚ないし官僚組織はどのみちそうした動きを示します。例えば、陸軍参謀本部はアジア解放を大義に大陸拡張路線を取りました。大義は正しいが、大義達成は口実で、権益拡張に動機づけられていました。海軍軍令部は石油輸送路確保を大義として対米開戦への道を突き進みました。大義は正しいが、大義達成は口実で、いち早く権益を拡張した陸軍とのつばぜり合いが目的でした。丸山眞男の言う「公を騙って私を追求する」エゴ。今日の霞が関の「国益を騙って省益を追求する」エゴと同じです。しかしウェーバーによれば、官僚組織なるものは放っておけば必ずそうなるもので、こうした頽落傾向に抗って手を打つのは政治家の役割です。

 第二は、日本的特質ですが、失敗の研究ないし失敗学の不在です。サンフランシスコ講和で、超大国アメリカが周辺国の賠償放棄を水路づけるなど日本をカバーし、以降も「核の傘」に入れてもらえる限りは日本が思考停止のままでいられたので、失敗の研究を免除されたのもありますが、戦犯の扱いにも見られるように、「死者に鞭打つのか」「禊をしたら、あとは水に流そう」といったリアクションが、失敗の研究を阻んだ面もあります。

民主党への政権交代が官僚の中立性を加速?

神保 薬害エイズをはじめ、十分に大きな失敗をしてきたのでは?

宮台 それこそまさに禊で、誰かを切れば済む話でした。「二度と同じ過ちを犯さないために体制を変える」という対応は、日本の省庁ではまず取られません。失敗からの教訓があったとしても、「ボロが出ないよう、もっと注意深く振る舞おう」というものでしょう。

神保 木村さんは、この体質を変えるために、どうすればいいと思いますか?

木村 どうにもならないというペシミスティックな考えと、そうであってはならないという思いが両方あります。日本という国は、薬害エイズからもハンセン病からも、何も学んでいません。宮台さんもおっしゃるように、これは日本にとって大きな問題ではなかった。爆弾が落ちたり、バイオテロが起きたりしない限り、何も変わらないのかもしれない。しかし、当然そんなことは避けなければいけません。まずは、変わるまで内部から声を上げ続けること。そうしなければ、本当に何も変わりませんから。

神保 木村さんが名前を出して、メディアに出たり本を書いたりする中で、厚労省内部からポジティブな反応はありますか?

木村 正直言って、まったくないです。孤立無援だったらまだいいのですが、ひとつ腹立たしかったことがあります。厚労省に関する記事はスクラップされて、省内で回し読みされるのですが、私が書いた記事は全て外されていたんですよ。これは、直談判をしたり、褒めたり貶したりすることで、私という人間を受け入れてしまうことになるからです。

神保 つまり、最初からないものとして扱われたと。木村さんの考え方に賛同して、「勇気を持ってよく言ってくれた!」という人が、全くいないとは思えないのですが。

木村 私は自分のホームページを持っていて、そこからアクセスしてもらえれば、誰でも意見が言えるんです。元検疫所職員の方からは、一通応援のメールを頂きましたが、そのほかはまったくありません。私の立場に賛同していたとしても、一通のメールすら、霞が関に背くという恐ろしい一歩だと感じているのかもしれません。私みたいな人間が積極的にメディアに出ていくことで、「あの人は言いたい放題だけど、大丈夫なんだ」というふうに、意見の出やすい状況が生まれればと思います。

宮台 政権交代が非常に重要です。同じ議院内閣制のイギリスを見てもわかるように、政権交代が通常化することで、官僚の中立性が初めて担保されます。政権党にベッタリの省庁や役人は政権交代で残酷にパージされるので、組織保存本能から自動的に中立性を保つようになります。

 省益追求の背後には日本的理由もあります。日本のキャリア官僚は民間就職した大卒同期生の半分以下の給料に抑えられる上、スペシャリストとして組織に残る道がないのでラインから外れれば退職する以外ない特殊な人事システムです。そのため、 天下りが不可避で、天下りの座席を増やすべく特殊法人に権益を回す役人ばかりが出世するのです。

 国民益に貢献した役人が評価される仕組みが導入されれば、組織もおのずと変化します。それには「政治家が、どんなものさしを使って役人を評価するか」をチェックできる仕組みが前提となり、国民の政治参加が必須になります。「おらの村の有力者だから」と「権益配分をお任せできる政治家」を国民が選んでいる限り、どうにもなりません。

 また、役人は叩くだけではダメ。国民から議会に送り込まれた政治家が、役人を絶えずチェックし、役人が公益のために動く気になるインセンティブ・メカニズムを考えるべきです。

神保 木村さんは厚労省職員として、新政権にどんなことを望みますか?

木村 優秀な人材が入ってこなくなり、硬直状態に陥っている今、大きな外科手術が必要です。新政権による政策が、これまでの流れを変えるものであってほしいと思います。

神保 「外科手術」について、具体的なイメージはありますか?

木村 不要な局長・課長クラスは、すべて辞めていただくことですね。そして、医療の現場に詳しい方や、教育者、研究者を採用するシステムを作り、ローテーションを行うことで、地域や現場に還元する。そうでない限り、日進月歩の医療問題は解決できるはずがないのです。

神保 厚労省が大きすぎる、という問題もあります。これは総務省についても言えることですが、省庁再編で、なぜか巨大な役所をたくさん作ってしまいました。厚労大臣は、年金、感染症から雇用問題まで対応しなければならず、とてもひとりですべてをこなせるとは思えません。さらに政治主導に向かうとなれば、ひとりの大臣ではなおさら対応できなくなるでしょう。省庁の再編というものも視野に入れてもいいと思うのですが。

宮台 省庁再編は当然必要です。ここまで大きな省がこれまで回ってきたこと自体、大臣が事実上指揮をしてこなかったことを傍証していますね。

神保 いずれにしても、私たちは問題点だらけの「厚生労働省」という会社の株主とも言えるわけで、冬にパンデミックの脅威があることも考えると、早期に改善してもらわないと困りますね。宮台さん、体質改善に向かう道筋は考えられますか?

宮台 公益に貢献するべく促すインセンティブとして有力なのは、公益をめぐる競争によって省庁や官僚が得をする組織メカニズムです。これは、社会に良いことをすると企業が得をする市場メカニズムの機能的等価物です。分権化して、各ユニットが競争するのもいい。NPO税制を敷いて、税金を国に納めるかNPOのどれかに納めるかを国民が選べるようにし、税金獲得の競争をさせるのもいい。

 これは新政権がその気になれば作れる仕組みです。私が民主党幹部に申し上げてきたのは、国民のことを考えない利権官僚や、国益と無関係なウソをつき続ける官僚を、残酷にパージするシンボリックなイベントを演出する一方、公僕として働くことを誇りに感じる官僚だけが組織で生き残れるようなインセンティブ・メカニズムをちゃんと作り出すことです。

 さっきも述べたように、官僚組織を放っておけば必ず「国益を騙って省益を肥やす」「公を騙って私腹を肥やす」輩の巣窟になります。これは普遍的傾向です。それに抗って官僚の行動の「遺伝子型」ならざる「表現型」を変えるには、外から「工夫」が注入される必要があります。とりわけ予算と人事を、当該省庁に任せず、政権与党が外から押し付けることです。木村さんのような方を政治任用することが最も効果的だと思います。

(構成/神谷弘一 blueprint)

『マル激トーク・オン・ディマンド』
神保哲生と宮台真司が毎週ゲストを招いて、ひとつのテーマを徹底的に掘り下げるインターネットテレビ局「ビデオニュース・ドットコム」内のトーク番組。スポンサーに頼らない番組ゆえ、既存メディアでは扱いにくいテーマも積極的に取り上げ、各所からの評価は高い。(月額525円/税込)

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宮台真司
首都大学東京教授。社会学者。近著に『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など。


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神保哲生
ビデオジャーナリスト。ビデオニュース・ドットコム代表。代表作に『ツバルー地球温暖化に沈む国』(春秋社)など


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木村盛世
筑波大学医学群卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。著書に『厚生労働省崩壊』(講談社)。



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