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第1特集
死刑と無期懲役と終身刑......"コスト"で眺めてみると、どーなるの?

"オトク"な刑罰はどっちなの? 禁断の"死刑の経済学"入門【1】

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約3000名の刑事被告人や死刑囚を収容可能だという、東京・小菅にある東京拘置所。地下には、死刑を執行するための施設を備えている。死刑執行施設を備えた刑事施設は、国内にはこのほか6カ所存在する。

――死刑と無期懲役刑、そして一部から導入が提案されている終身刑。人権や国家論的な立場からのみ語られることの多いこれら刑罰に関する議論だが、いずれも、国民の税金を使って運用されるもの。では、それらを「経済性」の観点から眺めてみた場合、いったいどうなる?

 世界中で長きにわたって議論されてきた、死刑の存廃問題。もちろん、日本でも常に論争の的だ。2007年12月〜08年6月の間に、鳩山邦夫法務大臣(当時)が計13人の死刑執行命令書に署名したことに対し、朝日新聞(08年6月18日付夕刊)が「死に神」などと評して物議を醸したことも記憶に新しい。また、裁判員制度の開始が間近に迫り、死刑制度とその運用の問題は、これまで関心の薄かった人にも避けて通れないものになったといえよう。

 死刑存廃に関する日本の世論の趨勢についていえば、体感治安の悪化や厳罰化の流れを反映してか、死刑存置を支持する人が圧倒的多数だ。04年12月に内閣府によって実施された死刑に関する世論調査では、「どんな場合でも死刑は廃止すべき」との回答が6・0%(99年の前回調査から2・8%減)にとどまったのに対し、「場合によっては死刑もやむを得ない」は81・4%(同2・1%増)と8割を超えており、もはや「廃止論と存置論が日本の世論を二分している」とは言い難い状況だ。

 大勢を占める存置支持者の主な論拠は、「威嚇力によって犯罪を抑止している」「応報感情を満たすために必要」など。一方の廃止論者は、「誤判の可能性がある」「人道上許されない」などを拠り所としている。どちらの主張にも一理あり、議論は平行線のままだ。

 ところが、そうした日本の状況をよそに、死刑を存置している米国のいくつかの州では、なんとコスト削減の見地から、死刑制度を廃止する動きが出始めているという。「週刊エコノミスト」(毎日新聞社、09年3月10日号)によると、死刑存置州であり、かつ財政難にあえぐカンザス州では、死刑囚1人当たりにかかる費用を、裁判から死刑執行までで約126万ドル(約1億2400万円)、終身刑受刑者については約74万ドル(約7300万円)と算出した上で、経費削減を目的とする死刑制度廃止法案が提出されたという。死刑判決の出る可能性のある裁判は、複雑化、長期化しやすいため、トータルで見ると、死刑事案のほうが終身刑事案より高コストになる、ということらしい(詳しくは64~65ページで解説)。また、米政策研究シンクタンクのアーバン・インスティテュートは、死刑事案に要する費用を1件当たり最高300万ドル(約2億9600万円)と見積もり、終身刑事案より190万ドル(約1億8700万円)高い、との研究結果をまとめている。

 人命にかかわる重大な問題である死刑の存廃を、「どちらがオトクか」という理由で決しようとするあたりは、いかにも合理主義の国アメリカ、といった感じだ。それに比べ、日本では、死刑囚や受刑者1人当たりのコストなどが俎上に載せられることはあっても、費用の面から死刑制度の是非が論じられることなどほとんどない。そうした観点そのものが、命の重さをカネで量る冒涜的なものと見なされ、タブー視されているからだろう。それも関係してか、死刑を執行された者の氏名や罪状こそ07年12月以降公表されるようになったものの、米国と異なり、死刑制度維持に関するコスト、たとえば刑事事件の捜査・裁判に要する費用や、刑務所・拘置所の運営維持費などの詳細は、現状、ほとんど公表されていない。

 しかし、長引く不況の影響により、税金の使い道の徹底的な見直しと、あらゆる情報の開示を求める世論が高まっている昨今、もはや、死刑制度だけがその例外であり続けることはできないのではないだろうか? さらにいえば、コストという観点から、死刑を始めとする日本の司法制度を検証することによって、新たな問題点が浮かび上がり、今後、日本が採るべき方策も見えてくるのではないだろうか?

厳罰化の世論を受けて増え続ける死刑確定者

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 そこで、コスト面から見た死刑・無期懲役刑の問題点等については後ほど言及することにして、ここでは基礎的な知識として、日本の死刑・無期懲役刑の現状について押さえておきたい。

 まず、死刑確定者数と死刑執行数の推移についてだ【図表1参照】。89〜03年の15年間、1桁(年平均約4・5人)で推移していた新規死刑確定者数だが、04年以降急増し、特に06年、07年には、45年ぶりに20人の大台を突破した(04~08年の年平均15・8人)。一方年間の死刑執行数は、77年以降の10年間以上、1桁の前半で推移していた。90~92年は執行数ゼロ、93年に執行を"再開"した後も、年間1~7人の範囲に収まっていたが、07年に9人、08年には15人と、近年急増傾向にある。

 では、無期懲役刑についてはどうだろうか【図表2参照】。無期懲役刑の新受刑者数は、00年頃から増加し始め、03〜06年はいずれも100人以上と、00年以前の約3倍となった。また、無期懲役受刑者の年末在所者数も、84年頃からほぼ一貫して右肩上がりで、07年には1670人にまで膨れあがった。これは、無期懲役刑の新受刑者数の増加もさることながら、無期懲役刑の仮釈放者数が激減したことも大きな要因となっている(75年の105人に比べ、07年はわずか3人)【図表3参照】。しかも、仮釈放者の平均在所期間は年々延び、07年には、四半世紀前のほぼ2倍、31年10カ月となった。刑法上、仮釈放の申請は服役10年で可能になるが、現行の無期懲役刑は、実質的に"終身刑化"しているわけである。

 ここまで、日本の死刑・無期懲役刑の現状を簡単に説明した。いずれのデータも、近年指摘されている厳罰化を裏付けるものといえる。続く当特集【2】では、死刑・無期懲役刑に関するコストについて、具体的な金額を挙げて解説する。その上で、当特集【3】では、法社会学者・河合幹雄氏と元刑務官・坂本敏夫氏に、コストの面から死刑・無期懲役刑を分析してもらうとともに、以前より一部の政治家や識者によって提唱されている「仮釈放のない終身刑」の導入の是非等について論じてもらう。死刑制度という"難問"を考える際の参考としていただきたい。

(文・構成/松島拡)


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