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第1特集
評論家・小谷野敦が、ヒステリックな「嫌煙社会」に警鐘を鳴らす!

禁煙ファシズムを加速させるマスコミとJRは人殺し!?

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――4月から始まった首都圏のJR各駅での全面禁煙など、ここ数年のタバコをめぐる規制の数々に、喫煙者はますます肩身が狭くなるばかり。しかし、「タバコ=絶対悪」といった社会を覆う極端な空気のほうがなんだか澱んでいるような......。

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「嫌煙家の言い分はおかしい」と小谷野氏。

 03年に施行された「健康増進法」によって、喫煙者への攻勢は加速度的に増し、タバコを擁護する言論や表現をメディアでめっきり見かけなくなった。ヒステリックにタバコ規制へ突き進む、このような社会状況を「禁煙ファシズム」として厳しく批判してきた小谷野敦氏に話を聞いた。

──小谷野さん編著の『禁煙ファシズムと戦う』(ベスト新書)が発刊されてから4年近くたちます。嫌煙運動を批判することが、もはや一種のタブーと化しつつありますね。

小谷野(以下、)  マスコミが一番悪いですよ。特に四大新聞は、嫌煙家の投書は盛んに掲載するくせに、私のような批判者の言い分は一切取り上げようとしない。タバコの是非をめぐって公の場で議論すること自体が無理という現状は、末期的症状といえます。

──なぜ新聞は、嫌煙運動への批判を避けるのでしょうか?

 嫌煙運動家は、人数的には決して多くはないんだけれども、新聞社にバーッと抗議を寄せる圧力団体と化している。新聞社はそれを恐れて、喫煙擁護派の言い分を一切載せなくなってしまった。だから私はもう、新聞には何も期待しない。むしろ新聞そのものが潰れることを期待しています。

──そもそも小谷野さんが、喫煙を擁護する理由は?

 私は「文化としての喫煙」を擁護しているわけではありません。ただ、喫煙は合法なんだから、どこもかしこも全面禁煙にする必要はないだろう、分煙でいいじゃないか、と。私が言いたいのは、それだけのことなんですよ。

──新聞に見切りをつけた小谷野さんは、自らの著書やブログ、あるいはJR東日本への訴訟活動(JR東日本が07年3月から新幹線や特急を全面禁煙にしたことで、憲法13条の幸福追求権などの侵害に当たるとして、禁煙措置の取りやめを求めた訴訟。東京地裁は請求を棄却)などを通じて、タブーへの挑戦を続けていますね。

 しかし、議論を持ちかけても黙殺されることが多く、仮に反論があっても、嫌煙家の言い分はおかしい。たとえば彼らは「禁煙は世界的潮流ですから」と言うが、世界的潮流が正しいなら、かつての植民地支配も正しかったのかよ、と。それにすら、彼らは満足に答えない。

──「受動喫煙の害」についても、小谷野さんは懐疑的ですよね。

「子どもの近くで吸うといけない」と言うけど、大人がみんなタバコを吸い放題だった時代に子どもだった私たちに今、何か害が出ていますか?それに、副流煙の研究ってのはたいてい、夫が吸っている場合の妻が調査対象になりますが、そのような調査はあまり意味があるとは思えません。というのも、そもそも夫と妻ってそんなに一緒にいるもんですか?夫は昼間は働きに出ているし、帰ってきてから年中イチャイチャしている夫婦なんていないでしょう(笑)。

──喫煙者が肺がんになりやすいという定説については?

 ある程度、因果関係はあるでしょう。しかし、酒の飲み過ぎで肝臓を壊すほうが因果関係は明白なのに、なぜ厚生労働省は酒のパッケージに「飲酒はあなたの肝臓を破壊する危険性を高めます」と書かないのか?また、タバコの煙と自動車の排気ガス、はたしてどっちが有害なのか?ということに誰も突っ込まないのもおかしな話。タバコが健康にいいとは思いませんが、喫煙者に早死にする人が多いのは、単に喫煙者には低学歴・低所得者層が多い、だから早く死ぬ。そういった因果関係のほうが影響していると思います。

喫煙をめぐり教授と論戦 それで仕事はクビに

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今年4月から、首都圏のJR各駅のホームが全面禁煙に。約200駅のホーム上にある計約370カ所の喫煙所から灰皿が撤去された。

──ただ、マスコミの自主規制のせいもあってか、小谷野さんに同調する声はあまり聞こえてきませんね。

 喫煙者には個人主義者が多いですからね。しかし実際は、良識ある文系知識人で、禁煙ファシズムを容認している人なんかあまりいない。養老孟司さんも雑誌の対談で禁煙運動を批判して(「文藝春秋」07年10月号)、日本禁煙学会から猛抗議を受けましたよね。結局、頭のよくない暇人や潔癖性の女性たちが「この世の中をキレイにしよう」とヒステリックに騒いでいるだけ。結果、働き盛りの40~50代の喫煙者たちが追いつめられてしまっているんです。

──首都圏のJRのホームはとうとう全面禁煙になってしまいましたね。

 会社でつらいことがあって、帰りに「あ~、まいったなぁ」とプラットホームで一服して、「ま、明日も頑張るか」と安らぎを取り戻す。そういう場所を禁煙にするんだから、JR東日本のやっていることはほとんど自殺幇助ですよ(笑)。駅のホームで一服できないことによって、電車に飛び込んじゃう人もいるかもしれないじゃないですか。

──教育現場における喫煙者の締め付けも、厳しくなっているようですね。

 私は昨年、非常勤講師を務めていた東京大学駒場キャンパス内で、下井守教授と歩行禁煙の是非をめぐって口論をしました。結局それが原因で、私は非常勤講師を雇い止めになってしまった。その理由は、構内で喫煙したことよりも、どうやら事の顛末をブログに書いたことがまずかったらしい。向こうは規則を守れと言っているわけでしょう。つまり、この件は私の不名誉であって、向こうの不名誉にはならないはずなのに、なぜか「書かれたらまずい」となる。要するに、向こうにもどこか後ろめたいところがあるんでしょうね。

──養老孟司氏は、「禁煙ファシズムは、何かを隠蔽するためのスケープゴートに違いない」と指摘しています。

 同感ですね。具体的には、自動車の排気ガス、携帯電話の電磁波など、資本制の根幹を支え、なおかつ体に悪影響を与えそうなものから目をそらすために、タバコがやり玉に挙げられているように思います。あとは、「死への恐怖」。人間は必ず死ぬという事実から目をそらすために、「あの人はタバコを吸い過ぎたから早死にした」といったように、原因をどこかに求めたいという人間心理が、禁煙ファシズムを加速させているんです。

──このまま加速すると、日本から愛煙家がいなくなってしまいそうですね。

 いや、アメリカの禁酒法は13年で終わったし、日本には売春防止法があるけど売春はちっともなくならない。それと同じで、タバコもなくならないでしょう。体に悪いかもしれないけどやめられない、ってものが人間にはあるんですよ。嫌煙運動家は、きれいごとだけでは生きていけない人間という生き物に対する洞察に欠けている。そんな連中の煽動に安易に乗ってしまう企業や大衆にも問題がありますね。

 そういえば最近、禁煙ソープランドというものがあるみたいですけど、ソープでノースキンで遊ぶことのほうが、受動喫煙より怖いんじゃないですか?というか、それってそもそも違法じゃないですか?と突っ込まずにはいられませんよ(笑)。

(岡林敬太/構成)

小谷野 敦(こやの・とん)
1962年、茨城県生まれ。東大英文科卒、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。学術博士。大阪大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授などを経て、今年4月より、大人のための人文系教養塾「猫猫塾」を開校。著書に『美人作家は二度死ぬ』(論創社)など多数。

「禁煙ファシズム」の流れ
1970年代以降、急速に推し進められてきた嫌煙運動の動きを簡単におさらい。

1970年 WHO(世界保健機関)がタバコ規制活動開始
1980年 憲法に保障された生存権をもとに、同会が国などを相手取り、禁煙車の新増設や慰謝料を求めた「嫌煙権訴訟」を東京地裁に起こした(請求は棄却されたものの、嫌煙権の概念が広まり、公共交通機関などの分煙化が進む)
1989年 WHOが「世界禁煙デー(毎年5月31日)」を制定
2000年 厚生省(当時)が「健康日本21」キャンペーンを開始
2002年 千代田区が路上喫煙禁止条例を制定
2003年 健康増進法施行。首都圏私鉄駅構内が全面禁煙に
2005年 WHOがタバコ規制枠組み条約を発効
2007年 JR東日本が一部を除いて車内全面禁煙に
2009年 JR東日本が首都圏全駅全面禁煙スタート/神奈川県議委が公共空間全面禁煙の条例を可決

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