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第1特集
雑誌の表紙も、タレントのプロフィールも、謝罪会見も「ネットはダメ!」

ジャニーズ"肖像権タブー"の正体 ネットNGの理由を代理人に直撃!!

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――いまや、テレビ以上の影響力をもつことがあるインターネット。特に若年層にとっては、重要な情報入手メディアとなっている。ところが、ジャニーズ事務所は、ネットに自らのタレントの写真を出すことを頑なに拒否してきた。そこにはどんな論理と想いがあるのか?

 4月23日、SMAPメンバーの草彅剛が公然わいせつ容疑で逮捕された後のこと。移送される際の草彅の写真が、テレビ、スポーツ紙のほか、インターネットのニュースサイトにも掲載され話題となったが、釈放後開かれた謝罪会見の動画、静止画はネットでは一切配信されなかった。これは、ジャニーズ事務所側の要請があったためである。

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草彅剛の謝罪会見では、事前にネットや携帯、衛星報道などでは画像や映像を流さないようジャニーズ事務所が取材陣に要請。強制力があるものではなかったが、ほとんどのメディアがそれに従っていた。

 以前から、ジャニーズは所属タレント(ジャニタレ)の写真のネットでの公開を厳しく制限してきた。同社の公式ホームページには、タレントのプロフィール写真はない。ジャニタレが表紙となった雑誌についても、出版社のサイトには、その号だけ表紙が掲載されなかったり、人物部分が黒塗りされるなど不自然な処置が施されている。

「最近は、加工した肖像写真などを掲載することを許可しているサイトもありますが、それは一部のテレビ局やCMのクライアント企業のものだけ。スポーツ紙や週刊誌などは、紙面で使用した写真も、ウェブサイトでは使えません。映画の完成披露試写会で撮影した共演女優とのツーショットも、ジャニタレの部分だけカットし、女優だけで掲載している。不自然ですが、仕方がない。ルールを破って、今後ジャニーズの記者会見に出入り禁止になったら困りますから」(スポーツ紙記者)

 個人のファンサイトにも、このルールは及んでいるようで、「昔からのファンの子は、写真をホームページに掲載してはいけないということをよく知っています。そればかりか、ファンが自警団的に、違反しているサイトに『削除してください』といったメールを出して注意します」(ジャニーズファン)

 ネット上のジャニタレの画像や文章などの無断使用を監視する、専門の会社もある。アートバンクというジャニーズの子会社である。

「同社ではスタッフがパソコンに張り付いて、個人・法人のものを問わず、無断でアップされているジャニーズの画像などを探し出し、見つけた際はメールで削除を要請します」(アートバンク関係者)

 このメールには、「ジャニーズ事務所所属タレントの肖像権はジャニーズ事務所に帰属している」「パブリシティ権を侵害することは明白」などといったことが書かれている。

 同社のいう「パブリシティ権」とは、「肖像権」に含まれる権利のひとつで、有名人の氏名や肖像などが持つ顧客吸引力などの経済的価値を保護する権利のこと。つまり、ジャニタレのファン吸引力を利用した許諾のない写真集やグッズの販売などは、パブリシティ権の侵害に当たるとされる。

 肖像権にはパブリシティ権のほかに「人格権」もある。こちらは、有名人や一般人にかかわらず、本人の許可なく、その人の肖像をみだりに公開しないよう保護する権利をいう。

 パブリシティ権侵害に関しては、キング・クリムゾン事件(99年)という有名な裁判がある。キング・クリムゾンというイギリスのロックバンドに関する、ジャケット写真やアーティスト写真が許可なく多数使われた本が出版されたことに対して、同グループが肖像権を盾に出版社を訴えたものだ。この控訴審判決では、この本では、あくまで紹介としての引用の範囲内であり、その顧客吸引力(パブリシティ価値)の利用を目的としたものではないという判断を下し、出版社側が勝訴。最高裁もこれを支持している。

 ところが、アイドルたちのお宝写真を扱った「BUBKAスペシャルvol・7」(コアマガジン)が女性タレント14人に訴えられた件では、昨年、最高裁で出版社側の上告を棄却、敗訴が確定している。この件において、東京高裁は「(芸能人は)正当な批判や批評、紹介あるいは慶弔時には報道されることも容認されるべき」としたが、一方で「無断で商業的な利用目的でその芸能人の写真(肖像等)や記述を掲載した出版物を販売することは正当な表現活動の範囲を逸脱する」とし、パブリシティ権を侵害するとした。お宝写真を掲載する行為は、顧客吸引力の利用を目的としているという判断だ。つまり、肖像権を侵害しているか否かは、その肖像を使用する目的や方法を考慮し、個別具体的に判断されるものなのである。

「そう考えると、ジャニタレが写っている写真入りで記者会見の模様を報じたり、表紙を掲載して雑誌や書籍を紹介するのは、正当な利用の範囲ですよね。ジャニーズ側の、テレビや紙媒体はOKで、ネットでの配信は禁止というのは法的根拠がないように思われますし、これを強要するのは、報道の自由、表現の自由を阻害しかねないでしょう」(ニュースサイト編集者)

 ジャニーズ側はこういった状況をどうとらえているのか?ジャニーズ事務所の代理人である、のぞみ総合法律事務所の小川恵司弁護士に聞いた。

一度ネットに出てしまうと目的外使用を止められない

──まず、アートバンクによる画像削除依頼メールについてですが、ここには、どのような行為がどのような理由で肖像権を侵害しているのか具体的に書かれていないようです。肖像権になじみのない人は、「訴えられたら大変だ」という気持ちが先行して、深く検討や理解をせずに削除してしまう場合もあるのではないでしょうか?

小川弁護士(以下、) "許諾のない肖像を使っている"という時点で肖像権侵害は明らかですから、掲載していいものかどうかがわからない、ということはないと思います。原則として、本人の許諾を得ていない肖像は、どんな場所であろうが、どんな目的であろうが使用できないんです。ただ、今のところ、ネット上の肖像権侵害で裁判までいったケースはありません。これまでは、ジャニーズ側の要請をご理解いただいているということだと思います。

──たとえば、「雑誌『×××』7月号は中居くんが表紙です」と、ファンや出版社が、雑誌や書籍の表紙画像をサイトに掲載して紹介することもジャニーズは認めていません。これも肖像権侵害に当たるのでしょうか?

 もちろん、表紙に使用することのみが許諾されている肖像ですから、ネットであろうが、ほかのメディアであろうが、それが紹介目的でも目的外使用に当たり、肖像権侵害になります。そもそも出版社などとは、タレントの肖像がどういう形でどのように使用されるのかということについて事前に話し合いをし、合意の下で仕事をしています。それを守っているだけです。

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ジャニーズのタレントを起用した雑誌の表紙と、それを紹介する出版社のウェブサイト。本文にある通り、未掲載であったり、人物を塗りつぶしたり、イラストにしたりと、タレントが露出しないように工夫されている。(左上から時計回りに「TVnavi」(4.27~5.31号/産経新聞社)、「Myojo」(6月号/集英社)、「BESTSTAGE」(6月号/USEN)、「H」(4月号/ロッキングオン)、「CINEMA SQUARE」(vol.24/日之出出版)、「COOL TRANS」(6月号/ワニブックス))

──ただし、第三者が表紙画像などを用いて、その商品の論評や紹介をすることは、正当な表現活動の範疇という見方もあるんじゃないでしょうか?たとえば、ピンクレディーが「ピンクレディーの振り付けでダイエット」という女性週刊誌の記事に肖像が無断で使用されていることに対して、肖像権侵害を訴え出た裁判の判決が、昨年8月に東京地裁で出ています。ここでは「芸能人の活動は大衆の関心事で、マスメディアによって 批判、論評、紹介等の対象になることや、そうした記事に自らの写真が掲載されることは容認せざるをえない」と言って、ピンクレディー側の訴えを退けています。

 どのような記事について問題になったかの詳細はわかりませんが、パブリシティ権の侵害については、これまでの裁判例でも、使用目的や使われ方に着目して判断しており、一般論として肖像を使用することを許諾しているわけではありません。そもそも、この裁判例では、撮影当時はその女性週刊誌に肖像使用を許可していたという事情があり、それ以外の利用を認めていたかどうかについては必ずしも判然としません。このような点からも、明確な合意の下の使用と区別されるべだと考えています。

──ジャニーズ事務所では、ドラマや映画の記者会見を報道する際も、その会見の写真をネットで使うことは認めていません。報道目的でも使用を認めないのは、なぜなのでしょうか?

 ネットの場合は、写真のコピーが技術的に容易で、タレントの権利保護が十分に図れないというケースが多いからです。本当に報道目的だけで使われ続ければいいのですが、実際には第三者の手によってコピーが拡散して、タレントが管理できない形で肖像が使用される可能性が低くない。そのためには、"入り口"で、ある程度コントロールをしなければ、自分たちの権利は守れません。ですから、同じスポーツ紙であっても、紙面とウェブサイトでは別の媒体として考え、許諾・非許諾を媒体ごとに行っています。

──ネットでの写真公開により、具体的にはどんな不利益が出ると想定していますか?

 まず、本人の知らないところで自分の肖像が出回っているというのは不快であり、人格権の侵害に当たります。これは、一般人でもタレントでも同じです。また、パブリシティ権からいえば、たとえば、CMは使用期間も決まっており、そこで肖像等の使用も終了します。これらの使用期間が不明確になったとすれば、めったにないことですけど、あるCMに出演し、その何年か後にライバル会社のCMに出ることになった際、ネット上で前のライバル会社の映像が出回っていたりしたら、それはタレント側も企業側も困ることです。ほかにも、ネットには、タレントの肖像の経済的価値を毀損する危険性がいくつもあると思います。ただし、ジャニーズもネットは全面禁止というわけではなくて、セキュリティの問題や使用期間などを厳密に検討の上、権利保護ができると判断すれば、許諾することもあります。徐々にそういうケースは増えてきていると思いますよ。

草彅の謝罪メッセージはテレビと紙で伝えるべきもの

──ドラマのホームページに掲載された人物相関図などで、主役のジャニタレだけ写真がなくて、他の俳優さんの写真は出ているというケースも見受けられます。こうした奇妙な状況に対して、「ナーバスすぎるのではないか?」と思っている人も多いようです。

 当初からネットで肖像は出さないという合意がありますし、そんなところに肖像はいらないでしょう。そもそも顔が知られていないような人は、主役になってないですから、視聴者が困るということもないと思いますよ。少なくとも、こういったサイトで半永久的に肖像を残す必要はないと思います。

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現在放送中のドラマの作品紹介ホームページでも、出演するジャニーズのタレントの肖像の扱いは制限されている。以前までは未掲載というパターンが多かったが、今は写真を加工する形で掲載している場合も多い。その加工具体が、それぞれで微妙に違うのが興味深い。『婚カツ!』(フジテレビ/左上)のトップページは、中居正広と上田竜也だけ微妙に加工。『魔女裁判』(フジテレビ/右上)のトップページは、加工された生田斗真の顔が怖い !? 『必殺仕事人2009』(テレビ朝日/下段)のトップページは、東山紀之、松岡昌宏、田中聖の3人だけ、陰影を強めるという加工。相関図内は塗りつぶし処理。

──4月24日に行われた草彅剛さんの謝罪会見についてですが、草彅さんの件は刑事事件であり、社会的な関心事でした。そうした会見を報道するときですら、ネットでの肖像使用を認めないのはなぜなのでしょうか?

 そもそも、なぜ記者会見を行ったかというと、取材の個別対応が無理だということ、各報道機関に平等に情報を公開するということなどが理由としてあります。そこで会見の場を設定しましたが、すべての媒体を会場に入れるのは物理的に不可能ですよね。草彅さんの場合、活動のベースはテレビと紙媒体ですから、その媒体を通じてファンの人にメッセージを伝えるべきだと判断したんです。あの会見は事務所側が開いたものですから、そこでの情報をどのように誰に伝えるか考えるのは、普通の流れだと思います。

──草彅さんを知る多くの人にメッセージを伝えたいということが第一の目的としてあるならば、ネットや携帯で公開する有益性もあったと思います。

 テレビや紙媒体だけでも、彼の言葉を聞きたい人には十分に届いたはずです。また、写真がなければメッセージが伝わらないということもない。ネットで映像や画像を公開すると、不特定多数が閲覧可能な上、テレビや新聞のニュースと違って〝事件報道〟としてではなく、謝罪会見も新曲のプロモーションビデオもすべて興味の対象として消費され、データベース化されてしまう。また、テレビは基本的に一過性のもので、たとえば10年後に再度放送する際は、本人のプライバシーの問題がありますから、局側も慎重に対応せざるを得ない。しかし、発信者の匿名性の高いネットの場合、将来にわたって管理することが難しい。プロバイダ責任制限法で発信情報特定ができるといっても、実際にはどこまでできているでしょうか?ネットのメリットは我々も感じてますけど、権利保護という観点からいうと、解禁は時期尚早なので、現状では事務所としては消極的にならざるを得ないんです。

──一般人の感覚からいうと、「ほかの事務所のタレントは、ネットに顔を出しているのに、なぜジャニーズだけが?」という違和感を抱いていると思います。

 もちろん、ネットも含めて、ひとつでも多くの媒体に載るということがメリットだと考える事務所もあると思います。これもひとつの方向性であり、考え方の違いですよね。ただ、他のメディアからコピーされたようなタレントの画像や情報が簡単にネットで見られるようになれば、テレビも紙媒体もどんどん廃れてしまい、芸能ビジネスや文化の崩壊を招きます。ファンの方にとっても喜ばしい話ではありません。そういうことを、ユーザーや各メディア、他の事務所などは深刻さをもってとらえてないところがあると思います。

 表現の自由との兼ね合いでいけば、報じる側にも権利があり、タレント側にも憲法で保障された人格権がある。互いにけんかするのではなく、「では、こういう条件でやりましょう」と、どこかで妥協点を見いだすことで、両者の権利を一定の範囲で保護していくべきでしょう。ネットが技術的にも文化的にも発展途上の中で、この妥協点を図っているというのが、現状だと思います。どちらかが一方的にルーズだったら、あまりいい方向にはいかないと思いますね。

※       ※

 ジャニーズ事務所にとってタレントは商品であり、その写真が悪用されることを未然に防がなければならないのは当然のことである。ジャニタレの場合、タレントの肖像を施したグッズの販売も収入も他のプロダクションに比べ大きく、ネットで肖像を公開したことにより、世界中でコピーされ悪用される可能性を考えたら、慎重にならざるを得ないという論理も理解できる。

 しかし、報道する側がそういった事務所側の都合にばかり寄っていては、公平な報道は望めない。ジャニーズへの気遣いは怠らない大手メディアが、弱小プロダクションのタレントや一般人の肖像権に対してどれほど配慮してきたというのだろうか?

 出版プロデューサーの高須基仁氏が肖像権侵害で野村沙知代さんに訴えられた件で【詳細はコラム参照】、高須氏側の代理人を務めた樋口卓也弁護士は次のように語る。

「肖像権の侵害に当たるかどうかは、やはり報道の必要性と相当性、保護されるべき肖像権内容のバランスによって決まります。たとえば、雑誌の表紙を出して論評することについては、雑誌の表紙になるという時点で本の販売宣伝を目的としたホームページに掲載されることは許容される範囲だと私は考えます。しかし、ジャニーズのタレントが表紙になった雑誌の画像をたくさん集めて無断で掲載し、ひとつの企画としてまとめるなら、肖像権侵害に当たるでしょう。草彅さんの会見についていえば、犯罪行為に対する謝罪会見ですので、マスコミにはそれを報道する使命がある。これだけ普及しているネットニュースに掲載するのは、相当性があると思います」

 肖像権を保護する側と表現の自由を主張する側がせめぎ合う中、両者とも「正しい情報を読者に伝えたい」という目的は一致しているはずだ。読者不在の業界内の判断によって、伝えるべき情報が伝わらないという事態だけは避けたいものである。

(文/安楽由紀子)

侵害か否かはケース・バイ・ケース
サッチーが肖像権裁判に負けた理由

 出版プロデューサーの高須基仁氏が、本誌に連載中のコラム『私は貝になりたい』をまとめた同名書籍を、自身が経営するモッツ出版から出版した。同書の中には、かつて連載時にも掲載していたサッチーこと野村沙知代氏の写真が数点収録されていた。サッチーは、その写真は無断使用されたものであり、肖像権を侵害するものとして1100万円の損害賠償を求めて提訴。今年3月、東京地裁はサッチー側の請求を棄却した。

 この裁判では、肖像そのものが商品価値であるとするパブリシティ権よりも、無断で掲載され私的な交際関係が明らかになり不快であるという人格権の侵害の有無について争われた。

 判決では、「他人の容貌を撮影した写真を公表するためには、撮影と公表について本人の承諾を得るのが原則である」としながらも、表現の自由を考慮し「肖像が公表された者の社会的地位、肖像が公表された方法、目的、態様等の諸事情を総合考慮し」、判断すべきものとしている。

「この件で問題となった写真は、書籍刊行の5年前にすでに雑誌に掲載されていたものですし、高須さんはかつて野村さんに関連する本の出版もしており、野村さんを売り出すPR役を務めていたので、写真を公表されることは予期できたはずであり、肖像権の侵害には当たらないとされました」(高須氏の代理人・樋口弁護士)

 しかし、問題の写真は、コラム本編とはさほど関連性がない。必要性、相当性でいえば、「掲載しなければならない」という報道の必要性は感じられないが......。

「表現の自由という点から見れば、必要性があるといえます。また、野村さんを不当に貶め、利益を害する記事でもありません。加えて、野村さんと親しい間柄だった高須さんが自然な形で撮った写真ですし、過去に掲載した写真を再掲しただけなので相当性は高い。高須氏と野村さんがかつて親密だった頃があるという背景まで読み込んだ、丁寧な判決だと思います。無断で肖像を掲載することがすべて肖像権侵害になるのではなく、掲載のされ方やさまざまな要素によっては侵害には当たらない。そのひとつの例をつくった判決といえるでしょう」(同)

 判決時、 「表現の自由が守られた!」と高須氏は語った。ほかのタレントに置き換えにくい特殊な例ではあるが、こういった判例があるということは、出版人にとって少なからず励みになりそうだ。

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かつては蜜月だった頃もあった高須氏とサッチー。

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