(写真/渕上裕太)
『ベイビーわるきゅーれ』
社会に適合できない女子高生の殺し屋コンビを主人公にした青春バイオレンスアクション。通称『ベビわる』。阪元裕吾の監督作『ある用務員』で女子高生の殺し屋コンビを演じていた髙石あかりと伊澤彩織が好評で、再び同じような設定のもと主演に抜擢された。
『侍タイムスリッパー』
会津藩士・高坂新左衛門は落雷で現代の映画撮影所にタイムスリップ。時代劇の斬られ役で生計を立てることに。通称『侍タイ(さむたい)』。第48回日本アカデミー賞、最優秀作品賞等を受賞した。主演は本作が初主演映画となった山口馬木也。
潤沢な宣伝費と高い知名度を持つ作品が映画業界を席巻しているが、そんな中にあって、個性と完成度が口コミを呼び大ヒットに繋がった作品、それが『ベイビーわるきゅーれ』と『侍タイムスリッパー』だ。片や異色の青春殺し屋アクション映画、片やコメディタッチでありながら正統派チャンバラ活劇である『侍タイ』とジャンルは異なるものの、ともに低予算でありながら大成功を収めたという共通点がある。今回はそれぞれの生みの親である安田淳一監督と阪元裕吾監督に、制作の舞台裏やジャンル映画への熱い思いを語ってもらった。
関西出身の両雄、お互いの印象は……?
──今回が初対面だそうですが、お互いの印象はいかかでしょうか?
安田淳一(以下、安田) 阪元監督って出身は京都ですか?
阪元裕吾(以下、阪元) 出身は大阪ですが、大学は京都ですね。
安田 僕も京都なんですよ。同じ京都で映画を撮っている身としては勝手に親近感を抱き、大いに刺激を受けていました。阪元監督の『ベイビーわるきゅーれ』シリーズは劇場で、『最強殺し屋伝説国岡』も配信で拝見して。『国岡』はフェイクドキュメンタリーという手法を使って、上手く撮られているなぁというのが第一印象です。『ベビわる』は「こうだろうなぁ」という観客の予想を覆す、女の子ふたりのフワっとした日常と鋭いアクション、それに設定を凄く上手く作って映画を作る人だなぁという印象を受けました。
阪元 ありがとうございます! 僕は、2023年に京都国際映画祭で『侍タイムスリッパー』っていう凄い映画が公開されたらしいと、まず評判を聞いていました。実際に拝見すると「なんて嘘のない映画を正面から撮る人なんだ!」と。僕は変化球ばかりなので。
安田 不器用ですから、僕はオーソドックスでしか撮れなくて、映画を作る時は「リアリズムをどう構築するか?」で苦労しています。でも、阪元監督はリアリズムをすっ飛ばして面白い映画を作っていますよね。殺し屋の日常は劇映画でやると嘘臭くなりそうですが、『国岡』はフェイクドキュメンタリーという手法を使って、『ベビわる』も主役のふたりの生活感で説得力を持たせている。及びもつかない発想だなと。
阪元 それでいうと『侍タイ』は、侍が書いたような脚本ですよね。本当の侍にしかわからない気持ちを書いているじゃないですか。現代を舞台に、侍同士の対決を成立させているのは、侍の感情をリアルに書いていたからだと思います。「侍たる者!」と男の友情、このふたつが現代劇にハマっていて、しかもお客さんに届いているのは凄いなと思いました。僕はずっと殺し屋でやっているのですが、最近は「殺し屋とは!」という要素が薄くなっているので……もっと殺し屋の気持ちを描かないと。
安田 原点回帰ですね(笑)。アクションに関して言うと、近接格闘をしながら撃ち合うと、どうしてもウソっぽくなるじゃないですか。でも、監督はそこに説得力を持たせていて、「この若い監督、なかなかやりよんなぁ~」と。
阪元 やりよんなぁ(笑)。