――色街・吉原を舞台にスタートした2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。インティマシーコーディネーターが入った初の大河ということも注目されたが、平均視聴率は10%にも満たないものの、NHK+による再生回数は2022年4月より配信された全ドラマの中で最多視聴数を記録していることも話題に。そんな異形の大河とされる同作の立ち位置と現在地を歴史作家・堀江宏樹が解説する。
台東区で開催されている『べらぼう 江戸たいとう 大河ドラマ館』の展示。(撮影/編集部)
今年の『べらぼう』は、例年の「大河ドラマ」とは何かが違う……そう感じている方も多いのではないでしょうか。たしかに脚本家・森下佳子先生の歴史コンテンツへの適性は「べらぼう」にこそ高く、史実とフィクションのミックス加減がとても良いのです。
しかし、それではあまりに優等生的な模範解答。筆者にいわせれば、『べらぼう』は主人公からして違う。『べらぼう』のドラマで描かれているのは庶民のヒーロー・蔦屋重三郎と、彼を演じる俳優・横浜流星の放つパワーとフェロモン、そしてそれに翻弄される人々なのです。
歴代の「大河」では、そういう「性」のニオイがする主人公は意識的・無意識的に避けられてきたはずなのに、とビックリさせられました。
『べらぼう』第1回は、江戸時代中後期にあたる明和9年(1772年)、江戸最大の色街・吉原を全焼させた「明和の大火」のシーンから始まりました。当初、歴史関係者の間でも『べらぼう』には「ヒット要素がない」とささやかれ、個人的にも横浜さんの出演作は映画『正体』を見た程度。「演技派のイケメン俳優」という印象しかなかったのです。
しかし、ドラマ初回の蔦重は吉原の街の皆が逃げられるようにカラダを張って半鐘を叩き、炎の中で立ちつくす迷子の少年(後の絵師・喜多川歌麿という設定)を助け、なぜかお稲荷さんの祠まで背負って避難という大立ち回りを見せ、我々の目を奪いました。
その後も、特に放送初期では、ヤング蔦重が着物の裾をはしょって(白いフンドシの一部までチラ見せしながら)、走り回るシーンも数多くありました。
正直、ヌードや濡れ場の撮影に挑む俳優をケアするスタッフであるインティマシーコーディネーターが入った初の「大河」という触れ込みと、その主な対象者になるであろう遊女役の女優さんたちより、額に汗して皆のために立ち回る蔦重からあまりに色っぽい風が吹いてくるのです。しかも、肌を見せるわけでもないのに「性」のニオイを画面の向こうまで漂わせるのは、高度な演技といえるでしょう。これは顔が整っているだけのイケメン俳優ではどだい無理。横浜さんが演技に没入し、役柄を生きている証拠だと思います。