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磯部涼の「川崎」【2】

川崎の不良が生きる“地元”という監獄

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日本有数の工業都市・川崎に渦巻くセックス、ドラッグ、ラップ・ミュージック――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。

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川崎をレペゼンするラップ・グループ、BAD HOPのAKDOWの体に彫られたタトゥー。

 川崎は2つの顔を持っている。その名前を聞いたとき、多くの人はベッドタウンと重工業地帯という対照的なイメージを連想するだろう。あるいは、平穏だが退屈な郊外と、荒廃しているが刺激的な繁華街というイメージを。

 そして、そういった2つの側面は、それぞれ、川崎市の”北部”と”南部”が担っているといえる。今、北部/南部と書いたが、実際には、同市は東京2区5市と横浜市に挟まれた、北西/南東方向に細長い形をしている。しかし、住民の中には北部と南部という区分を用いる者が多いのだ。例えば、68年に生まれ、多摩区で育った歌手の小沢健二は、自身の根底にある空虚さを“川崎ノーザン・ソウル”と呼んだ。彼との共作でも知られ、90年代初頭のデビュー当時は日本の平坦な社会状況ならではのラップ・ミュージックのあり方を模索した、スチャダラパーのANIとSHINCOも川崎北部・高津区の出身だ。

 一方、川崎南部はまた別のリアリティを持っている。川崎区で95年に生まれたメンバーを中心に構成される若きラップ・グループ、BAD HOPの楽曲を再生すると、シカゴ南部発のジャンル“Drill(ドリル)”を思わせる緊迫感のあるトラックの上で、“川崎サウス・サイド”と叫ぶ声が聴こえるだろう。彼らは、アメリカの中でも特に治安が悪いことで有名で、Chicago(シカゴ)とIraq(イラク)を掛け合わせ、“Chiraq(シャイラク)”とさえ呼ばれると同時に、近年、ラップ・ミュージックの新たなメッカとして世界中で注目されるシカゴのサウス・サイドと、自分たちの地元を重ね合わせているのだ。

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