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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第97回

Web3ブームを冷静に見つめる若手研究者は、ブロックチェーンの明るい未来に心躍らせる

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――通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

2022年の流行語のひとつだった「Web3」。NFTと合わせて、スタートアップとかベンチャーキャピタルだけでなく、怪しげな人たちまで含めて世界中であおるような言説がばらまかれた。でも、ふたを開けてみればNFTはあちこちで暴落するし、Web3は関連書籍が回収されるなど炎上の火種扱いされるありさま。でも、ブロックチェーンという技術自体の素晴らしさと可能性は、多くの真面目な人々も認めるもの。そんな若手研究者のひとりに、ブロックチェーンにかける思いを聞いてみた。

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[今月のゲスト]
阿部涼介(アベ リョウスケ)

1993年生まれ。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。学生時代よりブロックチェーンの研究に携わり同研究科後期博士課程(単位取得退学)を経て2022年4月より現職。国際会議にも多数論文を発表。高校の頃よりベーシストとしてバンド活動にも取り組む。


●世界のメタバース市場規模(売上高)の推移及び予測

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(出典)総務省 令和4年版 情報通信白書より

クロサカ 今月のゲストの阿部涼介さんは、慶應義塾大学の同僚です。ブロックチェーンを研究する一方で、NFTブームを冷静に分析する記事を書くなど、いろいろな方面で活躍されています。そもそも、ブロックチェーンを研究することになったきっかけを教えてください。

阿部 僕は今、29歳で、いわゆるZ世代よりちょっと上なんですね。10代の頃はバンドをやっていてiPodでたくさん音楽を聴くため、TSUTAYAでレンタルCDをいっぱい借りたりしていた。そこからiTunesの音楽配信が出てきて、音楽産業の変化を目の当たりにして、著作権とかアートマネジメントに興味を持ったんですね。デジタル時代の音楽って、文化とシステムの結合点だなと思って、学際的なことができるSFCに入学したのが最初ですね。

クロサカ なるほど。2000年代にアップルが音楽業界を変える瞬間を、10代で目の当たりにしたんですね。それでSFCに入学したのが悩ましい道の始まりに(笑)。

阿部 その上で、システムをちゃんと勉強しようと思って村井研に入りました。最初はMy Spaceみたいな音楽を共有するSNSを考えていたんですが、そのうちにアーティストの権利をどうやって保障するのかに興味が向いていって、その流れの中でブロックチェーンという技術を知りました。その頃に村井先生から「ブロックチェーンに興味がある学生はいるか?」と聞かれて「あります」と伝えたら、「じゃあ3Dプリンタとブロックチェーンで面白いことやれ」と言われたんです。

クロサカ なかなかの丸投げ感(笑)。田中浩也先生のプロジェクトですね。

阿部 はい。そこで田中先生に話を聞いて、3Dプリンタで利用するデータの管理にブロックチェーンが活用できるかもしれないと考えて、それを卒業論文にしました。実際に、イーサリアム上で動くアプリケーションを作ったんですけど、使ってみるといろんな問題があって非常に使いにくかった。それが2016年くらいの頃で、ちょうどブロックチェーンが高騰して、暗号通貨ブームが起きたタイミングですね。

クロサカ NFTがブームになる前のことですよね。

阿部 そうです。16年も、「ブロックチェーン革命」だとか「すべてがディセントラライズ(分権)になる」とか言われていましたが、実際にアプリケーションを作ってみると使いものにはならない。まだまだ課題がいっぱいある状態でした。ただ、ブロックチェーンという技術自体はすごく面白いし、管理者がいなくてもシステムが動き続けるのはすごいと思った。だから、このシステムを実社会で使えるモノにしていくためには研究開発が必要だと考えたんですが、当時はブロックチェーンの開発ってベンチャーに入るしかなかった。でも、当時のベンチャーの人が言っていることが、あまりに滅茶苦茶すぎたので、ブロックチェーンをちゃんと研究開発することにニーズがあると感じたので、今のキャリアがあります。

クロサカ 確かに、今だと「Web3」と言われるような界隈のベンチャーは、いいかげんなことを恥ずかしげもなく言う人が散見されますね。Web3はまだ技術的に未成熟なので、パラダイムとして理解すべきですが、それにしても技術的構造が曖昧なので、みんながでたらめなことを言える状態。どういった技術を使うのか明確に定義して話をしようとすると「アーキテクチャの話はしていない、興味がない」と言われてしまう。どうしてなんでしょうか。

阿部 学部生の頃に、村井研にいるんだからコードが書けるだろう――とビジネス志向の学生に「起業したいから手伝ってほしい」と言われることがあって最悪でした。そういう学生は自分でコードを書く気が一切ない上に、学生なので給料を払うこともできず、ビジネスがローンチしてうまくいったらおこぼれをあげる、くらいの考えなんで。

クロサカ 「うまくいったらストックオプションあげるから」、程度の考えなんでしょうね。

阿部 しかも「既存のサービスとどう違うの?」とか「仕組みとしてどこがユニークなのか?」というエンジニアリング以前の話をすると、話がなくなってしまう。

クロサカ 僕も日曜大工的なサンデープログラマーで、たまに技術的な難易度を知るために自分でコードを書くことがあるんですが、ちょっと込み入ったことや、あえて基本的なことをフルスクラッチでやってみると、ブロックチェーン関連のプログラミングは本当に難しい。

阿部 最近の開発が活発なオープンソースソフトは、ドキュメントが充実していたり、チュートリアルがわかりやすかったりするじゃないですか。そういう部分がブロックチェーンでは完全に欠落していると、ずっと感じています。だから、いろんな関連ソフトウェアも「自分たちがわかっていて、使えているからいいんだ」みたいなスタンスで開発しているような気がしています。

クロサカ そうなんですよ。人に伝えよう、教えようというつもりが一切なさそうな感じがする。かといって、コードを読めばわかるかというと、全然わからない。

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