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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第165回

『パトニー・スウォープ』映画を変えたブラックジョーク満載のレストア作

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――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。


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『パトニー・スウォープ』

マディソン・アベニューの名門広告代理店の代表が取締役会で死去、新しい社長選出を余儀なくされる。そこで選ばれたのは唯一の取締役黒人男性パトニー・スウォープだったが……。

監督・脚本:ロバート・ダウニー。7月22日公開予定。


『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』は20年続いてきたシリーズを総括する大傑作で、歴代のスパイダーマン(トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランド)が3人そろって力を合わせて戦う。「3ってのは魔法の数だよ」と歌うデ・ラ・ソウルの「マジックナンバー」がエンディングに流れて、それも懐かしくて涙が出るけど、そのイントロにこんな叫びがある。

「ソウルが必要なんだ!(Got to have a soul!)」

この叫びは、スパイダーマンことピーター・パーカー(トム・ホランド)の父代わりの存在だったアイアンマンことトニー・スタークを演じたロバート・ダウニーJr.と関係がある。その叫びは、彼の父ロバート・ダウニー監督の映画『パトニー・スウォープ』(69年)の音声のサンプリングなのだ。

ロバート・ダウニーJr.はなぜ、「ジュニア」と呼ばれているかというと、父ロバートが既にアンダーグラウンド映画作家としてカルト的存在だったからだ。彼の最も有名な作品『パトニー・スウォープ』が50年ぶりにレストアされて日本初公開される。

舞台はニューヨークのマディソン・アヴェニューの大手広告代理店。ドラマ『マッドメン』でも描かれたように、1960年代のアメリカでTVCMは国家さえ動かすメディアに急成長していた。

その代理店の役員は白人ばかり。唯一の黒人役員パトニー・スウォープはCMの音楽担当。役員会議でスウォープが「酒やタバコや銃のおもちゃのCMはやりたくない。子どもに悪影響を与えます」と意見すると、他の役員から「銃のおもちゃで遊ばないガキはゲイになるぞ」と言われる。ちなみに現在、タバコと銃のおもちゃと強い酒のCMはアメリカのテレビで禁止されている。

「消費者の心理を操作するんだ!」と叫ぶ社長は、役員会議の席上で脳梗塞か心臓まひで死亡。すぐに他の役員が社長のポケットから財布を失敬する。これはブラックコメディなのだ。

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