サイゾーpremium  > 連載  > NewsPicks後藤直義の「GHOST IN THE TECH」【29】

――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

今月のテクノロジー
ソーゾーベンチャーズ

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ソーゾーベンチャーズ公式HPより。

2012年に創業した、米国カリフォルニア州に本拠地を置くベンチャーキャピタル。ツイッターやスクエア、ズームを初めとした、シリコンバレーのメガベンチャーの「日本上陸」を請け負うことと引き換えに、彼らへの投資枠を勝ち取ってきた。共同創業者の中村幸一郎氏は、日本人で初めて、米国のトップ投資家のランキングである米フォーブス誌の「マイダスリスト 2021」にランクインして注目を集めている。

もともと三菱商事で働いていた男が、たったひとりで、三菱商事より稼ぐようになるかもしれませんよ――。そんなジョークが、もはやジョークではなくなりそうだという話を聞いてから、これはいつか紹介しないといけないと思ったことがある。

シリコンバレーで親しくしており、また取材先でもある中村幸一郎氏は、日本人では稀なほど現地で成功を収めているスタートアップ投資家だ。2013年に立ち上げたソーゾーベンチャーズ(Sozo Ventures)というベンチャーキャピタルの共同創業者として日々、さまざまなテクノロジー企業に目を光らせている。これまでに1号ファンド(100億円)と2号ファンド(200億円)を立ち上げており、今年に入って3号ファンド(600億円以上)の運用を始める予定だ。

中村氏はそれまで、ほとんどメディアに露出することもなく、またシリコンバレーで長く働いているため、日本ではあまり知名度がなかった。だからこそ昨年、米経済誌フォーブスの米トップ投資家ランキング『マイダスリスト2021』に、日本人として初めてその名前がランクインした時に「この人物は何者だ」と話題になったわけだ。

彼がランクインしたのは、16年に投資した暗号資産を売り買いする世界的なプラットフォーム・コインベースという「大ホームラン案件」を当てたことが大きい。まだ暗号資産が「フェイクマネー」とか「子ども銀行券」とののしられ、うさん臭い存在とみなされていた頃に、シリコンバレーでこの企業に目をつけ、お金を張っていた。そして当時、Sozo Venturesが10億円を投資したことによって手に入れた株式は、昨年4月にコインベースがナスダックに上場した時には、1000億円を越えるような巨大な資産に化けたのだ。

ちなみに、ベンチャーキャピタルではこうして手にした莫大なリターンを、自分たちのファンドにお金を出資していた機関投資家や企業などの出資者に80%を渡して、自分たちは残りの20%を成功報酬として受け取るのが一般的だ。だからコインベースで大きなリターンが生まれると、Sozo Venturesに出資していた日本の大企業の経営陣に「今から利益を振り込みます」という連絡がいく。

「本当に、こんな金額が送られてくるのか」。1000億円の利益の山分け分を受け取ることになった企業の経営幹部からは、そんな電話が慌ててかかってきたらしい。まさか1発のスタートアップ投資で、10億円〜100億円単位の利益が舞い込んでくるなんて思いもしなかったのだろう。

ちなみに同氏はこの他にも、Zoomや、ピーター・ティールが創業したビッグデータ企業のパランティア(Palantir)、フィンテック企業スクエア(Square)などへ投資をしてきた実績がある。

コインベースへの投資で叩き出したリターンは1000億円(未売却分を含む)にのぼり、それは古巣・三菱商事が直近1年間で稼いだ純利益1320億円に迫っていた。というより、その他のスタートアップからもたらされた含み益を加えたらおそらく、超えていたにちがいない。

「シリコンバレーにあるこんな小さなビルで、わずか十数人のスタッフが集まって、三菱商事より稼いでいるなんて、誰も知らないでしょうね」。中村氏は、そのように筆者に語ってくれた。そして本人は、昨年だけで100億円以上の収入が見込まれるなど、ビジネスとしても非常に成功している。

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