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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【73】

幽霊、20年目の「萌え」と限界集落。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった? 生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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当時、ラブコメ系のエロゲーを少年誌で再現したことが斬新だった。なお、舞台の下宿は元温泉旅館で露天風呂があるという設定。

50歳でM-1で優勝した者もいれば、『笑点』を降板する者もいる。後者の林家三平がげっそり痩せていたのは、大病やストレスではなくダイエットらしいが、近年の正蔵(こぶ平)も激痩せしており、どうも勘ぐってしまう。実はこの兄弟、海老名香葉子に「金日成を真似る金正恩」のように太らされていたのではないか。反戦平和商売で荒稼ぎし、落語家のおかみが権力を振るう悪習を作った因業婆も米寿となり、Xデーが近づいているから、ようやく笑えない「昭和の爆笑王」の呪縛から逃れようとしているのかもしれない。

50歳はサブカルチャー従事者の曲がり角なのか、マンガ家の赤松健も50歳を越えた頃から、鉤十字の代わりに蝶ネクタイを着けた自民党の山田太郎と「表現の自由」を掲げ、ロビー活動にいそしむようになった。そして先日、めでたく2022年夏の参院選比例代表の自民党候補に擁立された。マンガ家としては、身も蓋もない青春の猛毒で80年代ラブコメを破壊した『キラキラ!!』(安達哲)以降、「ホットドッグ・プレス」の恋愛マニュアルをマンガ化した『BOYS BE…』(板橋雅弘・玉越博幸)しかないラブコメ氷河期だった「週刊少年マガジン」で『ラブひな』をヒットさせ、「萌え」ブームを作ったひとりとして知られるが、もう20年前の話だ。近年は本誌から別冊へ移り、講談社にありがちなダラダラ続く大御所のひとりになっていたが、その連載も終わるので、転身にはちょうど良いタイミングだった。参議院は3年ごとに半数改選なので、山田太郎の票田を有効利用したい自民党の思惑もあった。

20年以上前、筆者がエロマンガの編集者だった頃、表現規制反対を掲げていたのは革新系左派の院外団で、内ゲバじみた議論ばかりしていた。なので「自民党にみかじめ料(政治献金)払ったほうが手っ取り早いだろ」と言ったら、内ゲバの矛先がこちらへ向いて辞める羽目になった。そう考えると隔世の感だが、山田や赤松を族議員として政権与党へ送れば、みかじめ料を払うより効率的だ。とはいえ、幼年向け少女マンガの絵柄をソフトコアポルノで用いたことから始まった「萌え」ブームが20年続いて保守系右派に取り込まれ、票田を自称しつつ、山田のプロパガンダに乗って革新系野党を攻撃する「大日本オタク報国会」と化したのには苦笑いしてしまう。ブームから台頭したクールジャパンの経済力=札束で頬を叩けば、宮崎勤事件のトラウマも克服できると信じている中年オタクたちもまた、大東亜共栄圏やバブル景気に狂喜した日本人の正しい末裔だったのだ。

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