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澤田晃宏の「外国人まかせ」【6】

誰がパンに焼きそばを挟むのか “ポストベトナム”が強まる理由

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失踪率が突出して低いフィリピン人実習生の実態

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パン工場の敷地内の寮に住むリチャードさん。日本に来て驚いたことは「渋滞がないことと、みんな礼儀正しいこと」と話す。毎月7万円を母国の家族に送金しているという。

こうした状況の中、依然として外国人を劣悪な労働環境に置き、奴隷のように扱う企業が一部あることには閉口する。日本に来てよかったと思える外国人労働者を増やさないことには、ますます日本を目指す外国人は減っていくだろう。

そのためにも、受け入れ企業の厳格な選定が必要だ。現状、実習生の受け入れには、厚生労働省と出入国在留管理庁が所管する外国人技能実習機構からの認定が必要だが、その判断は書類にとどまっており、劣悪な受け入れ企業を見抜けているわけではない。そのため、失踪せざるを得ないような実習生も出てくる。

現在、失踪者やオーバーステイなどの不法在留者数は、実習生全体で1万3079人(21年1月1日時点)。同時点で国内に在留する実習生は37万8200人で、単純に不法在留者を実習生の数で割ると、失踪率は約3.5%だ。

ただ、国籍別に失踪率を見ると、そこに違いが見て取れる。実習生の出身国の上位5国は、ベトナムが20万8879人、中国が6万3741人、インドネシアが3万4459人、フィリピンが3万1648人、タイが1万735人だ。ここから先述の算式で失踪率を見ると、ベトナムが4.3%、中国が4.2%、インドネシアが2.2%、フィリピンが0.5%、タイが1.6%と、フィリピンが突出して低いことがわかる。これには、同国の受け入れの仕組みが関係している。

本連載でも説明してきた通り、実習生の受け入れは、外国人技能実習機構に技能実習計画認定申請書を出し、それが認められれば出入国在留管理庁に在留資格認定証明書の交付申請をする流れになる。フィリピンの場合は、ここにもう一手間加わる。フィリピンは、出稼ぎ労働者からの送金がGDPの1割を占める出稼ぎ大国だ。海外で働くフィリピン人の権利を守るため、フィリピン政府は海外雇用庁(POEA/Philippine Overseas Employment Administration)を設置している。勤務先の会社の審査をしたり、雇用契約内容の確認をしたりする。

その出先機関が、東京、大阪にある海外労働事務所(POLO/ Philippine Overseas Labor Office)だ。フィリピン人実習生を採用したい場合、 POEAが認証しているフィリピンの人材派遣会社と契約した上で、まずは雇用契約書などの必要書類をPOLOに提出し、認定を受けないことには面接もできない。

初めてフィリピン人を採用する場合には、その雇用主(技能実習の場合は監理団体の代表者)が、POLOで英語での面接を受ける必要もある。たとえ北海道の事業者でも、東京・六本木にあるPOLOの事務所にまで足を運んで、面接を受けなければならないのだ。

フィリピン政府は、海外労働者からいかなる費用も徴収してはいけないと定めているため、採用する企業の負担は他国の実習生に比べて大きい。ベトナムのように教育費を労働者に負担させることはできず、受け入れ企業の負担となる。キックバックなどもってのほかだ。

親日国家で、英語でのコミュニケーションが可能な人材も多いフィリピン人実習生だが、その数が伸びない理由をベトナム専業の監理団体幹部はこう話す。

「受け入れ企業の費用負担が大きく、余分な手続きがあるため、入国までに時間もかかる。積極的に採用する理由はない」

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工場では、このようなスーパーマーケットやコンビニで見かける総菜パンも製造されていた。日本人の労働者は集まらず、実習生なしには成り立たないのである。

東京パン連盟工業協同組合(東京都墨田区)は、これまで1000人を超えるパン製造の実習生を受け入れてきたが、その約8割はフィリピンの実習生だ。残りはインドネシアの実習生で、これまで1人の失踪者も出したことはない。最大の実習生供給国であるベトナム人の受け入れをしない理由を、同組合の原田一臣代表理事はこう話す。

「ベトナムのように多額の借金を背負わせ、来日させる仕組みは理解できない。実習生が目に見えないところで、日本のあらゆる産業を支えている。フィリピンのように、海外労働者に負担を与えない受け入れ方があるべき姿だ」

10月、同組合の実習生が働く北関東のパン工場を訪ねた。同工場は主にコンビニやスーパーで販売する総菜パンを製造し、約140人の実習生が働いている。

製造ラインにパンが流れ、そこに焼きそばやコロッケ、ハムカツなどの総菜を詰めていく。総菜を調理するのも実習生の仕事だ。種類が多く、機械化には限界があると、工場の担当者は話す。

「(日本人の)進学率の上昇とともに高校新卒者が採用できなくなり、有料の求人誌にアルバイト募集の広告を出しても、年に1人か2人の応募があるかどうか。実習生なしには工場を稼働できません」

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パン工場で働くフィリピン人実習生の女性寮にもお邪魔した。休みの日はYouTubeなどを見て過ごすことが多いという。

敷地内に社員寮を準備し、その居住費や生活費を差し引いても、残業時間により差はあるが、実習生の手取りは12~19万円程度になるという。

現在、ベトナムの実習生の数が上回るが、本音はフィリピン人の実習生に一本化したいと工場の担当者は話す。

「技能実習の3年間が終わり、フィリピン人の8割は続けて働きたいと言ってくれるが、ベトナム人は2割。インドネシアも検討しましたが、食品衛生上、食事は工場内の食堂になります。インドネシアは宗教上の理由で食べられないものもあり、実習生に合わせて食堂の運営を変えることは難しい」

ただ、フィリピン人の雇用にも課題がある。技能実習修了後に特定技能に移行すればさらに5年間働くことができるが、先述のPOLOが特定技能外国人に認める給与が高い。流通の立場が強く、値上げを言い出せない中、高い給料を払って採用し続けるのは難しいという。

同工場で働くフィリピンのイロコス出身のヴィスペラス・リチャード・ソリスさん(25歳)に話を聞いた。リチャードさんは農業・溶接の実習生として日本で働く従妹の話を聞き、自分も日本で稼ぎたいと来日。現在、技能実習3号(4~5年目)として働くが、その後も特定技能で働き続けたいという。

「弟も日本に来たいと話している。お金を貯めて、家を建てたい」

海外から出稼ぎにくる外国人労働者たち。一方、そんな彼らに、日本人がやりたがらない退屈で、低賃金の仕事を外国人まかせにする日本。その前提にある経済格差が埋まる中、外国人まかせにすらできない状況も生まれつつある。

焼き畑農業よろしく、ベトナムがダメなら、さらに貧しい国から人を連れてくるのか。労働力の搾取でしか成長を遂げられない資本主義経済の姿がここにある。岸田総理が掲げる「新しい資本主義」とは、どのような社会になるのだろうか。

※本連載は2022年春、加筆・再編の上で小社より単行本化予定。

澤田晃宏(さわだ・あきひろ)
1981年、兵庫県神戸市出身。ジャーナリスト。進路多様校向け進路情報誌「高卒進路」(ハリアー研究所)編集長。高校中退後、建設現場作業員、アダルト誌編集者、「週刊SPA!」(扶桑社)編集者、「AERA」(朝日新聞出版)記者などを経てフリー。著書に『ルポ技能実習生』(ちくま新書)、『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)がある。

[前回までの連載]
【第1回】コンビニ弁当を作る鳥栖のベトナム人とネパール人
【第2回】失踪した技能実習生でも雇いたい……高齢化する建設業と農業の現実
【第3回】実習生の不正労働が横行する縫製業界のホワイト化を目指す監理団体の挑戦
【第4回】誰が高齢者のオムツを替えるのか? 在留資格が乱立する介護の限界
【第5回】技能実習生の「変形労働制」を認可 過酷でも稼げる牡蠣とホタテの養殖


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2022年12月/2023年1月号

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