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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第156回

『ノマドランド』キャンピングカーで“荒野”をさまようノマドの希望と絶望

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『ノマドランド』

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ネバダ州で暮らすファーンは、ゴーストタウン化した街を離れ、キャンピングカーで暮らすことに。やがて“ノマド”として仕事を渡り歩くが……。監督:クロエ・ジャオ、出演:フランシス・マクドーマンドほか。全国公開中。

『ノマドランド』は本年度アカデミー賞の最有力候補。現代アメリカのノマド(遊牧民)と呼ばれる、ワーキャンパーたちの姿を描いている。ワーキャンパーはワーク+キャンパーの造語で、キャンピングカーで旅をしながら、各地の最低賃金の仕事を渡り歩く車上生活者のこと。夏は国立公園のキャンプ場の管理人、秋は農場で収穫を手伝い、冬はアマゾンの倉庫で配送作業をする。その多くが高齢者である。

 主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)がワーキャンパーになったのは、住んでいた街が消滅したからだ。彼女が夫婦で40年以上暮らしていたネバダ州エンパイアは建材用の石膏ボードを作る工場の労働者だけの街だった。しかし2008年のサブプライムローン崩壊で住宅市場が冷え込み、11年に工場は閉鎖された。人々は街を離れた。ファーンは亡き夫の思い出が残る家にしばらく住んでいたが、街はゴーストタウンになり、暮らせなくなった。ファーン曰く「収入の多くを注ぎ込んだ」家も価値がゼロになった。貯金はなかった。あるのは古いキャンピングカーだけだった。

 アマゾンの倉庫で働き始めたファーンはワーキャンパーの先輩リンダ・メイに会い、彼女を通じて導師ボブ・ウェルズをはじめとするノマドのコミュニティに入っていく。『ノマドランド』に登場するノマドたちの9割は俳優ではなく、本物のノマドだ。彼らは自分自身の役を演じ、自分自身の人生をファーンに語る。つまり、『ノマドランド』はドキュメンタリーとドラマの折衷、ドキュドラマだ。

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