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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第155回

『この茫漠たる荒野で』分断と憎悪が渦巻く150年前の西部劇とコロナとトランプ

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『この茫漠たる荒野で』

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「分断の始まり」とも言える南北戦争が集結して5年。退役軍人のキッドは、各地でニュースを朗読しながら暮らしていた。その最中、ひとりの少女ジョハンナに出会う。トラウマを抱え、身よりもない彼女をキッドは親族に引き渡す役目を引き受ける。監督:ポール・グリーングラス、出演:トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲルほか。Netflixで配信中。

 映画『この茫漠たる荒野で』の原題はNews Of The World(世界のニュース)。しかし、ジャーナリズムを描いた映画ではなく、西部劇だ。

 1870年、キャプテン・キッドこと元南軍大尉のジェファーソン・カイル・キッド(トム・ハンクス)は、テキサスの開拓地を回って、人々の前で新聞を朗読していた。

 当時、西部開拓地には新聞はなく、あったとしても地元ローカルの話題しか載っていなかった。また、字が読めない人も少なくなかった。キッドはニューヨークやワシントンの新聞を通販などで入手し、開拓民たちが知ることができない、全米各地、世界のあちこちのニュースを語って聞かせて暮らしていた。

 その旅の途中でキッドは10歳の少女を救う。その少女、ジョハンナは開拓民の子だったが、5歳の時に先住民カイオワ族に両親を殺され、カイオワ族に育てられた。しかし、今度は米軍の騎兵隊がカイオワ族を虐殺した。騎兵隊は黒人青年を雇って彼女を叔母夫婦に届けようとしたが、彼は黒人だというだけの理由でテキサス住民にリンチされて縛り首にされた。

 当時は南北戦争終結から5年後、敗北して奴隷制廃止を押し付けられた南部ではまだ、北軍や黒人への怒りが渦巻いていた。

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