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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【63】

身も蓋もない青臭さを描く少年マンガ――幽霊、有限の青春のチェンソーマン。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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トラウマなのかあまり語りたがらないけど、『キラキラ!』の前作『ホワイトアルバム』は名編集者・樹林伸の初担当連載だった。

『鬼滅の刃』が完結しても『呪術廻戦』と『チェンソーマン』があるから大丈夫だろうと思っていたが、さすがに『チェンソーマン』が8巻で300万部を突破したのは予想外だった。うれしいけど。

「週刊少年ジャンプ」の異能バトル路線は90年代以降、荒木飛呂彦、徳弘正也、尾田栄一郎などの正統派な「人情」の系譜と、冨樫義博の「非人情」の系譜に分岐し、両者の間でそれぞれの倫理を構築している。近年だと『鬼滅』が「人情」派で、『呪術』『チェンソーマン』は「非人情」派だが、復讐劇が爽やかな金玉蹴り大会になる『チェンソーマン』は極端だ。筆者周辺の同世代は苦労人のマンガ家が多いので「人情」派が多く、冨樫義博の技巧は認めつつも蛇蝎の如く嫌っているから、『チェンソーマン』も嫌われているが、筆者は大好きだ。安達哲の傑作『キラキラ!』の匂いが漂ってきたからだ。筆者が泥臭く古臭かった「週刊少年マガジン」を初めて買ったのは安達哲のデビュー作『卒業アルバム』が載った号だが、身も蓋もなく青臭く有限の焦燥感に満ちた青春描写は衝撃的だった。

 作者(藤本タツキ)は以前、『無限の住人』の沙村広明と対談しているが、美術教育を経験した90年代以降のニューウェーブ系青年マンガ家から強く影響を受けていることも面白い。特に五十嵐大介や弐瓶勉のビジュアル表現、新井英樹の人物描写からの影響は明確に見えるが、青年マンガの中でも尖った作品群の影響を受けつつ少年マンガのヒット作となったのは、根底に初期の安達哲や冨樫義博のような青臭い焦燥感があるからだ。前作『ファイアパンチ』は初連載の援護射撃で有能なアシスタント陣に依っていたので、少年マンガらしからぬ静的な表現が多かったが、『チェンソーマン』では作者自身のスピード感に溢れた粗いタッチを前面に出し、少年マンガらしいダイナミズムが生まれている。

 もうひとつ特筆すべきは主人公・デンジが出会う女性たちが全員、癖の強いろくでなしで、彼の女性観の変化が異能バトルと連動しつつ物語の核になっていることだ。デンジに好意を寄せるレゼに闘争からの逃走を誘う『あしたのジョー』の紀子の台詞を言わせてから惨殺したのは最高の確信犯だし、その惨殺犯も蠱惑的な「悪しき母」として描いている。無限に許されるが支配され続ける土着的母性社会と対峙する無垢な少年という構図は本作の特色で、これだけでも少年マンガとしては相当に邪悪だ。秋田出身の友人は「閉鎖的で抑圧された生活環境でひたすら妄想をこじらせていく秋田県民らしいマンガ」と罵っていたが、加藤鷹と壇蜜と菅義偉を生んだ土地のマンガと考えるといろいろと納得する。

 一方、異能バトルとしては少年マンガの極北『デビルマン』の系譜にあるが、その闘争と厭世観には『幽☆遊☆白書』が身も蓋もなく青臭い青春の中から回答し、『チェンソーマン』もそれを前提としている。もっとも、『幽白』の幽助に関しては青春描写が「照れ」で抑えられていたのに対し、『チェンソーマン』は共感性羞恥に満ちた青春描写をこれでもかと放り込んでくる。『幽白』も本筋ではない樹と仙水、飛影と軀のエピソードではBLの関係性描写手法を援用することで「照れ」を克服し、女性的な俯瞰視線が強い『東京喰種』や『呪術廻戦』へ継承されているが、『チェンソーマン』は男性主人公を通して身も蓋もなく描いている。この点でも作者の資質は、理知的で偽悪的であるが故にアクセルを踏み切れない冨樫義博より、直感的に対象を捉え、自然主義の暴走で描いてしまった安達哲に近いのだが、インディーズ系ウェブコミック投稿サイト「新都社」出身ということも大きいだろう。この2ちゃんねるから自然発生した謎のサイトは『小林さんちのメイドラゴン』のクール教信者、『ワンパンマン』のONE、『背すじをピン!と』の横田卓馬など、風変わりな少年マンガ家を多く輩出しているが、共通しているのは、対象との乾いた距離感と熱意から生まれる癖の強い軽さで、この3人もそれぞれジャンプ系の媒体で執筆している。

 最近、『アクタージュ』原作者の痴漢打ち切り事件や『キン肉マン』原作者のSNS感想舌禍事件で、また「週刊少年サンデー」好きな良識派「マンガ読み」がジャンプのマッチョな中二病体質を叩いているが、その体質を自覚しているからこそアングラな青臭さをわざわざ拾い上げようとするのだ。だいたい、そのサンデーにも『チェンソーマン』と同じ狙いの作品があるのだが……字数が尽きた。気が向いたら次号に続く。

更科修一郎(さらしな・しゅういちろう)
コラムニスト&〈元〉批評家。90年代から批評家として活動。2009年、『批評のジェノサイズ』(共著/弊社)刊行後、休業。15年に活動再開。急に忙しくなったのでいろいろ滞っておりますが、毎年恒例のマンガ特集はあるかどうかわからないようなので、次号もたぶんマンガ話です。

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