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オトメゴコロ乱読修行【64】

女オタクという完全生命体――脳科学的見地から読む『腐女子のつづ井さん』

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――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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『腐女子のつづ井さん』、および続編『裸一貫!つづ井さん』が、シリーズ累計50万部のヒットを記録している。その内容は、腐女子(BL好きの女オタク)を自認する作者(つづ井)が、女オタクの生態あるあるを絵日記形式で赤裸々に綴るもの。腐女子界隈の強い共感を誘うだけでなく、「凝り性な文化系女子」特有の思考回路と行動原理のロジックが、簡潔かつ的確に語られている。「女オタクの精神性の教科書」とでも呼ぶべきか。

 本作の魅力は腐女子や文化系女子以外の“外野”にも届いた。要は、「オジサンが女オタクを勉強するために読む」需要も喚起した。腐女子の奇人ぶりがキャッチーに、ポップに、卑屈や自虐を交えず、笑えるネタとして描かれていたからだ。

「“推し男性キャラの設定身長”の壁位置にマスキングテープを貼り、妄想に耽って悶える」「男子運動部のマネージャーになったつもりで、想像上の部員に渡すマスコットを本気で手芸自作する」「イヤホンを鼻に挿してエッチなBLのCDを流し、口からイケメンのエロい台詞を出して楽しむ」「アニメの感想を壁に話しかける」――。

 彼女たちは推し(好きなキャラ、人物)に対する尋常ではない愛を、あらん限りの語彙と行動で示す。推しを生んだ両親に感謝し、彼がこの世界に生きていることに宇宙の神秘を感じ、彼が存在するに至った人類と宇宙に「ありがとう」と言う。推しの誕生日にオタク友達と2人で高級ホテルに1泊旅行して祝う。推しが好きすぎて、別人格のアカウントを作って推しツイートし、それを本来の人格の自分から眺めて「別人格と友達になりたい」と願う(←何を言っているのわからないと思うが)。「推しカプ(推している男性同士のカップリング)の部屋の壁や観葉植物や酸素になりたかった」と言い放つ。とにかく大仰だ。

 彼女たちのこのような生き様を見て、嘲笑したり憐れんだりする男もいるだろう。彼らは「腐女子は非モテで、オンナノコらしい愛嬌に欠ける」「結婚や出産とは程遠い存在」と決めつけることで、「女性度の低さ」をあげつらいがちだ。

 しかし、これはまったく正確ではない。なぜなら、つづ井たちの行動は「脳科学的見地からすれば、腐女子は女子度が非常に高い」ことを、ありありと示しているからだ。腐女子はむしろ、ある種の“女らしさ”を突き詰めた究極形である。エビデンスは、女性脳の特性を平易に解説してベストセラーになった『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(いずれも講談社+α新書)の2冊。著者の黒川伊保子氏は脳科学・AI研究者である。

 例えば、『つづ井さん』に登場する女オタクたちは、誰しも共感する力と共感してほしい欲が、常人の域を遥かに超えて高い。推しキャラの不遇に心を痛めて泣くのは日常茶飯事。オタ友が創作した100%妄想の片想いストーリーを聞いて号泣する。オタ友同士のおしゃべりでは「わかる~」が連発され、共感していることを表明し合うことで互いを労り合う。「女性脳の、最も大きな特徴は、共感欲求が非常に高いこと」「『わかる、わかる』と共感してもらえることで、過剰なストレス信号が沈静化する」(『妻のトリセツ』p.23)。

 また、つづ井のオタ友たちは、自分と違う意見の相手も必ず尊重する。推しカプの見解がずれていても「それもいいね」と尊重し、さりとて自分の意見は絶対に曲げない。違う意見同士でも共存共栄できるのが、女脳だ。

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