サイゾーpremium  > 連載  > 友清哲のビールの怪人【19】/【町工場】の三代目がビール醸造に進出
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友清哲のビールの怪人【19】

町工場の3代目がクラフトビール醸造に進出!――いつか自社のタップルームをオープンしたい!

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――すべてのビール党に捧ぐ、読むほどに酩酊する個性豊かな紳士録。

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町工場が醸すクラフトビールを武器に、「川口をビールの街にしたい」と語る星野幸一郎さん(36)。将来的には自社のタップルームをオープンさせる計画も!

 埼玉県川口市内、多くの町工場が立ち並ぶエリアの中に、昨年誕生したブルワリーが「星野製作所(麦)」である。

 屋号に添えられた「(麦)」の文字は、ここが本来、金型などを製造する町工場であることに由来している。つまりこのブルワリーは、町工場・星野製作所の一部門という考え方なのだ。

 ブルワーの星野幸一郎さんに、ビール事業をスタートさせた経緯を聞いた。

「もともと工場を継ぐ気はなかったのですが、いつか自分で物を作って売る商売をやりたいとはずっと考えていました。数年前、たまたまブリュードッグの『パンクIPA』を飲んだのを機に、クラフトビールという分野への関心が高まって、自分なりに研究を始めたのがブルワリー設立のきっかけですね」

 星野さん自身の出身地は墨田区だが、川口市内には祖父の代から続く工場を所有していた。そこで、その一角を改装して醸造設備を置くことを決意。改装工事は父親と2人、手作業で行ったというから、職人としての強みが存分に発揮されている。

 一方、ビール造りについては都内のブルーパブで2年ほど修業を積み、2018年の3月末には首尾よく醸造免許を取得した。今も同じ建物内には金型製造の設備が並んでおり、ブルワリーとしては独特のムードを醸している。

「初めて仕込んだビールは、シンプルなペールエールでした。でも、設備や環境が異なるせいか、思うように発酵が進まなかったり、イメージしていた通りの味に仕上がらなかったり、最初はなかなかうまくいかなくて……。当初は造っては破棄することを何度か繰り返していたため、税務署から電話がかかってくるたびに、『売り物にならなかったので、今月は納税できません』と頭を下げていました」

 そんな星野さんが記念すべき最初のビールをリリースしたのは昨夏のこと。初売りは川口市内で催されたマルシェだった。

「お客さんの反応を直接リサーチしたかったので、地元のマルシェはうってつけの場でした。ところが、この日は気温が36℃超の猛暑日でほとんど人通りがなく、あまりビールは売れなかったんです」

 そう苦笑しながら振り返る星野さん。開業当時はなかなか苦労の連続であった様子がうかがえる。

 しかし、身ひとつで醸造と販売、そして営業をこなしてきた苦労のかいあり、この1年で星野製作所(麦)の名とそのクオリティは着々と業界内に浸透しつつある。噂を聞きつけた全国のビアバーからの引き合いは増えており、首都圏を中心に星野製作所(麦)のビールを常設する飲食店もちらほら現れた。星野さんは「まだスタート地点にも立っていない状態」と語るが、わずかか1年の成果としては上々なのではないか。

 当面の課題は、現状は月に800~900リットル程度である仕込み量を増やし、より多くのファンに自社のビールを届けられる量産体制を整えることだという。

 ここで興味深いのは、星野さんがここまで、あまりホップを重視しないビール造りを行ってきたことである。

「クラフトビールの分野では、まだまだIPAなどのホップを効かせたタイプのビールが人気です。でも、1軒のタップルームで求められるIPAは、多くてもせいぜい2~3種程度。わざわざ全国のブルワリーと競争してその枠を取りに行くのは非効率だと考えました」

 そこで星野製作所(麦)では現状、ペールエールやヴァイツェンなどを中心に展開中。これは決してホップを敬遠しているわけではなく、限られた生産量で効果的に売っていくための、ビジネス上の戦略である。こうしたマーケティング意識は、前職で繊維製品の製造販売を手がけた経験が大きいという。

「いま準備しているのは、原材料に生姜を用いたセゾンタイプや、ワイナリーから仕入れた搾った後のぶどうを原材料とするベルジャンタイプなど。これらを自分なりにブラッシュアップして、近いうちに提供できればと思っています」

 そして20年の目標は、47都道府県すべてに自社のビールを届けることだと星野さんは語る。

「例えばほかの地域で暮らしている川口市出身の人が、たまたまうちのビールに出会った際に、『地元にこんなブルワリーがあったのか』と思ってもらえたらいいな、と。外の地域から星野製作所(麦)を周知させることで生まれるつながりもあるのではないかと期待しているんです」

 町工場発のクラフトビールが本領を発揮する日は近い。

友清哲(ともきよ・さとし)
旅・酒・洞窟をこよなく愛するフリーライター。主な著書に『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。

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