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「ファンキー・ホモ・サピエンス」【73】

【ライオネル・リッチー】老兵は死なず、復活する!?――逆襲のライオネル・リッチー

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『Hello from Las Vegas』

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ライオネル・リッチー(販売元:ユニバーサルミュージック)

リチオは00年代だけで3枚のライブ盤を出したが、たいした成績は残せていない。なのに今回は! 今年春夏に敢行した北米「Hello Tour」のラスベガス公演を収めたもの。「全ヒット曲を歌うで~オールナイトや!」という鼻息の荒さが微笑ましい。最後はもちろん「All Night Long」だ! でも白眉はコモドアーズ曲だったりする。

 ミッシー・エリオットのようなイノベイティブなアーティストがカムバックすれば、歓迎されるのは当然だ。

 だが、8月末日付の米『ビルボード』のトップR&B/ヒップホップ・アルバム・チャートを見ていた私の目を奪ったのは、そのミッシーではない。初登場1位のヤング・サグと、3位の(ミーゴスやリル・ヨッティらが所属する)レーベルのコンピレーション・アルバム『Quality Control: Control The Streets, Volume 2』に挟まれた第2位に堂々初登場を成し遂げたアルバム――それはライオネル・リッチーのライブ盤『Hello From Las Vegas』なのだ。

 ライオネル・リッチーが音楽シーンを牽引する役割を担っていたのは80年代前半までだから、今や盛りを過ぎて35年も経過した存在だ。それがランキングにチャートインとは! とはいえ、この週のチャートには例によってボブ・マーリーのベスト盤『Legend』も、2パックの(やはり)ベスト『Greatest Hits』も入っている。しかし! それらはレジェンド勢(しかも故人)のレジェンド作品。ところがライオネルの作品は、今ここにきて新録ライブ盤である。そして堂々のチャートイン、ミーゴスらより上位に初登場! 1949年生まれ70歳の現役感、すごいぞ!

 アラバマ州に位置する由緒ある名門黒人大学、タスキーギー・インスティチュートにテニスの奨学金で入学したライオネル19歳(歌も鍵盤もサックスもできる)が結成/参加した学内バンドがコモドアーズ。74年にはモータウンからデビューを飾る。デビュー・シングルはキーボード中心で歌皆無のインスト・ファンク「Machine Gun」というハードコアさ。その後も、スケベな「Slippery When Wet」やガチムチ女体賛歌「Brick House」など、やたらとクドいファンクのヒットが続く。そのあたりだけ聴いているぶんには、のちのソロ・アーティスト、ライオネル・リッチーの姿はまったく想像できない。

 だが、そのガチムチ女体賛歌「Brick House」と同じ77年のアルバム『Commodores』に収められていたのが、ポップ方面に傾斜したバラードであり、カントリーっぽくもある「Easy」。そう、この曲はコモドアーズにとって本格クロスオーバーのきっかけであると同時に、我々が知る後年の「リチオ」(ライオネル・リッチーの愛称)イメージの開始ポイントでもある。

 その後も「Three Times A Lady」や「Still」、そして「Sail On」といった“その手の曲”をヒットさせてきたライオネルが、ついにグループを脱退しソロになるのは82年。素直に『Lionel Richie』と題されたアルバムからは、「Truly」や「You Are」が大ヒットを記録する。だが、彼が真に開花するのは83年の次作『Can't Slow Down』。ファンクで幕を開けるも、なんだかカリビアンな「All Night Long」やソウル・バラードの「Penny Lover」、カントリー的なヒネリが効いた「Stuck on You」などを経過して、最後はやりすぎバラード「Hello」に至る満漢全席ぶり。当然ながら「ソウルらしくない」とも評されるが、これは奇跡的バランスの上に成立した佳作であり、2000万枚を超える大ヒットとなったのも頷ける。

 が、次作『Dancing On The Ceiling』でリチオは決定的にやりすぎる。軽佻浮薄なタイトル曲といい、感動を無理強いするバラード「Say You, Say Me」といい、かつてのコモドアーズ時代の支持層を完全に突き放す作り。それでもヒットしたが、彼はここから約10年もの沈黙に入り、復帰を果たすのは96年の『Louder Than Words』まで間が空く。その後は12年までに6枚のアルバムを出しているのだから、結構ステディに活動しているのだ。しかし、どれも『Can't Slow Down』には及ばない……どころか、チャートでは40位にも入らない作品があった。ただ、12年の自己カバー集『Tuskegee』だけは1位だったが。

 いま思うと――R&Bチャートではほぼ無視されたが――その『Tuskegee』が復活の狼煙だったのかもしれない。そして、そこから重ねた精力的なツアーを元手に出されたのが今回のライブ盤、というわけだ。

 今回の復活劇。「レコーディング・アーティストとしての短い絶頂期を終えた後の長い年月をどう生きるか」を示す、リッチー先輩の偉業かもしれない。後輩たる黒人アーティストたちのための人生訓としても。

まるや・きゅうべえ
10月10日、台湾の国慶日(辛亥革命の記念日)に、たぶん何かやる。
ツイッター〈@QB_MARUYA

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