サイゾーpremium  > 連載  > 神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」  > 「マル激 TALK ON DEMAND」【147】/【勤勉さで経済大国に】という日本人の誤認

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
デービッド・アトキンソン[小西美術工藝社社長]

勤勉さ、そして技術力で日本は世界屈指の経済大国へと発展した――。誰もが一度は耳にしたことがあるフレーズだが、かつて金融業界で辣腕を振るい、現在、文化財の補修を行う企業のトップ、デービッド・アトキンソン氏はこれは日本人による勘違いだと指摘する。そこから見える日本人の国民性、さらには潜在能力を引き上げる方法を徹底議論!

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『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』(講談社+α新書)

神保 今回は、「日本人には日本の本当の長所と短所がわかっていないのではないか」と指摘なされている方を、ゲストにお招きしました。元ゴールドマン・サックス証券の金融調査部長で、現在は文化財の補修などを手がける小西美術工藝社の社長を務めるデービッド・アトキンソンさんです。

 まず最初に、アトキンソンさんが2015年に上梓された『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』(講談社+α新書)からまとめさせていただくと、日本の強みは「経済力、治安が良い、清潔、住みやすさ、細かさ、器用さ、真面目さ、高い技術力、職人魂、極める美学、技術力、アレンジのうまさ、足し算」などで、逆に弱みは「効率性の低さ、生産性の低さ、柔軟性に欠ける、頭が固い、長時間労働、行き過ぎた完璧主義、無駄な事務処理、面倒になることを極端に避ける、リスクを取りたがらない」とされています。

 僕が特に面白いと思ったのは、日本人はとにかく面倒なことを嫌がるんだと、外国人の目には映っているというところでした。そのテーマに丸ごと一章を割かれて、実はこのことが日本人のさまざまな行動の根底にあるのではないか、と分析されていますね。

アトキンソン 自分が日本に住んでいて、ビジネスを行うにあたって、これが一番問題になります。私は観光や文化などの分野で、さまざまな政府委員会に入っていますが、こうしたほうがいい、と新しいことを提案すると、反発反論、人格否定、暴言暴論が多く出てきます。何事も現状を変えるのが嫌で、面倒を嫌うんです。

宮台 僕らは電力の仕組みについてずっと議論してきましたが、本当に変わりません。巨大な権力によって変わらないという面もありますが、やはり「別のやり方がある」ということをみんな知りたがらないし、比較もしたがらない。日本の弱点に「頭が固い」とありますが、どうせ大変なことになるから、変化そのものを避けようとします。

神保 一方で、長時間労働を厭わず、完璧主義を貫こうとするともあります。ここは「頭が固い」という部分と整合しないような感じもしますが、どうですか?

アトキンソン 実はつながっていて、「効率性が悪い」という意味で、頭が固いと言えます。つまり、長時間労働をすればするほど効率性は下がるし、行き過ぎた完璧主義もここにつながる。「無駄な事務処理」を完璧にこなそうとして、「リスクを取りたがらない」から、結局いつまでたっても何も変わらず、生産性も低くなります。

神保 アトキンソンさんからご覧になって、なぜ日本人はそんなに頭が固い人が多いのだと思われますか?

アトキンソン ひとつはやはり、戦後の成功体験が邪魔をしていると思います。「途上国だった日本が、世界第2位の経済大国になった」と言いますが、しかし実際には、戦争が終わる直前の時点で、日本はすでに世界6位の経済大国だった。1945年にGDPはそれまでの半分まで減っていますが、戦争が終われば元に戻るのは当然です。

神保 つまり、高度成長というのは、元々持っていた経済力を取り戻しただけのことで、あとは戦後の日本のように人口が急激に増えれば、GDPも大きく伸びるのは当然のことだったということですね。

宮台 正直、知らなかったですね。

アトキンソン また、1945年から2013年まで、例えばドイツの人口は6500万人から8000万人までしか増えていませんが、日本は7300万人から1億2700万人まで増加しています。

神保 ドイツは24%しか増えてないが、日本は76%増えた。

アトキンソン 元に戻るのと同時に人口がここまで増えるのだから、それは高度成長するに決まっています。ところが、一般的なコンセンサス、神話としては、「途上国だった日本が勤勉性と技術力を使って、世界1位に迫るところまで行った」とされている。実際に数字を分析しているアナリストからすると、それはただの神話で、ほとんど根拠がない。しかし「失われた25年」と言われ、当然ながら高度成長の理屈の延長線上で、「今の日本人はダメだ」となるわけです。

神保 勤勉性を失ったから技術力が伸びなくなり、その結果、成長しなくなったと。

アトキンソン みんな「今の若い日本人はダメだ」と言いますが、そもそもの「昔は良かった」という大前提に根拠がない。私からすると、日本の戦後の経済史は古事記とあまり変わりません。

神保 神話という意味ですね。確かに、戦後の日本が経済大国に成長できた要因は圧倒的に人口増によるところが大きいのに、なぜかそれをもっぱら勤勉さや努力の賜物だったと信じ込んでしまう。間違った成功体験のせいで、処方箋も間違ったものになってしまうわけですね。

日本だけではない? 経済発展と人口増加の関係

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