サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 【AI本】が説く人類の「幸福論」

――AI(人工知能)がいよいよ身近になってきた昨今。とはいえ、まだそれが我々の生活をどう変えるのかは未知数だ。そんな中でさまざまな解説本が出版されているが、どうやらそれも玉石混交の様子……。中には明らかなトンデモ本も存在してる。果たして、本当に読むべき本はどれなのか――?

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さまざまな方面から注目されるAIの技術。本企画で紹介した本をマッピングしてみると、その傾向がよりわかりやすくみて取れる。

 ここ数年のAIブームを受けて、出版業界では関連本の刊行ラッシュに突入している。学術書からトンデモ本まで、巷にあふれる玉石混交なAI本の中で今、読むべき1冊とは? 開発研究者の立場からAIの現実を綴った『誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性』の著者・田中潤氏と、テクノロジーと人間の未来をめぐるルポ『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』の著者で小説家の海猫沢めろん氏に伺った。

――現在のAI本バブルな現状を、どのようにご覧になられていますか。

田中潤(以下、): AI脅威論みたいなのとか、SFチックな、妄想じみた言説に満ちた本も少なくないですよね。実際にAIの開発をしている僕みたいな人間は、実害を被ることもけっこうあって、正直「面倒くさいな」と思うことが多いんですよね。

海猫沢めろん(以下、): 実害といいますと?

: AIについて勘違いした人が、とんでもない依頼をしてきたりするんですよ。どっかの社長がうさん臭いネットニュースか何か読んで「今はAIの時代か。じゃあ、ウチも」といって部下を派遣してくるんですけど、「いや、そんな技術まだないから!」みたいな説明から始めなければならず、すごく面倒だし、時間のムダ。

: マジですか! 「AIヤバいからやってください」みたいな、テキトーな依頼ってあるんですね。仕事に取り入れようと思ったら、ある程度本とか読んで理解しとかないと無理ですよ。

: まあ、いい加減な本もいっぱいあるから、読む本によっては逆効果でもあるんですけど(苦笑)。

: AIが人気なのって、たぶん技術的な話もできれば、哲学の話にも経済政策の話にもつなげられる、その汎用性の高さからじゃないかなと。

: だからこそ、デタラメも言いやすい。僕の本では「AI=ディープラーニング」と書いていますが、「結局AIってなんなんですか」ということすらはっきりさせない本も少なくありません。定義を曖昧にしたり、あるいはしなかったりすれば、なんでも書けてしまうんですよ。そのお手軽さが、AI本が氾濫している理由の1つかもしれないですね。

――いろいろなAI本が出ていますが、どのように分類できると思いますか?

: ざっくりと、売れ線狙いと、ちゃんと正しい情報を書こうとしているものとで分けられるのでは。前者は、企画臭が強い。例えば、iPS細胞の山中伸弥教授と棋士の羽生善治さんによる対談本『人間の未来 AIの未来』【1】とか。AIがプロ棋士に勝ったという話は大きな話題になったので、羽生さんがAIについて語ることにニーズはあるのでしょうけど、この2人は別にAIの専門家じゃないですよね。彼らがAIを語るのって、イチローがサッカー論を説くみたいなもので、そもそも企画としてどうなの? と思うわけですよ。

: 羽生さんは、人間とAIで、将棋のプレイにおける思考の違いみたいなことは話せるし、それは面白いんですけどね。

: ただ、それってゲームAIの話なわけで、将棋に勝てるAIができたからといって、それがほかのことでも人間を超えているわけではないんです。そこのところを勘違いして、すぐなんでもできると思ってしまう人が多い。

: 田中さんのおっしゃることもわかります。この本、いきなりiPS細胞の話から始まってますものね。もしかしたら「今iPS細胞の話しても売れないから、はやりのAIの本にしちゃえ!」って、編集者がとっさに判断したのかも(笑)。

シンギュラリティは「狂気」のリトマス試験紙?

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