サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 現役翻訳者たちに聞いた【日本マンガ翻訳】の限界

――翻訳家はどこまで訳す必要があるのか?──『おしえて! ギャル子ちゃん』『坂本ですが?』『エロ漫の星』など日本人にしか理解できなさそうな、マニアックな作品まで今では海外でも刊行されているが、そんな日本独自の文化にあふれたマンガを、翻訳者たちはどう訳したのか? 現役の翻訳家たちに話を聞いていく。

1702_ghostintheshell_230.jpg
今春公開予定の『ゴースト・イン・ザ・シェル』。世界観的には押井守監督のアニメ映画版っぽい。

 今や世界にほこるカルチャーとなった日本のマンガ。その魅力は、多彩なジャンルやテーマ性の深さにあるといわれており、翻訳される作品数も年々増えている。「週刊少年ジャンプ」(集英社)や「週刊少年マガジン」(講談社)といったメジャー誌の作品はもちろん、マイナー誌やウェブマンガまで幅広くカバーされているが、中には「よくこれを翻訳したな……海外の読者に伝わるのか?」などと疑問に思ってしまう作品も存在する。

 例えばギャグマンガ。絵で笑わせるギャグならまだしも『さよなら絶望先生』【1】などに見られる日本特有のダジャレや言葉遊び、時事ネタにネットスラングを用いたギャグは、翻訳のみならず、そもそも日本人読者の理解を得ることも困難ではないのだろうか。

 もうひとつは難解な作品。具体例としては、今春ハリウッドで実写映画化される『攻殻機動隊』【2】を挙げよう。近未来を舞台にしたSFである本作には、実在しない技術や独自の専門用語が数多く登場する。世界的に知名度の高い劇場アニメ版やテレビアニメ版では、それらに対して特に説明もないまま進行していくが、原作マンガ版では注釈や解説がページ欄外に所狭しと書き込まれており、日本人ですら読むのに苦労する。ところが、原作の英訳版でも、これらはしっかり翻訳されており、欄外に収まりきらないため巻末で10ページ以上にわたって解説がまとめられている。その分量はさながら辞書のようであり、翻訳家の苦労は計り知れない。

 日本のマンガは、ジャンルの多彩さゆえ「日本という国を理解するためのテキストブック」として読まれることも多いという。そのため、翻訳家には高い日本語語彙力はもちろんのこと、日本文化に対する深い造詣も求められる。それでは、日本人にすら理解が困難なマンガの翻訳は、どのように行われているのか? また、マンガを通じた異文化の翻訳に「限界」はあるのだろうか? 海外における日本のマンガ翻訳の第一人者たちに話を聞き、現地の日本マンガ事情などと合わせて探ってみた。

ギャグに説明を入れると読者は興醒めしてしまう?

1702_yuyuhakusho_520.jpg
個人ブログでも指摘され、ネット上の一部で話題となっている『幽☆遊☆白書』(冨樫義博/集英社/13巻より)の「禁句(タブー)の一文字!!」の日英比較。45分の間にひらがなが1分ごとに1文字消えていき、限られた文字だけで会話をしていくという頭脳戦。原作どおりaから順に行くと、5分でaとeが消えてしまい、話が進まなくなるため、逆にzから始めている。

「ヨーロッパでは1970年代から日本のロボットアニメなどが放送されていたため、日本の文化に慣れ親しんでいる世代が他の地域と比べて幅広いと思われます。特にイタリアは早い時期からマンガ専門の出版社が誕生し、90年代以降、長らくヨーロッパ最大のマンガ市場でした」

 そう語るのは、同国におけるマンガ翻訳の第一人者であり、この道25年のベテランであるスタンザーニ・詩文奈(シモーナ)氏。代表作として、先述した『攻殻機動隊』のイタリア語版などを手がけている。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...
この記事を購入※この記事だけを読みたい場合、noteから購入できます。

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2019年11月号

Netflix(禁)ガイド

Netflix(禁)ガイド
    • SNS時代の【アメリカ】動画
    • ケガしても【拡散希望】の狂気
    • 海外ポルノ界の【全裸監督】たち
    • 本家【全裸監督】の海外での評判は?
    • 【小林直己】ネトフリで世界進出
    • 世相を反映【ディストピアSF】傑作選
    • 【A-THUG】が推すドラッグ番組
    • 下品なだけじゃない【恋愛リアリティ番組】
    • 【恋愛リアリティ番組】一挙レビュー
    • 【みうらうみ】ネトフリドラマグラビア
    • ネトフリ人気作の【エロ依存度】
    • 【人気作6作】のエロシーン検証
    • 【奈良岡にこ】再生数アップのサムネ術
    • 【スタンダップコメディ】作品のトリセツ
    • 【スタンダップコメディアン】が語るAマッソ問題
    • 【クィア・アイ】と女言葉翻訳の問題
    • 【差別語】翻訳の難しさ
    • 配信で見返す【90年代ドラマ】
    • タブーな【民法ドラマ】6選

収監直前ラッパーD.Oの告白

収監直前ラッパーD.Oの告白
    • 【ラッパーD.O】悪党の美学

NEWS SOURCE

    • 【関電スキャンダル】3つのタブー
    • 【あいちトリエンナーレ】騒動の余波
    • 【浜崎あゆみ】ドラマ化と引退疑惑の真相

インタビュー

    • 【松本妃代】──実は踊れる演技派女優
    • 【FUJI TRILL】──モッシュを起こすヒップホップDJ
    • 【Neon Nonthana & Eco Skinny】──カップルの日常ラップ

連載

    • 表紙/福井セリナ「ポッと入ったんです。」
    • 【石田桃香】紫に包まれる肢体
    • 【真帆】がいるだけで
    • 【日本】で新しいことができないワケ
    • 【萱野稔人】宇宙生物学と脳の機能から見る人間(後)
    • 追悼【高須基仁】という男
    • 不要な【アレンジ】おもてなし魂
    • 【Lizzo】女性MCたちの一斉開花
    • 町山智浩/【ハスラーズ】ストリッパーの逆襲
    • 【アメリカに依存する】日本のサイバー戦争対策
    • 小原真史の「写真時評」
    • 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」
    • 笹 公人「念力事報」/TOKIOの晩年
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/【愛がなんだ】がヒットする日本のヤバさ
    • アッシュ・ハドソンの「アングラ見聞録」
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 元エンジニアが作る【古代クジラ】を冠したビール
    • 更科修一郎/幽霊、TVの国でキラキラの延長戦。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』