サイゾーpremium  > 連載  > CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評  > 月刊カルチャー時評/『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』

批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]× 岡室美奈子[早稲田大学教授]

1605planetss.jpg
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう1』(河出書房新社)

『東京ラブストーリー』の脚本家・坂元裕二が手掛ける久々の月9作品として、ドラマファンの期待が高かった『いつ恋』。平均視聴率は9.4%と振るわず、終了後にはさんざん揶揄もされたが、むろんドラマの価値は視聴率とイコールではない。同作が描こうとしたもの、そしてそれがなぜ受け入れられなかったのか、テレビドラマの現状を憂う。

岡室 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)は、とても良いドラマでした。坂元裕二さんの月9だけに「王道ラブストーリー」を期待した人も多かったと思いますが、実は本作で一番大事にされていたのは「他者のために生きられるか」ということだったと思う。なぜ音ちゃん(有村架純)と練君(高良健吾)の恋愛がすんなり成就しないかというと、2人とも他者を優先してしまって、自分のことを後回しにするからなんですよね。若年層の貧困やブラック企業、介護の現場などいろんな社会問題を盛り込んで、何も持たない人たちが、いろんなところでつらい目に遭いながらも、どこまで他者のために生きられるのかを描こうとしていた。そして音ちゃんと練君は互いにそうであることがわかるから、つながっている。恋愛ドラマではあるんだけど、一緒にいるとか2人で幸せになることよりも優先されることがあるんだ、というのがすごく強いメッセージだったと思うんです。それは坂元作品の『それでも、生きてゆく』【1】との連続性を感じる部分で、あの作品は最後まで2人は結ばれないけど、でも心はつながっている、という終わり方だった。それと似ている。

 でもたぶん今はそういうことが理解されにくいから、『いつ恋』の視聴率は振るわなかったんじゃないかと思います。自分のことは置いておいて他者を大切にする人という存在がほとんど絶滅危惧種になっていて、そういう人たちへの想像力がうまく働かないせいで、あの2人の恋愛が成就しないことがなかなか理解されなかったんじゃないでしょうか。普段からドラマを観ている人でも「なんかイライラする」と言っていて、そこがすごく切なかった。

宇野 『いつ恋』はそのイライラをフックにして感情移入させる作りで、それがドラマファンからは支持を集めたんだと思うんですけど、今テレビをつけっぱなしにしてカジュアルにドラマを観ているような──例えば『恋仲』【2】を好んで観ていたような若者には通じなかったんでしょうね。今のテレビは、共感できないものに対する感情移入ができない人を結果的に集めてしまっていると思うんです。今回は登場人物の言動にイラッとするのを楽しむような感性が、テレビ文化から後退しつつあることをまざまざと見せつけられた気がする。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2026年11月号

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界

ドーパミン時代の沼化するエンタメ業界
    • 「沼化」するエンタメ業界
    • 膨らみ続けるグラビア市場
    • SNSがつくる「あなたの好み」
    • 映画界ハラスメントの実態
    • ゲーム実況者の高齢化問題
    • PS、ディスク販売廃止の衝撃
    • 私たちは「ドパガキ」なのか
    • AI時代の「生歌」の価値
    • 「ニコ生ホラー」とは何だったのか
    • テクノロジーが広げる学びの未来
    • AI時代のサイバー攻撃
    • リングを彩る美女たち
    • 〈Cosplay beauty〉もちむぎ

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 滝藤賢一、名バイプレイヤーの境地
    • 唯一無二の音楽家・水槽
    • 小八重葵美が得たもの

連載

    • [マルサの女]高橋凛
    • 神保哲生×宮台真司の「TALK ON DEMAND」
    • 萱野稔人と巡る「超・人間学」
    • ドクター苫米地に聞け!
    • 井川意高の天上夜想曲
    • 韮原祐介の匠たちの育成哲学
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • GROOVE SEQUENCE
    • 笹 公人×江森康之の「念力事報」
    • 町山智浩の「映画でわかるアメリカがわかる」
    • 花くまゆうさく『カストリ漫報』
サイゾーパブリシティ