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第1特集
日本最大のヤクザ組織はどこへ向かうのか?【3】

巨大化しすぎた弘道会のカネと力が引き金に……原因は小泉構造改革!? 日本経済と山口組の関係

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――前記事まで、山口組の歴史と分裂への軌跡をたどってきた。90年代以降、痩せ細っていく日本経済界において邪魔者とされたヤクザビジネスの変容は、ここまで見てきた通り。では、分裂の引き金を引いた具体的なきっかけはなんだったのか? さらに詳しく解説していこう。

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『小泉政治の正体―真の改革者か稀代のペテン師か』(PHP研究所)

 山口組分裂の“根っこ”は小泉構造改革にある――。

 いきなりこんなことを書くと、奇異に感じられるだろう。もとより、当事者である組長たちの胸中に、小泉純一郎の名前などあるはずもない。

 だが、大物組長と「任侠」について語り合った経験のない身でも、企業舎弟たちのビジネス(シノギ)の裏オモテをウォッチしてきた目で見れば、おのずと冒頭のような結論に行きつくのである。

 2001年に始まった小泉構造改革では、国の借金が雪だるま式に増えるのを止めるため、公共事業費の大幅な削減が断行された。

 このことは結果的に、多くのヤクザから、キャリアパス(出世の道筋)を奪ってしまう。

 従来、ヤクザが高額の上納金を納めながら大組織での出世を目指したのは、組織のトップに近づくほど、その裏で地元政財界の「信用」がつき、大型の開発事業に食い込んで大きな利益を得られるからだった。実際、六代目山口組の中核にある弘道会と、割って出た側である神戸山口組の主要な組長たちは、空港や原発、大型橋梁の開発事業に絡んで巨額の富を手にしたとされる。広大な用地買収や埋め立てに伴う漁業権の整理、複数県にまたがる工事の利益配分から完成後の騒音対策まで、あらゆる関連事業に食い込んで利益を吸い上げたのだ。

 しかし構造改革によって、かつてのような超大型事業は幻となり、次世代のヤクザたちは、ビッグビジネスにありつけないまま警察の包囲網の中に取り込まれてしまう。ところが弘道会だけは、この改革から恩恵を受けることになった。

「小泉政権は、派遣労働の規制緩和や円安誘導を同時に行い、輸出型産業の成長を強力に後押しした。その筆頭格が、中部地方の自動車産業です」(経済ジャーナリスト)

 日本経済は小泉政権下の02年2月、戦後最長の「いざなみ景気」に突入。牽引役となったのが中部地方の工業地帯であり、それを支えたのが、他の地方から集められた請負や派遣の労働者たちだった。

 派遣労働者の従事する部品の組み立て作業はあまりに単調で、週末にはストレス発散が欠かせない。多くが独身男性である彼らは、金曜日の夜ともなると名古屋に繰り出し、弘道会の仕切る歓楽街に吸い込まれた。

 司忍・六代目山口組組長が誕生したのは、こうして弘道会のシノギと「いざなみ景気」が絶頂を迎えた、05年7月のことである。

 もっとも、この時期に日本経済の裏側で暗躍していた山口組の二次団体は、弘道会だけではない。

 好景気の中、東京では不動産の「都心バブル」が発生。そこで強引な地上げを行ない摘発されたのは、宅見組のフロント企業だった。

 また、バブルは株式市場でも発生しており、奈良市に本拠を置く組の名前などが株価操縦がらみで取り沙汰されていた。

 だが、そうしたシノギの場も、急速に狭められていく。

 暴力団対策法(暴対法)の施行から丸15年となった07年、警察庁は『警察白書』で、「暴力団の資金獲得活動との対決」を特集。暴力団が株式市場などに浸透していると警鐘を鳴らし、その手引きをする不良証券マン、いわゆる「共生者」の取り締まりを宣言した。

 さらに、08年には暴対法が改正され、下部団体組員による恐喝やみかじめ料の強要などについても、上部団体トップの責任が問われるようになる。その後の暴力団排除条例(暴排条例)の全国施行(11年10月)を待つまでもなく、この頃からオモテ経済におけるヤクザの存在感は急速にしぼんでいった。

 もちろん、08年9月にはリーマン・ショックがはじけ、「世界同時不況」に突入したわけで、苦境に陥ったのはヤクザだけではない。「いざなみ景気」も終了し、中部地方の工業地帯では「派遣切り」と「雇い止め」の嵐が吹き荒れることになる。

 それでも、わが世の春を謳歌していた弘道会は、時代の変化を容易に受け入れようとしなかった。

 その鬱憤が表層化したのは10年9月。弘道会傘下組織の元幹部組員らが名古屋・椿町のキャバクラに乗り込み、ガソリンをまいて火をつけ、従業員男性(当時27歳)に全身やけどを負わせて死亡させる事件が起きた。犯行の目的は、キャバクラを酔客に紹介する「無料案内所」に広告を出すことを、この店が断ったことへの報復。案内所は犯人らの所属する組織が経営していたもので、広告料はみかじめ料を兼ねていたわけだ。

 警察の包囲網の中、「もはや代紋では食えない」と多くのヤクザがこぼす中にあって、大胆不敵な権力への挑戦といえた。

 実際、この頃にはまだ、「代紋では食えない」との言葉も、弘道会には当てはまらなかったのかもしれない。

 東京には山口組の、というより弘道会の代紋がテキメンに効く相手がいた。半グレである。元関東連合幹部の工藤明男氏は著書『いびつな絆』(宝島社)の中で次のように書いている。

 少年時代の遺恨から、抗争を繰り返していた関東連合などの半グレ集団は、暴力団組員がかかわったとみられる08年3月の西新宿での殺人事件を境に、急速にヤクザの代紋を求めるようになった――。

 彼らが代紋を求めたのは、敵対勢力の背後にいるヤクザの脅威を抑止するためだ。それには当然、ヤクザの中でも恐れられる代紋でなければならない。そんな彼らにとって、山口組の中核をなす弘道会の名前が“最強のブランド”であったことは、言うまでもない。

 では、彼らを傘下に収めるヤクザのメリットはなんだったのか?

「連中は振り込め詐欺で、カネを持っている。それに連中の人脈は、東京でのシノギの足場にもなる」(山口組二次団体の企業舎弟)

 一方、一部の有力な半グレにとって弘道会は、それまでとは違った次元のビジネスへの入口になっていたようだ。

 東京で、半グレに対する窓口役となった弘道会関係者の中に「京橋筋」と呼ばれる金融ブローカーがいる。その事務所に出入りする関東連合関係者は06年頃、山口組二次団体が入り乱れた健康食品会社の乗っ取り合戦に参入。その少し後には上場ベンチャー企業の代表に就任し、周囲を驚かせた。

分裂の引き金を引いたキャバクラ放火事件

 近年、山口組系のヤクザが介入したと噂された事件では、大阪、福岡、北海道の二次団体の名前をよく聞く。いずれも、弘道会と特に親密とされる組織だ。

 中でも北海道の二次団体幹部は、同じ山口組の旧五菱会(現清水一家)系ヤミ金グループの元幹部や、アイドルだった本田理沙の元夫で投資詐欺により有罪判決を受けた菊次達朗受刑者と近く、六本木界隈で広い人脈を築いている……。

 と、事件や人脈を追ってきたが、そろそろ話をまとめていこう。

 日本経済が縮小し、ヤクザに対する警察の包囲網が狭まる中でも、弘道会(と、その親密勢力)は、しばらくの間、富が一極集中する東京での地位を強めてきた。

 小泉構造改革を境にシノギが細り続けてきた多くの二次団体とは、著しく異なる状況にあったのだ。

 しかし弘道会とて、警察の追及から永久に逃れ続けられるわけではない。資金源だった風俗業者「ブルー」グループの佐藤義徳受刑者の摘発に見られるように、シノギの自由度は急速に狭まっている。

 そんな中、山口組内部で最近、ある問題が起きたとの情報がある。

 前述したキャバクラ放火事件の遺族との民事訴訟で、山口組側は今年7月末までに1億円を払うことで和解。この和解金の負担をめぐり、トラブルが生じたという。

「組内では、トップの使用者責任を認めない立場から、和解金については事件の当事者組織が払うことになっている。なのに、本部が弘道会以外の直系組長にも分担を求め、それに反発が起きたらしい」(山口組関係者)

 あくまで「力」で組織を維持しようとする弘道会に対し、よりシビアな現実を生きてきたほかの直系組長たちは、もはや別の生き方を探るしかないと考えていたのではないか。日本経済の二極化を受け、山口組の内部にも、あまりに違う2つの生きざまが生まれていた――この夏の分裂は、その帰結だったのかもしれない。

(文/李 策)

李 策(り・ちぇく)
1972年、東京都生まれ。朝鮮大学校を卒業後、朝鮮総連での活動を経てフリージャーナリストに。朝鮮半島問題のほか、在日外国人問題や組織犯罪などに取り組んでいる。著書に『板橋資産家殺人事件の真相』(宝島社)など。

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