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丸屋九兵衛の音楽時事備忘録「ファンキー・ホモ・サピエンス」【16】

【プリンス】黒いアメリカが最も愛す男?「俺たちの殿下」を考える

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人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が"地・血・痴"でこの世を解きほぐす。

『Art Offical Age』

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Prince(発売元:ワーナーミュージック)
本文中にある通り、バンド作品も同日発売した殿下。その「プリンス&サードアイガール」名義作がロック寄りなのに対し、この個人名義アルバムのほうは「ファンクを強化した80年代プリンス路線」という印象で、個人的に大好物。でも、そんな同作の白眉は、やはり裏声が映えるバラード「Breakdown」かなあ。

 ジェイミー・フォックスといえば、みなさんにとっては俳優、なのだろうか。ワシにとっての彼は、あくまでもコメディアンなのだが。

 とはいえ、スタンダップ・コメディアンとしてのジェイミーは、メチャメチャ面白い、というわけではない。それでも彼が、ワシにとって大好きな芸人のひとりであり続けるのは、芸からにおい立つプリンスへの敬愛ゆえだ。

 彼の漫談ライブを収めたDVD『アイ・マイト・ニード・セキュリティ』を見てみよう。「俳優としてハリウッドに出入りすると、大好きなスターに会えるようになる。俺の場合、それはプリンスだった」という前置きで始まる生プリンス体験談は、殿下の「子鹿のような可愛さ」に魅入られたジェイミーが「2秒間だけ、ゲイになった」という告白に行き着く。この発言、同性愛嫌悪が根強い米黒人社会では、異例中の異例だ。そして、続くのは「この会場にいるほかの男たちだって、彼と会ったら特別な感情を 抱かずにはいられない」という断言。

 これはもはや、スタンダップ・コメディではない。プリンスが、いかにブラック・アメリカに愛されてきたかの証左である。

 1958年6月7日生まれのプリンスことプリンス・ロジャース・ネルソン(以下、殿下)がデビュー・アルバム『For You』をリリースしたのは、彼がギリギリ10代であった78年4月。

 このアルバムは「多少は話題になった」程度だったが、翌年のセカンド『Prince』は、シングル「I Wanna Be Your Lover」の評判に勢いづけられ、プラチナヒットとなる。すべての楽器を自分で演奏することから「若きスティーヴィー・ワンダー」と形容され、この時点では裏声メインだったからスモーキー・ロビンソンと比較され……だが、それらの真っ当な評価がとんでもない勘違いだったことが判明するのが翌80年。姉に鞭で叩かれる近親SM歌詞も含むアルバム『Dirty Mind』が世に出たのだ。 より社会風刺に踏み込んだ『Controversy』を経て、LP2枚組の傑作『1999』で、政治にも”性事”にも積極的にコミットする危険な天才黒人ミュージシャンとして評価を高めたのが82年。続けて、84年の映画『Purple Rain』と同名サウンドトラックで、世界的人気を不動のものとしたのだった。

 と、ここまでがプリンスの出世史。だが当時、殿下に対しては、「黒人が白人っぽい音を出してる。変なの」という拒否反応もあり、あるいは「これはソウルやR&Bというよりも、UK白人ニューウェイヴに近い(だからいい)」という称賛もあった。とにもかくにも、「黒人にして黒人に非ず」みたいな扱いだったのだ。

 しかし。先述のジェイミー・フォックスは、役者として開花する以前、黒人コメディ番組で披露するプリンスものまね&歌まねコントで有名だった。演じる側も見る側もほとんどが黒人という番組で、殿下芸が人気を博したのは、黒人たちにとってのプリンスがあくまでも「俺たちのスター」であることを意味する。

 音楽界での評価に目を移そう。ネオソウルの旗手だったディアンジェロや、南部ヒップホップの鬼才コンビであるアウトキャストなど、ドス黒い天才たちに限って、殿下に惹きつけられてきた。それは、マイルス・デイヴィスも。

 マイルスが、この年下の天才をいかに敬愛していたかは、生前に残したプリンス評を見ればわかる。「ヤツは我々の時代のデューク・エリントンになり得る」。黒いジャズ・レジェンドが黒いジャズ・レジェンドを引き合いに出して語るのは、とりもなおさず最大級のリスペクトなのだから。

 さて、80年代後半の安定期、90年代前半の動乱期(所属レコード会社であるワーナーミュージックとモメた)から後は、自主インディー作品のリリースを基盤にワガママを貫いてきたプリンスだが、18年のブランクを経て古巣ワーナーに電撃リターン! 去る9月末、自己名義作に加えて、自らが率いるガールズ・バンド「プリンス&サードアイガール」のデビュー作も同日リリースという無茶なトゥーマッチぶりで、復帰劇を飾ったのだった。

 なお、殿下の音楽キャリア後半戦を彩る要素として欠かせないのは宗教だが……その話は、近日発売の『別冊サイゾー』にて。

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
老舗黒人音楽雑誌あらためウェブサイト『bmr』の編集長。サイゾーpremiumの記事「BIGBANGから〈出禁〉を喰らった音楽評論家……」のおかげで、むしろエイベックス内に支持者が増えた?

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