サイゾーpremium  > 連載  > 続・関東戎夷焼煮袋  > 【町田康】冷凍イカ焼が届く。いよいよ実食のとき……
連載
町田 康の「続・関東戎夷焼煮袋」第22回

【イカ焼】――冷凍イカ焼が届く。いよいよ実食のとき……

+お気に入りに追加

――上京して数十年、すっかり大坂人としての魂から乖離してしまった町田康が、大坂のソウルフードと向き合い、魂の回復を図る!

1409_machida_01.jpg
photo Machida Ko

 子供の頃はピンポンダッシュということをよくやった。見知らぬ他家の呼び鈴を押し、その家の人が出てくる前に脱兎のごとく駆け出して門前から逃走するのである。

 いったいなんのためにそんなことをしたのかというと、それは純粋に愉快だったからで、他意はまったくなかった。当時の元服前の子供はみんなやっていたのではないだろうか。やっていなかったのは、相当に高位な、まるで皇族のような階層の生まれの、育ちの良い子供か覇気のない子供くらいのものだろう。

 しかし、精神的な元服制度もなくなり、いいおっさんが子供向けのアニメや玩具に現を抜かすようになり、また、玄関モニターホンというものが普及して貧民の家にも装備されているような昨今、ピンポンダッシュはいよよ廃っていくだろう、と私は考えている。

 しかし、私の家にはいまなお頻繁にピンポンダッシュが出現する。といって、やっているのは元服前の子供ではなく、また、当人はピンポンダッシュをやっているつもりもないようで、ピンポンをした後、ダッシュをしないでゆっくりと立ち去っていく。

 なぜそんなことになるかと言うと、私の家が無駄に広いからで、誰かがピンポンと呼び鈴をならしてから応接に出るまで普通の家より倍ほども時間がかかる。その間に来訪者は留守と判断して立ち去ってしまうのである。そしてその来訪者というのが集金人の場合は都合が良いのだが、配達人である場合は困る。なぜなら配達物が受け取れないからである。

 そこでどうしたかというと、自分がダッシュした。つまり、ピンポンと鳴るや、玄関モニターホンの受話器めがけて全力で走っていく、いわば逆ピンポンダッシュをしたのである。

 しかしこれは生命の危険を伴った。なんとなれば玄関モニターホンの受話器は一階の長い廊下の半ばにあるが、日中、私は二階にいることが多く、ということは猛スピードで階段を駆け下りねばならぬということで、寄る年波で運動能力も衰えつつある昨今、そんなことをするうちにいつかかならず足を滑らせて転倒し、重傷を負うか、下手をしたら死亡するかもしれないからである。

 そこで私は逆ピンポンダッシュを啓蒙活動に切り替えた。

 どういうことかというと、ダッシュはけっしてしないのだけども、配達人が留守と判断して行きかけるのにちょうど間に合う程度に急いで行って受話器を取る、すなわち、ここの家は広いので応接に出るまで時間がかかる、ということを配達人が自ら理解するようにしむけるような活動に切り替えたのである。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2021年2月号

“男性学”のススメ

“男性学”のススメ
    • 【男らしさ】イメージの変遷
    • 男性学(基)【ブックガイド】
    • 【キリスト教】の男性優位主義
    • 女子が萌える【ラップ男子】
    • コロナ禍で始動【Zoomgals】
    • サンドウィッチマン【男同士のケア】
    • 【青柳翔】が語る“男らしさ”
    • オトコが乗る【軽自動車】
    • 【マンガ・アニメ】の軽自動車
    • 【ジャニーズ】男性アイドル像
    • 時代錯誤な【ジェンダー観】
    • 【サザエさん】は有害か?
    • 『サザエさん』の【初回】
    • 【井田裕隆】に聞くAV男優像
    • ポルノ視聴と【男性性の劣化】の関係
    • おじさんの【フェイスブック】
    • 【フェイスブック運営】側とのズレ
    • 育児特化の【ベビーテック】
    • 5秒でわかる【ベビーテック】
    • 【自民党】に根付く男尊女卑

「篠崎こころ」ラグジュアリーに魅せた麗しさ

「篠崎こころ」ラグジュアリーに魅せた麗しさ
    • 【篠崎こころ】召しませ #金髪ショー党

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 【岡田結実】バラエティの人気者はエゴサで成果を感じる
    • 【STUTS】人気トラックメイカーがラップに初挑戦!
    • 【土井裕泰】TBSのエースディレクターの問題作に迫る

連載

    • 【あまつまりな】流れに身を任せちゃうんです。
    • 【グレイテスト・ラウンドガール】に新メンバー!
    • あの素晴らしい【恵美】をもう一度
    • 【コロナと不況】21年に生き残る術
    • 【萱野稔人】ソロ社会化とコミュニティの変化
    • ありがとう、【小松の親分さん】
    • ワクチンがつくる【コロナ後の世界】
    • 【丸屋九兵衛】ショーン・コネリーを語る
    • 【町山智浩】「ストレンジ・フィーリング」カトリックの洗脳とオナニー
    • 【コロナ対策論議】の根本的欠如
    • 「謎」と「静」で振り返る【2020年】
    • 【小原真史】の「写真時評」
    • 【笹 公人】「念力事報」鬼狩りの時代
    • 【稲田豊史】「妻が口をきいてくれません」圧巻の“胸クソ”読後感
    • 【辛酸なめ子】の「佳子様偏愛採取録」
    • 【本場仕込み】のビールが飲める“リビングルーム”
    • 【更科修一郎】幽霊、批評家は文化的背教者なのか。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』